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残された合図①

『本日のメーンイベントー。

 スーパーフェザー級、世界王座タイトルマッチー。

 青ーコーナー。

 127ポーンド、チェリー・ミターテー!』


 リングアナの紹介に、両手を上げ答える。

 満員の会場から、割れんばかりの声援。


「行け! 御楯!」


 リングの下からセコンドの夏実が気合の入った声を上げる。


 大丈夫。

 必ず、ベルトを腰に巻いてやる。

 お前のために!


 そう口に出す代わりに彼女へ右手を真っ直ぐに向ける。


『赤ーコーナー』


 次いで、リングアナがチャンピオンを呼び上げる。


『105パーンッズッ!

 ヴワァージーン・ナァツーミー』


 先程の俺より数倍大きい、会場を震わす程の歓声が沸き起こる。


 反対側のコーナーで俺を睨む夏実。


 バニーガール姿の風巻さんが『1R』という札を持ってリングを一周する。

 俺の前で、小さくウインク。


 レフリーは、冷めた顔をしたハナ・ウィラード。


「ファイ!」


 ゴングの音と同時に彼女が両手を交差させる。

 直後、真っ赤なグローブが俺の顔面を捉え、呆気なくノックアウトされた。



 ◆



 何か、変な夢にうなされて目が覚めた夏休み初日。

 俺はレアーの会議室でハナと向かい合う。


「『人を運ぶ悪魔の召喚オペレーション・バティン』。

 その後、順調ですか?」

「……答える必要は無い」

「上手く行っていない。違いますか?」


 俺は、ハナに問いかける。

 確信を持てるほどの根拠はない。

 ただ、ショニンの話から向こうでは瞬間移動の様な手段がありそうだと言う事実。

 そして、埋められていたのは札だと言う事実。

 その二点に、希望的観測を加えただけ。


「何をした?」


 大きく息を吐きながら、ハナが睨む様に言う。


 どうやら当たりかな。


「向こうで見つけた、転移の目的地を示す物。

 マーカーは、俺が封印をしました」

「……何の為に?」

「もう一度向こうで、封印を解く。

 そこで再度道がつながるか。

 それを試したいんです。

 協力してくれませんか?」

「……少し、待て」


 そう言って、ハナはラップトップのキーボードを叩き始める。


「あの、実験で亡くなられた二人は米国軍人ですよね?」


 その間に、他の質問を。

 ハナから肯定は無い。

 ただ、こちらを一瞥しただけ。

 構わず続ける。


「どちらかが、火を操る事が出来る。

 そう言うレポート出してたりしませんか?」

「どうしてだ?」

「あの二人は、同士討ちで倒れたんでは無いか。

 そう考えると、辻褄が合うんです」


 向かい合った二つの死体の位置関係。

 後ろから切りつけられ、振り向きざまに炎で反撃した。

 炎を浴びた側は、そこで即死。

 切りつけられた側も、傷が深く時間をおかず絶命した。

 そんな情景が想像できる。

 では、何故そんな状況に至ったのか。

 それは、Aと同じように瘴気によって正気を失ったのでは無いか。

 或いは、潜在的に相手に敵意を持っていたか。

 Aは、手を下す前に躊躇いが生じた。

 二人にはそれが無かった。

 民間人と軍人。

 或いは、常識の内と外。

 その違いでは無いだろうか。


「……調べてみる」


 ハナはそう答え、再びラップトップに視線を戻す。

 一度眉間に皺を寄せ、それから口を開く。


「……ヨリチカ。

 お前が帰還する直前から、転移の座標を示す情報は消失した。

 それは、現在に至っても尚、再発生しておらず、また、類似の兆候もない。

 君の話が事実だとすれば非常に興味深い。

 GAIAの更なる解明のために、是非協力して欲しい。

 だそうよ」

「もちろんです。

 ただ、幾つか条件があります」

「言ってみろ」

「まず、封印解除のタイミング。

 これは、俺が向こうで安全を確保してからとさせて下さい。

 例えば、門を見つけ退路を確保してからとか」

「それを、我々は知る手段がない。

 それとも、お前に何か連絡手段があるのか?」


 俺は首を横に振りながら答える。


「俺が向こうに行って、そうですね、六時間後でどうでしょう。

 そこから三時間の間に動きが無ければ実験は失敗。

 或いは、不測の事態が起きた。俺が、死ぬとか」

「……大筋はそれでいい。時間に関しては一度検討する」

「はい。

 あと、向こうへ送る人材。

 俺が信用できる人にして下さい。

 出来れば日本人が良い」

「……検討する」


 本当は知り合いが良いのだが、レアー関係者にそんな人物は居ない。

 例外はAで、こう言っておけば彼が選ばれるだろう。

 完全に信用している様な間柄では無いが、全くの初対面よりはマシだ。


「そして、最後。

 仮に今回の実験が失敗したとしても追試は無し」

