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忠告

 レアーの会議室。

 向かい合うのはつまらなそうな顔のハナ。

 そして、音声だけで参加する男。


「転移の座標は個人の能力の発現をGAIAのシステムが観測したもの。

 偶然その力だけ観測したのか、今後、類似の現象が多発するのかはわかりませんけど完全にこちらで制御できない以上、使うべきでないというのが僕の考えです」

『ヨリチカ。

 君は作れるのか?

 転移のターゲットになるポイントを』


 スピーカー越しに問われ、即答する。


「今の俺には無理です。

 既に作った誰かが、偶然、俺の力に近かった。

 いや、逆か。

 俺の力が偶然その誰かに近かった」

「意味は一緒じゃない。

 その言い直しに何の意味があるの?」

「……後からの方が、少ししっくり来るんです。感覚として」


 嘘を見抜かれたかも知れない。

 そう思わせるハナの視線と疑問。

 風果の力が俺の力に近しい。

 当然だ。俺が考えた設定なのだから。

 それを隠そうとして、半ば無意識に俺は言い直したのだろう。


 二言三言、ハナとスピーカーの向こうの男が英語でやり取りをする。


「個人に依存する。

 それは分かった。

 それで、結論が使うなというのはどう言う訳?」

「こちらから向こうへ誘導できる。

 これは、使いようによってはこの上無い脅威です。

 脱出できない檻の中へ出口を作ることも出来るし、大人数の待ち伏せを置くことも出来る」

「お前なら、どう悪用する?」

「俺が使うなら?」


 考え、一番インパクトのある使い途を告げる。


「大統領暗殺」


 ハナが、鼻で笑う。


『……HAHAHAHAHAHA! Okay!

 プレジデントが規制と予算削減を言い出した時に速やかに実行に移せるように作戦を練ろう!』


 スピーカーの向こうで、盛大な笑い声が上がる。

 どうやって大統領を送り込むか。

 この世界の代表として向こうの人間と交渉を。

 歴史に名を刻む偉業です。

 とか何とか言えば動くんじゃないか。

 多分。

 そんな事、本気で計画してないので知らんけど。


 再度、二人が英語でやり取り。


『Thank you. Bye.』

「有益な情報をありがとう。

 流石、自慢の調査員だわ」


 完全に嫌味なのか、それとも少しでもそう言う気持ちがあるのかわからないハナの一言で会議は終わる。


 ◆


 俺が、彼ら彼女らに何を言った所でG社、或いは米国が何を考えどう動こうとしているかなんて伺い知ることは出来ず。

 そして、その影響がこの国、更には俺達の将来へどんな影響をおよぼすのか。

 そんな事、考えても分かるわけ無いのだ。


 大統領暗殺?

 アポロ11号は月へ行っていなかった。

 そんなレベルの与太話だ。

 さっさと今月のノルマを終わらせよう。

 後五ヶ月は、レアーとの契約がある。

 だが、その先はもう更新しなくても良いかもしれない

 俺は、部外者で居たい。

 わけも分からぬ実験に巻き込まれ、笑い話のような仮説をプレゼンするような、こんな状況続ける意味はないだろ。


 そんな俺の迷いを見透かすように、降り立った異世界は縦横に狭い道が複雑に走る迷路の様な所。


 大きく息を吐く。

 現実は、忘れろ。

 生きて帰る。

 その為に、進むのだ。慎重に。


 ◆


 あーあ。

 現実に戻り、時間を見て眉間を抑える。

 終電、行っちゃった。


 迷路、凄かったしなぁ……。

 どうしようかな。


 スマホの画面を見る。

 メッセージ、一件。


 ────────────────


 なつみかん>連絡ちょうだい


 ────────────────


 気が重い。

 どうせ、俺の妹という非実在美少女に対しての事だろう。

 何と説明すべきか。

 ドン引きされるに決まってる。

 いっそ、居ることにしてしまうか?

 そう。

 引きこもり。

 一切家から出ない、絶対に人と会わない引きこもり。

 無理だな。

 早晩露見する。

 立ち合いは強くあたってあとは流れで誤魔化そう。

 それしか無い。


 つーか、このまま既読にせずにもう一回向こうへ行くか。

 どうせ、帰れないし。


 ……一回、コンビニ行こう。


 一度、荷物をまとめてからビルの外へ。

 専用スペースだから置きっぱなしでも問題ないのだが、まあ、雇用主が何するかわからないような連中だし。


 ビルから出て、閑散とした都心に目を向けた所でスマホが震える。

 画面表示はハナ……何だ?


