利用し利用され①
「はい、チーズ。
あ、ちょっと待って」
スマホを向けられ、キメ顔をしたまま放置されると言う高度な嫌がらせ。
俺、なんか悪い事しただろうか。
「ごめんごめん。
もう一回!
はい、チーズ!」
マキマキちゃんのスマホからシャッター音がする。
画面を見て、小さく鼻で笑うマキマキちゃん。
……失礼だからな?
「オッケー。
ちょっとまってねー」
彼女が俺の隣に座り、スマホをテーブルの上に置く。
スマホの画面の中で砂時計が回転し、プログラムの処理待ちである事を伝える。
「出た!」
その画面に、『上野侑斗 似てるかも 62%』と言う文字が。
「あー!
あー?」
納得の後に、疑問形の声を上げるマキマキちゃん。
「誰々ー?」
「上野侑斗だって」
わらわらと、寄って来るメイド達。
ミキミキちゃんとアリスちゃん。
「ほー?」
二人が目を細め俺を見る。
「あー!」
「似てる! 微っ妙に!」
「何て言うの? 上野侑斗のガラを悪くして陰キャにした感じ?」
「そうそう!」
褒められてはいないのだろうな。
マキマキちゃんが試したのは、写真から似ている有名人を教えてくれると言うアプリ。
それによると俺は上野侑斗と言う、アラフォー俳優のそっくりさんらしい。
昔はイケメン俳優の括りに入っていたらしいが。
キメ顔をメイド三人に向ける。
「……言うほど似てないかな?」
「まあ、親戚ぐらい?」
「まず髪を切りましょうか。ご主人様」
この言われようである。
「何か盛り上がってるね」
執事服に身を包んだ男が現れる。
カフェ・アンキラ、執事長金子ことショニンである。
なんか、ここの共同オーナーになったらしい。
「これ、どう思います?」
ミキミキちゃんが診断結果をショニンに見せる。
画面には上野氏と俺の顔。
「あー! 確かに」
「似てます?」
「微妙じゃないですか?」
「これ、写真が悪いよ。
最近のじゃない?」
そう言いながらショニンは自分のスマホをいじる。
そして、一枚の画像を表示する。
そこにはマキマキちゃんのスマホより随分と若い上野氏の画像。
「ほら。似てるじゃん?」
「「「おー」」」
三人同時に感嘆の声が上がる。
「こう見るとまるで親子だね。隠し子?」
そう言って執事がニヤリとする。
そんな事ある訳無いのだけれど。
だが、その若い俳優の顔に見覚えがある気がした。
「これって、ボクサーブラック?」
「そう!」
特撮ヒーロー、グラップレンジャー。
俺が子供の頃、日曜朝にやっていた番組。
レスラーレッド、カンフーブルー、ボクサーブラック、スモウイエロー、ムエタイピンク。
そして、ヤワラゴールド、カラテシルバー。
肉体を武器に地球を守る正義の格闘家達の物語。
守れ! 地球!
守れ! ルール!
心はいつも金メダル!
懐かしい。
そうか、この人がこの役をやっていたのか。
「多分この後、顔いじったんじゃ無いかな」
そう言いながら、ショニンは画像を何枚か並べる。
その中に、ボクサーブラックも。
「あ、知ってる。これ」
マキマキちゃんがボクサーブラックを指差す。
「へー。女の子が珍しいね」
「アンコが好きだったの。初恋の人だって!」
特撮のヒーローが初恋の人。
実に微笑ましい。
「それでボクシング始めたの?」
「え? どうだったかな? それは違うかも」
「さ、そろそろ開店の準備を始めてくれるかな。
君はこっちへ」
「はい」
◆
ショニンに連れられ、物置を改装したと言う怪しい小部屋へ。
ソファセットと、小さなテーブル。
「ここで、メイドさんに手を出す訳ですか?」
「そうしたいのは山々なんだけど、誰も来たがらないんだよね」
冗談のつもりだったのだが、ぬらりと躱される。
「で、何が欲しいの?」
「この前の籠手が片方壊れたので、出来れば同等の物を」
「高いよ?」
「……幾らですか?」
ショニンが指を二本立てる。
二……十万か?
「二百万円」
「高いな」
売る気が無いのでは無いか?
「情報で手を打つよ」
成る程。
「それは、アンタの裏に誰がいるか次第かな」
勝手に情報を流してはレアーに文句を言われる。
俺の言葉にショニンは肩を竦める。
「そう言えば、メールでの商談も嫌がってたね。
ひょっとして、通信は全部G社が監視してるとか言っちゃうタイプ?」
問われ今度は俺が肩を竦める。
俺の通信は全部バレバレなんだよ。
レアーは余程暇なのだろうな。
「情報の件は、少し考えます」
命には変えられない。
だが、せめてハナに相談してからにしよう。
「あ、あと飴玉とか無いですか?」
「飴? ……飴かあ。
時間はかかるかもしれないけど用立てようか」
「楽しみにしておきます」
こうして、得るものが無い商談が終わった。