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直毘・御楯風果①

 夏休みの課題は、やれば終わる。

 去年知った事実。


 来年はひょっとしたら、課題の勉強どころでは無いかもしれないが、ひとまず今年の残り二週間は自由だ。


 G社のインターンと言う身分を最大限に利用して閲覧したレポートから、ここ数日、蝉人間の発生が減少傾向にあると言う結論に達した俺は再び異世界へ。

 目的は風果との再会だが、まあ、それは出来なくても別に良い。


『Have a good trip!』

「Thank you」


 相も変わらず悪趣味な挨拶に送られる。


 ◆


 下り立った異世界。

 周囲に敵がいない事を確認して直ぐに荷物を調べる。


 ……あった。

 御織札ごしきふだ

 『二』の神代文字にミタテの一文字。

 やっぱり、こっそりと忍ばせて居たか。

 全く、油断も隙もあったもんじゃない。


「天地・東西南北

 夜舞やまい、かれ

 死舞しまい、荒神あらが

 唱、拾玖(じゅうく) 鎮ノ祓(しずめのはらい) 六合封緘(りくごうふうかん)


 と。

 これで良い。


 これを忍び込ませた風果と会うのは今ここでは無い。


 じゃ、行くかな。


 夏の間に終わるかどうか。

 目指すはあの瘴気の洞窟。

 何故、風果はあそこへ御織札を埋めたのか。

 それを聞き出さねば。

 出来れば、あそこで。


 ◆


 様々な世界。

 一年前と比べ明らかに変化がある。

 赤ののぼりを掲げる商売人が増えた事。

 そして、いつの間にかランクがAに上がり、俺の名を知る人が増えた事。


 そのお陰で多少まともな食料などが手に入る。


 オフィシャルスクールで教えるべきはこう言う食料調達、加工の知識だろうか。

 いや、それは中級者向けのプログラムだな。

 まずは、戦って生きる事が優先。


 ……そんな事、俺が気にする事では無いか。


 G Play関連法案に改正の動きがあるとハナがわざとらしく耳に入れて来たのは少し気にはなるけれど。




 そうして、十日程異世界を歩き回る。


 ◆


 下り立った見覚えのある洞窟。

 ここだ。

 記憶が間違って居なければ。


 しかし、実験の時と降り立つ場所が違った。

 似た洞窟なだけだろうか。


 すっかり蝉人間の発生も無くなった洞窟を下る。


 ……立ち込める瘴気。

 それを確認して引き返す。

 ならば反対に、門があるはずだ


 そして、それは目論見通りに。


 なら後は妹の登場を待とう。

 御織札の封を開け地に置き、干し肉を齧りながら待つ。

 念の為、気配は遮断して。


 待ち合わせの直前まで連絡を取り合えるスマホは便利だななどと思いながら、そもそも約束のない待ち人が現れるのをじっと待つ。

 来る当てのない人を待つ。

 なんか、不毛だな。

 というか、待ち伏せとか、ストーカー一歩手前でないか?

 ……いや、風果は俺が居ることを承知で飛んで来るのだろうから、ストーカー行為では無いか。


 静かな穴蔵の中で一人じっと息を潜める。

 ……GAIA、この世界は何だろう。

 洞窟、かと思えば建造物の中であったり、屋外であったり地下空間であったり。

 ハナの言葉を信じるならば、独自の世界を構成するためのソフトウェア。

 最も、ゼロ、無から何かを作り出したのではなく模倣した教師データが存在するだろう。

 だから、どこか作り物の様な既視感のある世界ばかりなのでは……?

 だとすると、我々が訪れているのは全てGAIAの作り上げた虚構の世界の中。

 GAIAの胎内。

 異世界などではなく、架空の、ホログラムのような物。

 しかし、人が行って戻ってこない。

 これは事実だ。

 彼らは何処へ?

 光ケーブルで繋がった先の基盤の中に、人を取り込むだけのスペースがあるとでも?


 それに。


 そっと左目に手を添える。


 この体が変化しているのも……事実。

 そして、御楯風果と言う存在も。

 彼女は、誰だ?

 どうして俺と同じ知識を持っている?

 それは、彼女が本物の御楯風果である事の証左…………本物って何だ?


 答えは出ない。


 彼女がその答えを持っているなどとは思っていない。


 ただ、彼女は退魔師……直毘なおびなのだ。

 おそらく俺と同じように、そう有りたいと願った。


 平行世界パラレルワールド

 何ら、根拠は無い。

 だが、思う。

 彼女は、別世界の俺なのではないか?

 そして彼女の持つ設定ノートの中には、御楯頼知と言う忌むべき存在が記されている。


 決して重なることにない、並行の世界をつなぐ……はざまの世界、GAIA。


 些か、想像の羽を広げすぎだろうか。


 GAIA……ガイア……害悪ガイア

 害悪ガイア

 それは陰であり災禍サイカの種。

 直毘ナオビが祓うマガの根源。

 陽である嘉弥ヨミと表裏を成す概念。

 即ち、世界の半面。


 俺が、ノートに記した設定。


 そんな取り留めのない思考を停止させるように舞う一陣の風。

 芍薬の様に立つ風果がそこに。

 鋭い視線で周囲を見渡し、そして、自らの足元に埋められた御識札を拾い上げ確認する。


「……お兄様?」


 ゆっくりと声を上げた彼女の前に、術を解いて姿を現す。


「お茶と、コーヒー。

 どっちが良い?

 まあ、どちらも大した味では無いけれど」

「……では、コーヒーを頂戴できますか?」

「しばし、お待ちを」

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