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クラスメイト

 安っぽい応接室から出るとミキミキちゃんが立って居た。


「ご主人様、こちらへ」


 ん?


「マキマキがお待ちです」


 え?

 ニコリと笑い俺を店内のテーブルへと案内するミキミキちゃん。

 その先に、制服姿のマキマキちゃん。

 メイド服では無く。

 学校帰りなのだろう。


「はーい。ヨッチ。まあ座って」

「え、何?」

「いやいやいや。

 花火大会の報告を、聞いて無いのですよ!」

「……ちょっと遠かったけど綺麗でした。以上」


 それだけ言って立ち去ろうとするが、風巻さんはそれを許さず。


「まあ、座って!」


 仕方なく彼女の向かいへと腰を掛ける。


「で、何か進展無いの?」

「無いよ。

 そう言う仲じゃ無いって言ったよね?」

「だって、アンコはなんか最近髪戻したり方向変えてるし?」


 金髪が黒髪に。

 案の定、新学期の教室はちょっとざわついた。


「ヨッチもオシャレしちゃってるし?」

「そう言う訳では無い」

「こりゃ、うん。

 おめでとうと一言言いたい訳で」

「いやいやいや。

 全くもってそんな事無いから」

「えーー!」


 何でそんなに気になるのだろう。


「そっちはどうなの?」

「え? 私? あー私ね。うん。振られちゃった」


 あっけらかんとした風巻さん。

 これ以上は地雷原か?


「えっと、話、それだけ?」

「え!?

 そうだけど、そうなんだけど!

 ちょっと今のは酷くない?

 あの胡散臭い執事に会いに来て、こう可愛いJKを適当にあしらうってどう言う事?」

「あー、さーせん」


 単に地雷を踏みたくないのだが。

 俺は椅子から立ち上がる。


「真っ直ぐ帰るの?」

「そのつもりだけど?」

「りょ。

 じゃ途中まで一緒だ」


 一緒に帰るつもり?

 まーじかー。

 一年半の高校生活で、女子と帰宅とか初めてだよ。

 しかも、他校の。

 ああ、あれか。失恋の痛手を優しく慰めて……。


 ドギマギする俺を見つめる目がある事にその時気がついた。

 さっきまでは、室内に居なかった人物。

 ドアベルの音はしなかった筈だけど。

 咄嗟に顔を伏せ、椅子に座りなおす。


「あれ?」


 バレた。

 俺と同じ制服姿の男が近寄って来る。


「確か……ミタテ、だよね?」


 バレた!

 と言うか、名前、知られてた!

 話した事無いのに!

 良いやつだな! 神かよ!?

 大里おおさと君。

 どっかのヴワァージンに爪の垢でも飲ませてやって欲しい。


「やー。奇遇」


 棒読みに近い返事を返す。


「誰?」


 風巻さんが小声で尋ねてくる。


「クラスメイト」


 それに小声で答える。


「て事は、アンコも?」


 問われ頷く。


「……彼女さん?」

「違うよ!」


 大里君の問いかけに食い気味に、全力で否定する風巻さん。

 別に可笑しいことなど何一つも無いのだが少し悲しいのはどうしてだろう。


「えっと、良く来るの?」

「常連さんだよね!」


 ……嘘だろ!?

 大里君の問いかけに何故か返答するのは風巻さん。


「いや、そんなにしょっちゅうは来てない……」

「でも何回かは来てるのか」


 大里君が爽やかに笑いながら言う。

 オワタ。

 明日から教室でヒソヒソと後ろ指を指されるのだ。

 ……いや!


「大里君は、どうして?」


 狙いはアリサちゃんか?

 ミキミキちゃんか?

 お前も、常連なんだろ?

 そうであってくれ!


「ここの執事の人、有名人なんだよ」


 やっぱり、ショニンか。


「へー。そうなんだ。

 あの人が」


 ニヤケ笑いを浮かべながら店の隅に佇む執事長の方へ目を向ける。

 こちらに気付きわざとらしく会釈する執事長。


「凄いんだ。

 G PlayのSランクなんだよ」

「へー」


 少し興奮気味に大里君が言う。


「座る?」

「あ。どうも」


 何故椅子を勧めるのだ?

 風巻さんよ。


「G Play、やってるの?」


 まあ、この流れだと聞かないと不味いよな。


「うん、そう。夏休みにちょっとね。

 で、色々調べてたらここで色々買えるってわかるって。

 情報とか、アイテムとか」


 でも、お高いんでしょ?

 執事長の方を見やる。

 わざとらしく眉を上げるショニン。


「危ないんでしょ?

 気をつけてね」

「まあ、何とかやってくよ。結構、楽しいんだよ?」


 他にもこう言う奴がクラスに居るのだろうか。


「危なくなったらヨッチが助けに行けば良いよね」

「「え!?」」


 何気なく言った風巻さんの一言。

 俺と大里君の驚きの声が被る。


 何でそんな事言っちゃうの?

