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残された合図⑤

 そろそろ、夏実が来てから三十分は経つだろうか。

 相変わらず動きの無い砂地をじっと見つめる。


「ほれ」


 戻ってきた実姫が、金串に刺された魚の姿焼きを差し出して来る。


「食うて良いぞ」


 片手で白い狐を抱えドヤ顔の実姫。

 その背後に立ち、ニヤニヤしながら俺を見下ろすリコ。


「毒は?」


 魚を受け取りながら、夏美に問う。


「無いよ」

「何でわかる?」

「白雪がちゃんと調べたから」

「キュ」


 実姫の腕の中で狐が得意げに鳴く。

 人語を理解するのか。

 妖狐だな。

 いや、白狐ならば稲荷神の使いたる霊狐か?

 魔法少女のお供、マスコット的な奴かも知れない。

 そんな狐が信じられるのか?

 ただ、ここで受け取った魚を地に捨てよう物ならば猛牛と魔法少女を敵に回すことになる。

 仕方なく俺は謎の魚の丸焼きを口に運ぶ。


「美味いであろう?」

「……ああ」


 水洗いしてないから若干砂が付いていてジャリジャリする。

 ただ、まあ塩とスパイスが効いていて味は悪くない。


「蛸も美味かったぞ」


 楽しそうな実姫。


「そうか」

 ……醤油が欲しいな」

「贅沢言いうな」


 正直な感想なのだが。

 お手製の不味い干し肉は到底食事とは呼べず、食欲すら起こさないのだが、こうしてそれなりに調理された物を与えられると不思議とさらなる欲が出てくる。


「醤油持ってる人とかも居たの?」

「いや。流石にそれは会った事無い。

 そうだ。

 これ、食うか?」


 前に夏実にもらった果物。

 術で乾燥させて見たものの、どうにも食べる気が起きない。


「……喧嘩売ってるの?」

「まさか」

「何じゃそれは?」

「食べない方が良いわよ」

「そうなのか?」

「そう」


 不満げな実姫。

 ドライフルーツを袋にしまう。


「食べたらちょっと運動付き合ってよ」

「いや、俺はここで見張りをしてるって言ってるだろ」

「ちょっとくらいいいじゃん」

「……実姫、ちょっと相手をしてやってくれ。

 くれぐれも、手加減して」


 俺がそう声をかけると、実姫がニヤリと笑いその後ろで夏実が怪訝そうな顔をする。


 ◆


 あの白い狐が俺の持っていた爪刀、狐白雪だったとは……。

 しかも、変身の道具となっているとは。


 巫女装束風魔法少女へと変身したリコは、頭に狐の耳を乗せ青く光る刀を手に牛の姿の実姫と戦いを繰り広げている。

 剣鉈を振り回す実姫と飛ぶようにそれを避けるリコ。

 そんな戦いを横目に俺は砂地に腰を下ろしたまま。


 そろそろ、二時間ぐらいか。


 何も起こらないかも知れない。


 互いの力をぶつけ合う二人を尻目に一人腰を下す俺には気の緩みがあったのだろう。


 一陣の風。

 突風が砂を巻き上げる。


 直後、人影。

 夏実の時とは出現の様子が異なる!?


 慌てて腰を上げ、右手を烏墨丸へ伸ばし左手を相手に向ける。


 向こうもこちらに気付き大きく飛んで距離を取りながら攻撃の構えを見せる。


 ……違った。


 転移者は、俺では無かった。

 長く伸びた黒髪。

 その奥から射る様な視線。

 顎を引き、右手を突き出した構えから顔はよく見えないが……それでも到底自分の姿には見えなかった。


 どう対応する?

 拘束するか、殺すか。


「御楯!」


 背後から夏実の声。

 その声に、相手が微かに顔を上げ、訝しむ様な、そんな表情を覗かせる。


 拘束する。


「発っ」


 一瞬隙を見せた相手に向け、左手を伸ばし術を掛ける。

 直後、真黒のオベリスクの如く方柱結界がそびえ立ち相手を中へと閉じ込める。


「何? 敵?」

「来るな!」


 仕掛けた結界が、崩壊する。

 まるで、泡の様に溶けて。

 一瞬で無力化された。


 拘束なんて甘かった。

 殺す。


 それしか無い。


 完全に消え去った結界の中から、棒立ちの女が現れる。

 驚愕が張り付いた顔。

 見開かれた目。


「みた……て……」


 女が、小さくそう呟いた。


 ……嘘……だろ……?


 その姿に衝撃を受けながら剣を下ろし、構えを解く。

 女の両目。

 瞳孔の中に虹彩と瞳孔。

 凶事を直し、穢を払う直毘ナオビの一族たる証。

 稜威乃眼イズノメ


「何してんの!」

「ヴォ!」


 リコと実姫が俺を守る様に俺達の間に割って入る。


 女は、二人の向こうで棒立ちのまま。

 その視線は真っ直ぐに俺だけを見据え。

 口角が、上がる。

 笑った。


 その瞬間、ふっと女の姿が消え、そして俺の胸に小さな衝撃。


 天ノ禱(てんのまつり) 佰弐(ひゃくに) 飛渡足(ひわたり)


 八つの禁呪の一つにして、御天本家か御舟の血筋にしか使いこなせぬ空間を渡る術。

 それを、こうも苦もなく使いこなすとは。

 あの札は、俺でなくこの子が作った物だったか。


「……風果ふうか


 抱きついて来たその子の背に左手を回しながら名を呼ぶ。


「嗚呼……お兄様……」


 俺の胸に顔を押し当てながら彼女が呟く。


 御楯風果みたてふうか


 俺の妹。

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