ステーキハウス①
昨日も熱帯夜で若干寝不足だ!
蝉が五月蝿い!
太陽はアホみたいに元気にアスファルトを焼く!
はぁ……気が重い。
待ち人を待ちながら、メッセージのログを見返す。
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なつみかん>連絡ちょうだい
御楯頼知>今見た。
御楯頼知>何?
なつみかん>遅くね?
御楯頼知>あっち行ってた
なつみかん>今どこ?
御楯頼知>家
なつみかん>おかしくね?
御楯頼知>何か用?
なつみかん>13時町田集合
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集合って……俺の予定は?
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なつみかん>予定あるの?
御楯頼知>無い
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さも当然の様に言いやがって
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なつみかん>ご飯は食べないで
御楯頼知>何で?
なつみかん>食べに行くから
御楯頼知>わかった
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あれ?
デート?
あれ?
こう言う場合、男が出すべき?
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なつみかん>ふうかちゃんも連れて来ていいよ
なつみかん>と言うか連れて来て
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そう来たか。
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御楯頼知>無理
なつみかん>何で?
御楯頼知>居ないから
なつみかん>あ、そう
なつみかん>残念
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そう。
残念なのだよ……。
これ、説明しないと面倒だな。
しかし、如何に説明すべきか。
待ち合わせ場所で、頭を捻る。
「よ!」
そんな俺の前にワンピース姿の夏実が現れる。
「お腹、空いてる?」
「まあ」
「じゃ行こう!」
お前が食って来るなと言ったのでは?
歩き出した夏実の後をついていく。
「ここなんだけど」
駅前から少し離れたステーキ屋。
「はあ」
「良いかな?」
「良いけど」
高級店では無いが、学生のランチにしてはそこそこ高額。
だが、まあレアーのバイト代があるので財布的には問題は無い。
「ああ、臨時収入があったのか」
夏実もそれは一緒という事か。
「そう。
なので、一回くらい贅沢に食べてみたいじゃん?」
「そうすか」
昼のピークを過ぎたであろう店内は、何人かの客はいたけれど待たされる事なく席へ通される。
そして、テーブルに置かれたランチメニューを夏実が穴の空きそうな程に眺める。
そんなに種類ないんだけどな。
「……決まった?」
メニューから顔も上げずに尋ねて来る夏実。
「ああ」
「どうしよう」
ちょいとお高めの和牛ステーキと悩んでるのだろうか。
「好きなの頼めば?」
「……良いかな?」
「良いよ」
「良いかな? 大丈夫かな?」
そう言いながら、メニューから顔を上げた夏実は満面の笑顔。
「大丈夫。大丈夫」
よくわからんけど。
「よし」
「決まった?」
「うん」
「すいませーん」
「はーい」
さして広くない店内に一人しか居ないウエイトレスさんが飛んで来る。
「カットステーキプレートを一つと」
メニューを指差しながら、自分の分を先に頼む。
「えっと、ランプステーキのランチセットを一つ」
「はい。
ランプステーキは、肉の大きさはどうしますか?」
「一ポンドで!」
……え?
「一ポンドですね。
ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい!」
淡々と店員さんが注文を取って去って行く。
え?
一ポンドって……何グラムだっけ?
「一回食べて見たかったんだ」
少し照れくさそうに夏実が言う。
「そっすか」
一ポンドって、何グラムだよ!?
「風果ちゃんはどうしたの?
今日」
衝撃から脱して居ない俺に、夏実が何気なくその一言を放つ。
「居ない」
「いや、それは聞いたよ。
部活?
あ、インターン?」
「いや、どっちでも無い」
「お、もしやデート?
可愛いもんね。
お兄さんとしては心配?
て言うか、幾つなの?」
「同い年」
「え?
……珍しい。
あ、て事は同級生?
へー。学校どこ?」
さあ?
そこまで設定してねーよ。
何とか女学院でいいんじゃね?
「女子校?」
「ん? 何で疑問形? 知らないの?」
「知らない」
「……え、何で?
仲悪い?
……そんな事無いよね?」
「まあ……」
どう説明すべきか。
真実の切り出し方を考える俺の会話は、肉の焼ける音を発する鉄板の出現により中断となる。
「お待たせしました」
ドン、と夏実の前に肉が置かれる。
鉄板では無く肉。
そんな印象。
俺の前に置かれたワンプレートと比ぶべくも無い迫力。
「凄っ……!」
ああ。凄い。
「いただきます!」
ナイフとフォークを手にしたヴァージン・アンコとランプステーキ一ポンドの時間無制限一本勝負が始まる。