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異世界での出会い②

 その一歩を踏み出す前に……人影が立ちはだかった。


「ーーーーーーーーー!!」


 槍を手にした大男が強い口調で俺に怒鳴りつけた。

 穂先を俺に向け。


 思わず両手を上に上げる。


「へ、ヘルプ」


 金髪碧眼、髭面の大男。

 言葉は多分英語だった。

 だからだろう。

 そう、口にして居た。


「ーーーーーーーーー?」


 相変わらず穂先をこちらに向けたまま、その男が若干戸惑いの表情を浮かべ何かを尋ねて来た、様に思う。


 しかし、聞き取れず首をかしげる。


「Chinese?」


 男はゆっくりと、そう言った。


「ノー。ジャパニーズ。ジャパニーズ、ハイスクールスチューデント」


 と、必死に答える。

 直後、腹が……鳴った。


「…………Come on」


 その、出来過ぎたタイミングの出来過ぎた出来事に気を削がれたのか男は槍を下げ、俺を手招きする。

 俺は素直について行く事にした。


 その男は鎧の様な物を身にまとい、そして、腰から鉈の様な物をぶら下げていた。

 一目でこの世界に精通している事が見て取れ、戦ってもとても勝てそうにはなかった。


 ◆


 警戒しながらついて行く俺の前を悠然と歩く男。

 時折足を止め周囲を警戒する様に目を向ける。

 俺には何が起きているのかさっぱりだが。


 そんな中、足を止め槍で洞窟の壁を指しながら言う。

 そこには横道がポッカリと口を開けて居た。


「Do not enter」


 ……ノットだから……入るなと言う事か。


「ホワイ?」

「Danger」


 そう、一言返される。

 デンジャー。危険、か。

 横穴を覗き込むが暗い道が奥へと続いているだけ。罠でもあるのか?



 やがて、洞窟は開けた場所へと至る。


 そこには地底湖が広がり、そして壁の一角に雑多に大量の物が置かれている。

 何かの骨とか皮とかそんな物と、それから、不揃いな木材。


「House」


 と、男が教えてくれた。

 住んでるのか。


 屋根すら無いその男の自宅へ招かれる。

 そして、木の枝を積み上げ手早く火をおこす様を目の当たりにする。

 ……何ら道具を使わずに。ただ一言「Fire」と呟いただけで。

 魔法!

 思わず、「ファイヤ」と真似して見たが何も起きず。

 ニヤッと笑いノンノンと言った風に人差し指を振る仕草。

 何だろう。発音が悪いのかな。

 首を傾げる俺の横で男は火で何かを炙り始める。

 直ぐに香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

 そのまま、それを俺に差し出す。


 食えと、そういう事だろう。


「ホワッツ?」


 受け取りながら尋ねる。

 何の肉だろうか。


「Dragon」


 ドラゴン……?

 食えるのだろうかと怪訝に思うと、男が自ら同じものを先に口に運ぶ。

 そして、美味そうに食ってみせる。


 俺も空腹を訴える体には勝てず恐る恐る口に……。

 そして、暫く咀嚼する。



 良く言えば噛みごたえがある、素材の旨味を活かした干し肉。

 素直に言えば、固くて大して味のしない臭い何か。

 飲み込む時に、軽くえずく。


 それでも、必死に飲み込み腹に収める。

 異世界での初めての食事は涙混じりの物となった。


 その後、土器の様な素焼きの器で出されたお茶の様な飲み物も、控えめに言って不味かった。

 あまりの不味さに、地底湖の水をそのまま飲もうとしたら烈火の如く止められた。


 ともあれ、空腹と喉の渇きは癒やされた。


 そして、俺を救ってくれたであろう男とのたどたどしいコミュニケーションが始まる。

 英語なんてさ、翻訳アプリあれば事足りるんだよ。

 と、改めて文明のありがたみを思い知らされる。


「あー、アイム、ライチ。フーアーユー?」


 彼も俺とコミュニケーションを取ろうと努力してくれたのだろう。


 彼は自分をヨークと名乗り、U.S.Aの軍人でデビルドッグだ、ここに来て一年近くになると、そう言った。

 おそらく。


 そして、俺が最も聞きたかった事の答えがこうだった。


「ウェア アー …… ストーン オブジェクト?」


 と、石碑の場所を身振りを交え尋ねる。


「……Gate?」

「イエス!」


 大げさに首を縦に振る。門。そう。門だ。

 それに対し、彼は一言「Missing」と首を横に振った。


 ……無い? 見つからない? 無くなった?

 その答えの正確なところは分からなかったが、背筋に薄ら寒いものを感じた。


 ◆


 帰れない。

 その事は、俺に取ってやはり衝撃であった。

 前回殺されそうになった恐怖は時間と共に薄れ、画面越しに伝えられる『G play』の危険性は他人事の様に思っていたのだから尚更。


 しかし、気落ちする俺にヨークはとても親切にしてくれた。


 こちらのたどたどしい英語を丁寧に耳を傾け、俺にわかるように簡単な単語で聞き返す。

 それに身振り手振りを交えた、不完全なコミュニケーション。

 だが、彼は辛抱強く意思疎通を試みてくれた。


 そして、彼の家に積まれていた革の様な物。

 それで俺の服をこしらえてくれた。

 黒のパンツに簡単な貫頭衣であったが、それでも十分だった。

 更には、素材が手に入ったら鎧を作ろうとそう言ってくれた。

 それと、サンダル。

 後に知ったことだが、ワラーチと呼ばれる足首まで紐で固定するタイプのもの。

 これは地肌剥き出しの洞窟を移動するのにとても有難かった。



 更に彼は、この世界での生き方、戦い方を実践して見せた。


 スライムは、打撃や刃物が効きづらいから、『魔法』の出番だ、とか、昆虫のような魔物は表皮が硬いから関節の隙間を狙うか柔らかい部位を探せ、とか、リザードマンは武器を手にした油断ならない相手だから慎重に叩け、時には逃げろ、だとか。


 そうした戦い方と、そして、倒した獲物のその後の処理、つまりは解体。

 皮を剥げば革として素材に変わるし、肉は食料になる。

 そして、骨すらも使おうと思えば武器になる。事実、ヨークは何かの骨で出来た槍と鉈を武器にしていて、それは、リザードマンやゴブリンの持つ粗末な金属製のものよりもずっと強力だった。


 これは、後に調べた事であるが、現実だと動物の皮は剥いだ後に入念な後処理をしなければならないのだが、こちらではそれよりもずっと容易く解体して、加工することが出来た。

 試みて、十回を数えない程度で俺が一人でこなせるようになるくらいには。



 他にも、獲物を倒すことが食事代わりなるとか、睡眠は必要ないとかいったこの世界でのことわりと言うような物を彼は実践を通して俺に学ばせた。

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