 と言う俺の驚き。

 こいつもプレイヤーなのか?

 と言う大里君の驚き。

 多分。


「行ける訳ないじゃ無いか。

 何言ってんだよ。風巻さん」


 ははははー、と棒読みで誤魔化す。


「でも、アンコ助けに行ったじゃん!」


 超ドヤ顔で言い放つ風巻さん。

 その口を物理的に塞いでやりたい!

 口止めしなかった俺も悪いけどさぁ!!


「ランクだってAでしょ?」

「オッケ。風巻さん、ちょっと喋り過ぎだな。

 誰がそんな嘘を言ってたんだろ?」


 ランキングは公開されているが、俺の登録名を風巻さんに教えた事は無い。


「アンコ。

 ランキング見せてもらったよ?」


 だと思ったよ!

 他に居ないもんな!


「アイツ、何か勘違いしてんだよ」

「してないよ。

 黒武士ライチでしょ?」

「マジでか!?」


 大里君が大声を上げる。


「ご主人様。

 他のお客様も見えられますので、そう言った話は別室でいかがでしょう?」


 音もなく寄って来たニヤケ顔の執事長。


 クッソ。

 とっとと帰れば良かった!


 ――――――――


 御楯頼知〉お願い、黙ってて


 ――――――――


 スキを見て、それだけ風巻さんに送る。


 無言で彼女が了解と敬礼をする。



 で、結局応接室に四人。

 何でこんな事になったんだ?


「マジでランクA?

 黒武士のライチ?」


 興奮冷めやらぬ大里君。

 渋々頷く。


「だから、この店の常連なのか!」

「いや、そう言う訳では無いけど」


 胡散臭い執事なんて興味ないのだ。

 そもそも、何で執事やってんだろう。

 つーか、もう少しマシな渾名は無かったのか。

 何の捻りも無い。

 付けた奴はきっと胡散臭い情報屋だろうな。


「すごいな。

 こんな身近に居たなんて。

 色々話を聞かせてよ」

「いや、言わない」


 興奮する大里君に首を横に振りながら答える。


「情報はタダじゃ無いからね」


 執事が言う。

 それにも俺は首を横に振る。


「そう言う事じゃ無い。

 俺の情報は全て正しいとは限らない。

 そんな不確かな情報を信じて死なれては困る」


 本音半分。

 残りの半分、守秘義務の事は伏せる。


「真面目だね。

 情報の取捨選択は自己責任じゃ無いかい?」

「一義的にはそう。

 でも、そう簡単に割り切れないだろ? きっと。

 あの野郎、ウソ教えやがって!

 そう恨みを抱きながら死ぬんだよ」


 そして、それはマガへと変わりうる。


「だから、俺は教えないし、知り合いから情報は取らない」


 それで生き残れているんだから、俺にはその方が向いて居るんだろう。


「死んだ奴に恨まれても何にも怖い事ないけどなぁ」


 アンタはそうだろうよ。

 一体何人殺してるんだか。


「そう言う訳で、力になれるような事は無いし、なるつもりも無い。

 学校で騒がれるのも面倒だから、これは秘密と言う事で」


 の筈なんだけど、夏実にタブレット見せたのは、何でだっけか。


「そうなのかぁ」

「ま、脅すつもりは無いけど向こうでの出来事に起因したトラブルとかも起きてるからね。

 あんまり大っぴらに言いふらさない方が良いよね」

「……ここで大っぴらに商売してるアンタが言うのか?」


 どの口が。


「別に大っぴらにはしてないよ。

 連絡先教えてるのは可愛い子だけだし。

 だから、本来君らは招かれざる客なんだよ」

「そもそも、この店に最初に招待したのが俺な訳だが」

「その切っ掛けを与えたのが私です!

 なので時給アップよろー」


 何故、そこで給料交渉をするのだ?

 風巻さんよ。


「……仕方無いな。50円ね」


 上がった!?

 どうなってんだ?

 この店。

 横で小さくガッツポーズをする風巻さん。


「大里君はどうやってこの店に?」

「夏実に聞いたんだけど?」


 ……え?

 呼び捨て?

 いや、違う。驚くところはそこではない。

 何でアイツが?


「夏実。夏実杏。

 クラスメイトの、この前まで金髪だった」


 それは、知ってる。


「……仲、良いの?」


 そう問う俺の足を何故か風巻さんが踏みつける。


「いや、普通だけど?

 スマホでG Play調べてたらここを教えてくれた」

「あっそう」


 普通って、何だろうね。


「まあ、無理はしないで慎重に。

 石橋を誰かに叩かせるくらいが丁度良いと思う。

 頑張ってね」

「成る程ね。

 それがランカーの秘訣か」


 だろうね。

 結局、大事なのは生き残る事なのだから。


「結局、命あっての物種だからね」


 胡散臭い執事長が話をまとめる。


 これで一件落着。

 そんな風に考えた俺は実に浅はかだった。

 後日、そう思い知らされるのだ。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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