「はい」

『日枝神社』

「……はい」


 たった一言。

 家まで送ってくれるのか、それとも、また何かやらされるのか。

 溜息一つ零し、暗がりの路地でハザードランプを点滅させながら待つフェアレディの元へ。


「なんすか?」


 助手席のドアを開け、顔を突っ込み尋ねる。


「送ってあげるわ」


 頼んでねーけど。

 そう思いながら助手席のシートへ身を滑り込ませる。


 そのまま車は走り出す。

 左手で滑らかにシフトチェンジする様は、相変わらず惚れ惚れするほどに美しい。

 手動運転、か。

 来年は免許が取れるのだから、検討してみても良いかもしれない。

 最も、こんな風に誰かを助手席に乗せる度胸は無いが。


 車は首都高に乗りそのまま新宿方面から中央道へ。


「特に、用は無いわ」


 ハンドルを握りながらハナが呟くように言う。

 そっすか。


「『人を運ぶ悪魔の召喚オペレーション・バティン』は、一旦凍結となった」


 調布を過ぎた辺りでポツリとハナが言う。

 下手に悪用されるくらいならその方が良いのだろう。


「まあ、表向きは。

 だけれど。

 オマエの意見は、それなりに有用だった」

「そうですか。

 いっそ、中止すれば良いのに。

 G Playごと」


 俺の返しに、ハナは何も答えず。



 前に圏央道へと入り南下して行った八王子ジャンクションの標識が窓の外を通り過ぎていった。

 車は中央道をそのまま西進。

 ……何処行くんですか?


「ちゃんと送り届けるわよ」


 俺の方を横目で見てハナが言う。


「危険だから、止めるべきだ。

 その忠告はしばしば受け入れられない。

 どうしてかしらね?」


 ハナが呟くと同時に、グンと車が加速して重力が俺の体を助手席へ押し付ける。

 忠告って、俺が昼に進言した事か、それとも全く別の事か。


「……な、何かあったんすか?」


 怖ぇ。

 車も、ハナも。


「聞かないほうが良いわ」

「……そうすか」


 なら聞かない。


 車は双葉ジャンクションで曲がり、中部横断道を南下する。

 このまま、新東名へ乗って帰れそうか。

 ひとまず、胸を撫で下ろす。


「そう言えば、アンの事なんだけど」

「……アン?」


 誰?


「アン・ナツミ」

「ああ。夏実すか」


 ヴァージンか。


 車の速度が僅かに落ちる。


「巻き込んで、悪かったと思ってる」

「……本人は何て?」

「死なないように頑張りますって」

「なら……良いんじゃないすか」


 彼女の決定に口を挟めるような立場ではないし。


「一発アンタをぶん殴らないと気がすまないって言ってたわよ」

「もう殴られてるんだけどなぁ……」


 まだ殴り足りないのか。

 怖い怖い。

 ドエスなのかな?


「一応、もう一人候補は居たんだけど」

「誰すか?」


 Aかな?


「イヅキ・サクラガワ」


 そう言ったハナの声は少し笑っていた。

 本当に候補だったのか?


「……そんな人、知らないですよ」


 俺は暗闇の高速を眺めながら返す。


「全国大会? 出るらしいわね。

 見に行くの?」

「彼女、レアーの調査対象なんですか?」

「全く。ただ私の個人的興味の対象」

「そっすか」

「オマエと彼女の過去に繋がりは一切ない。不思議ね」

「知らない人ですから、不思議でも何でもないですよ」

「そう?

 じゃ、弓道の大会結果を調べてたのはどうしてかしら?」

「ウチの学校にも弓道部あるんですよ」


 俺の検索履歴はまだ調査対象かよ。


 ……ただ、まあいい加減、未練がましく彼女のことを調べるのは止そうとそう思っているのも事実だ。

 おそらく、彼女の名前が情報として公の目に触れるのはこれが最後だろうから。

 それも、インターハイで入賞すれば、の話だけれど。


 大体、インターハイが行われる秋田まで応援に行けるわけなど無いのだ。

 俺は中継される映像越しに彼女の美しい立ち姿と、放たれた矢の軌跡を見守る一般大衆の一人でしか無い。


 だから、その日はG Playへは行かない。

 スマホの電源も切っておく。

 絶対。


「欲しいものは眺めているだけじゃ、手に入らないわよ」

「残念ながら、そう言う話では無いんですよ」


 こちらの高校生の桜川祈月は……イツキでは無いのだから。


「……忠告はしばしば受け入れられない。

 どうしてかしらね?」

「当人にとっては余計なお世話だからでしょうね」


 車は、新東名を東京方面に向かう。


 あんまり飛ばすと捕まるぞ。また。

 受け入れられないであろう、その忠告は口にしないことにした。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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