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招待状②

 土……いや、岩だな。

 薄暗い洞窟。

 前後に伸びる道。

 僅かに光るのは……鉱石だろうか。

 湿り気を帯びた岩肌。

 敵の気配は無い。


 転移は……成功したか。

 いや、無事に帰るまで成功とは言えない。


 耳を澄ます。

 ペタペタと何かが動く音。

 ……おそらく二本足。


 俺は腰に手を回し、烏墨丸を抜き放つ。


 まとわり付くような湿気と暑さが不快だ。


 ◆



「暮れない夜

 怠惰なる夢を夢と為せ

 羽落ちるその束の間

 唱、拾陸(じゅうろく) 壊ノ祓(かいのはらい) 赤千鳥(あかちどり)


 放たれた術が真っ直ぐに敵へと向かい行き、地より這い出て来た六本足の化け物へ風穴をあける。

 同時に左手に巻いた白布が崩壊を始める。

 ……これで四本。

 十二時間経過した。

 現実は日付が変わったか。


 洞窟を下へ、下へと下って来たが帰りの門は未だ見えず。


 いや、焦るな。


 まだ洞窟は続く。

 敵も居る。

 休まなくてもマナは足りる。



「創造する手・無の化身

 紡ぐ、縦横に

 拒絶する柔らかな結界

 唱、(さん) 現ノ呪(うつつのまじない) 白縛布(はくばくふ)


 まだ70時間以上猶予がある。

 地の下から這い出し始めた敵を、その前に頭を一刀でかち割り先へ進む。


 それから、布が追加で三本。

 丸、二十四時間。


 俺は洞窟の最下層、行き止まりへと到達し舌打ちをする。


 何も無い。


 道を間違えた。


 最初の二択。

 前か後ろか。

 その選択を誤って居た様だ。


 少し、休もう。


 腰を下ろし、岩壁にもたれかかる。


「唱、漆拾弐(しちじゅうに) 鼓ノ禊(つつみのみそぎ) 神匸(かみかくし)


 気配を断つ。

 これで敵に襲われる事は無い。


 しかし……敵が多いな。

 地の下から這い出て来る人型の化け物。

 のっぺりとしたフォルムに四本の手。

 二本の足。

 顔の割に大きな目。

 緩慢な動きで脅威では無いのだが数が多い。

 それも、時間と共に増えて居る様な気がする。


 ……遠く、洞窟の先から異音が聞こえた気がした。

 いや、耳鳴りだろうか。

 疲れているのかもしれない。


 また現れた化け物を眺めながら、微かな音の正体を探る。

 化け物は、術で覆い隠された俺の気配に気付かず、そのまま壁へとよじ登り張り付き動きを止める。


 ……何してんだ? 休憩か?


 同じ様に次々と這い出て来ては壁に張り付く化け物共。


 やがて、最初の一体に変化が。

 その体の頂点から背にかけて一筋、切れ目が入る。

 中から白い体が覗く。

 それは、ゆっくりと切れ目から外へとせり出して来て……羽化か!


 不味い!


 すぐ様、その首を刎ね落とす。


 洞窟内では、そこかしこで羽化が始まって居る。


 この光景……蝉……そう、大量発生する周期蝉の様だ。


「憎悪、怠惰、即ち影、外道

 飲み込み焼き払い

 天へ還る

 別れ身はそして一つに

 唱、陸拾壱(ろくじゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 狩遊緋翔(かりゅうひしょう)


 呼び声と共に洞窟内を業火が埋め尽くし、俺の前方へと走り抜けていく。

 壁に張り付いた化け物を、悉く燃やし尽くし。


 その後を追って走る。

 もし、これが周期蝉の様な物なら、まだ際限なく増えるんじゃ無いか?


 その想像に、少し寒気を覚える。


「混沌の主、君臨する者

 その全ては戯れ

 望みのままに。ただ、望みのままに

 唱、弐拾捌(にじゅうはち) 現ノ呪(うつつのまじない) 双式姫(にしきのひめ)


 風止まる静寂

 溢れる鬼灯

 涙は涸れ、怨嗟は廻る

 唱、(はち) 現ノ呪(うつつのまじない) 首凪姫(くびなぎひめ)


 更に。


「分かつ者

 断絶の境界

 三位さんみ現身うつしみはやがて微笑む

 唱、拾参(じゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 水鏡(みずかがみ)


 実姫まで呼んだら流石に五月蝿いか。


 ひとまずこれで突き進もう。

 術が焦がした地面からまた化け物の頭が生えて来る。

 それを陽光一文字で切り落とし走る。





 不快な音が更に大きくなった気がする。


 これは、耳鳴りでは無いな。


 では何だ?

 蝉の鳴き声……?


 その懸念は、正解だった。

 進むにつれ、大きくなる音。

 羽化した蝉もどきの発する不快な音。


「零れ落ちる……「「「「ジジジジジジジ」」」」


 チッ。

 術が、言霊が掻き消された。


 洞窟内に溢れる化け物。

 そいつらから発せられ、反響する鳴き声。


 言葉を力とする俺と限りなく相性が悪い。

 辛うじて刀二本と意志を持つ盾。

 それだけが頼り。


 大丈夫。

 敵を切り続けて居るうちは死なない。

 もはや時間の感覚すらわからないが、阻む敵を押し退けながら来た道を戻って行く。

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