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招待状①

 七月の最終日、渋谷桜丘町。

 2020年台前半の再開発によって生まれた高層ビル。

 その五階から最上階の三十六階までがG社及びその関連企業のオフィスだという。


 その五階にある総合受付の前で、ハナと二人、夏実を待つ。

 首からインターンと書かれてG社のIDカードをぶら下げて。


 インターンの先輩としてそれらしく振る舞え。

 本日のハナの指令。


 つまりこれから来る夏実を騙す訳だ。

 心が痛い。

 そう言えば、夏実の腹痛は治まっただろうか。

 まあ、あれから一週間以上経ってるからな。


「おはようございます」


 白ブラウスの小奇麗な格好をした夏美が現れる。


 よ、と声に出さずに右手と口だけで挨拶。


「ようこそ。G社へ」


 当事者なのか、本当は部外者なのか定かでない横の女が、百点満点の営業スマイルで応対する。


 ◆


 見学と言ってもオフィススペースは立入禁止。

 勝手に登録されていた顔認証の入館ゲートを通り、そして、最上階にある社員食堂へ。

 まだ昼前ではあるが既に食事をする人の姿が。

 傍らでラップトップを開いている辺り流石はIT企業と言うべきか。

 そして、白人黒人の姿があり英会話が飛び交っている辺り、流石は多国籍企業と言うべきか。


 ともあれ、遠くに富士山が望める窓際で無料とは思えない豪華なビュッフェを堪能し、一般解放をしているというコワーキングスペースやイベントスペースなどを案内。

 最も俺は先輩社員として、ハナが夏実を案内する一歩後ろを常に歩いて居ただけだが。


 帰りはハナが送ってくれるのだろうか。

 それとも電車で二人で帰るのだろうか。


 そんな疑問を持ちながら、エレベーターで受付階まで下る。


 そして、入館ゲートの外へ。


「今日はありがとうございました!」

「食堂だったらいつでも入って良いから。

 でも二十二時以降はアンの権限だと入館できないからそれだけ気をつけてね」

「そんな遅くまで出歩きませんよ」


 そうそう。

 我々は、高校生なのだから。

 終電逃して途方にくれるなど、本来無いはずなのだ。


「じゃ、またこまめに連絡するわ」

「はい。今日はありがとうございました」


 さて帰ろう。

 深々と頭を下げる夏実の方へと歩み寄る。

 が、ハナに呼び止められる。


「ヨリチカは、ミーティングよ?」

「……え?」

「スケジュール、ちゃんと確認しなさい?」


 営業スマイルを浮かべたハナ。

 しかし、目は笑ってない。


「じゃ、私帰るね」


 夏実はそう言って一人去っていく。


「なんすか? ミーティングって」

「場所を変える」


 俺の疑問にハナは真顔に戻り言い放つ。


 ◆


 レアーの会議室。

 テーブルを挟んで向かいに座るハナ。

 そして、俺の前に一台のスマホ。


「あの男からのプレゼント。

 受け取るかどうかは貴方の判断に任せる」

「どういうことですか?」


 G社製のスマホ。

 起動している待ち受け画面の中にG Playのロゴが描かれたアプリのアイコンが一つ。

 それに指を伸ばす。


「アプリに触るな」


 すぐさまハナに鋭く言われ、俺は手にしたそのスマホをそっとテーブルの上に戻す。


「十日前に、全世界に向けて公開されたG社の公式アプリ」

「へー」

「ただし、誰が作り、そして公開したのかはわからない」

「……は?」

「事態に気付いたG社側は即座に配信を停止。

 その間、およそ四秒」

「早ぇ。

 ハッキングでもされたんですか?」


 正確にはクラッキングと言うべきか。

 まあ、どちらでも意味は通じる。

 しかし、そんな甘いセキュリティの訳ない。

 超凄腕のスーパーハカー?


「その四秒の間にダウンロードされた件数、千二十八。

 内、千二十五端末分はアプリの起動前にリモートで削除に成功。

 残りの三端末についてはアプリの起動が確認され、その端末の所有者と連絡が取れていない」

「は?」

「G社はアプリのリバースエンジニアリングを試みるも、完全な解析には至らず。

 結果として、この件は無かったことになった。

 アプリが公開された記録も、そのアプリのソースも何もかもが破棄された」

「えっと、三人……は?」

「行方不明」

「つまり、誰かがG Playのアプリ版を公開して、それで三人犠牲になった……?」

「誰がやったかの見当はついてるわ」

「誰ですか?」

「GAIAよ」

「……怪談話ですか?」


 もしくは、出来の悪い都市伝説。

 そして、何故か破棄されたはずのアプリが目の前にあるのだが。


「我々としては、これが本当にG Playにつながっているのかを検証したい」

「あの研究者に行かせれば良いじゃないですか」

「本人は喜び勇んで立候補したわ。でも周りが止めた」

「どうしてですか?」

「今死なれると困るからじゃない?」

「つまり、死んでも良い奴に検証させろ、と」

「生きて情報を持ち帰れる人材を選んだつもりだけど?」


 物は言い様だ。

 白羽の矢で射抜かれた訳だよ。


「もし、本物ならこれ、公開するんですか?」

「まさか。端末ごと粉砕するわよ」

「どうしてですか?」


 ハナは背もたれに寄り掛かりながら答える。


「人が消えるアプリ」


 ああ……そんなもの出回ったら大混乱だ。

 誰かを無理やり送ることも出来るし、逆に犯罪の逃走にも使える。

 大統領暗殺も絵空事ではない。


「これ、飛んで戻ったら何処に出るのです?」

「わからない。

 端末のところか、それともとんだ場所に戻るのか。

 そのどちらかだろうと言う意見が多数だが、他の可能性もあるかもしれない。

 何せ、戻った者が居ないのだから」


 もし、端末の場所に戻るのならば、それは……人類の新たな可能性と恐怖の幕開けか。

 端末一つで何処へでも行けるし、隠された端末から人が現れる事に怯えねばならない。

 まあ、異世界から生きて戻ると言う条件付きではあるが。


「どうする?

 強制はしない。

 ただ、そうね。

 貴方が居なくなったら、私がその端末を所持して保管することになる。

 やりようによっては、私の部屋に強襲することも可能ね」

「……やります」

「そう。

 なら夜はベッドサイドに置いて寝ることにするわ」


 笑みを浮かべながらハナが答える。

 一体どこまで本気なのか。

 別にそんなハナの提案に下心を刺激された訳ではない。


 ただ、GAIA。

 地母神の名を冠した正体不明のシステムが、これを寄越した。

 つまり呼んでいるのだ。

 何を?

 ……助けを。


 突飛な発想。

 何ら根拠はない。

 ただ、そう考えると、行ったほうが良いんじゃないかと思え。

 一度そう思うと、もう、これは俺を呼んでいるんだと、そう言う結論にしか行き着かないのだ。

 勝手で短絡的な話だと自分でも思うが。


「一度帰って準備する?」

「いえ、このまま行きます。

 下の専用スペースで良いんですよね?」


 八月三日には何が何でもこちらに居なければならない。その為に時間は惜しい。

 インターハイの個人弓道がその日に。

 その翌日から三日間、団体戦の予選そして、決勝が行われるのだから。


「いいえ。ここで。

 一度移動に使ったことがある場所。

 それは避けたい」


 なるほど。


「じゃ、すぐ行きます」

「……気をつけなさい」

「はい」


 俺は、スマホに手を伸ばしアプリを起動する。

 画面が一杯に黒い画面が表示され辛うじて『Welcome』と言う文字が見えた所で全身を違和感に包まれた。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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