「何故だ?」

「実験と称して便利に使われる事が容易に想像できるからですよ」


 今はまだ扱えないが、あの御織札ごしきふだは俺の力で作ることが可能だ。

 そうなると、行く先々でそれを置いて回る。

 なんて事をさせられかねない。

 そんな風にこき使われて良いと思えるほど、彼らを信用していない。


 出来れば、封印の解除も内密に行いたかったのだが、その場合、俺が関わっている事は直ぐに露見するだろう。

 そうすると、自分の立場が悪くなる。

 それに、こちらから道が通じたかどうかの検証には結局彼らの手助けが必要なのだ。

 どうやって観測して、どうやって道をつなげているかわからないけれど。


「協力がほしい時は願い出る。

 その際、決して強制はしない。

 それで良いわね?」

「はい」

『Thank you, boy!』


 室内のスピーカーから、男の声で反応があった。

 レオナルド・クーパーとか言う、一度会った研究者だろう。



 ◆


 俺の計画は、一旦G社預かりで全て検討という事になった。

 結論が出るのは明日の朝以降だろうとの事。


 何故ならば、時差の関係で、G社の本社社員が出社するのが日本時間の深夜遅くだからだと。

 今日にでも行くつもりだった俺は若干肩透かしを食らいながら、帰路につく。

 ビルから出るなり、突風にあおられる。

 まだ、夕方前なのに空が真っ暗。

 スマホを取り出し、天気予報アプリを。

 などと考えているウチに、あっという間にバケツを引っくり返したようなゲリラ豪雨。

 たまらず、一度ビルの中へと引き返す。


 暫くしたら止むだろうか。

 ガラスの向こうで運悪く雨に濡れながら走るおじさん共を眺める。


 スマホが震えた。

 ハナだ。


「はい」

『送ろうか?』

「……お願いします」


 電話を切り、振り返るとハナが立っていた。

 そんなつもりは無かったけれど断ると言う選択肢ははじめから用意されていなかったのかも知れない。


 彼女に付いて地下の駐車場へ。


「こっち」


 彼女は何時ものテスラではなく、フェアレディ。


「これ、ハナさんのですか?」

「まさか。借り物よ」


 テスラの方はレアーの所有物なのかな?

 助手席に身を沈める。


「本当の狙いは何?」


 車が動き出し、地下駐車場から出る前にハナが口を開く。


「いや、別にないすよ。そんなの」


 外に出るなり土砂降りの雨。

 ワイパーがせわしなく動く。


「なら、一度報告から外したのは何故?」

「考えを整理したかったからです。

 俺自身、言ったことが合ってるという確証は無いんで」


 まあ、夏休みになるまで報告を遅らせたのは単に俺の活動時間に起因するのだけれど。

 車は豪雨で50km規制の出ている首都高へと入る。


「……まあ良いわ。

 少なくとも、G Playにとってはプラスの動きだものね」

「そうすね」

「もし、行き先が固定できて安全が確立されたら私も行ってみようかしら」

「その時は、案内しますよ」


 下着姿で呆気にとられる彼女を鼻で笑ってやろう。


「安全といえば、オフィシャルスクール出来るんですね」

「形だけよ。

 大体、そんな所で何を教えれば良いの?

 後学の為に経験者の意見を聞かせてちょうだい」

「動物の捌き方とか。知ってると重宝しますよ」

「……それはそれは。有り難い情報だわ」


 俺のアドバイスは鼻で笑われた。


「正直な所、あんな物はこの国へのゴマすり以外の何物でもない。

 この国に対して、多少なりとも配慮のポーズを見せた。

 それ以上でも以下でも無いわ」

「は? どうして?」

「軍事的にこの国の重要性が上がったから。ただそれだけ」


 そんな裏があるのか。

 所詮、G Playも政治の道具なのだな。


「そんな事、喋って良いんですか?」

「この車には、何も仕掛けてないから」


 仕掛け!


「そうだ!

 この前のアレ!

 何ですか、アレ!」

「何のこと?」


 とぼけているのか、本気で心当たらないのか。


「夏実……クラスメイトの電話を勝手に利用しないで下さい」

「ああ、あれ。

 そもそも無視したオマエが悪いと思わない?」

「思わない。

 何でその後のフォローまでしなきゃいけないのか」

「何て言ってごまかしたのかしら?」

「インターン先の頭のおかしな上司」


 俺の返答にハナが声を上げ笑う。


「間違って無いわ」


 自覚はあるらしい。


「そっすね。

 もう二度とやらないで欲しい」

「なら、電話には出ることね。

 大丈夫。

 十八時以降は呼び出さないから」


 つまり、十八時より前は呼び出すと言うことだ。

 クソが。


「それを聞いて安心しました」


 頬杖を付いて窓の外を眺めながら精一杯の嫌味を返す。


「インターンか。考えたわね」


 運転席でハナが笑いを噛み殺しながら呟く。


 車が東名に入った頃には雨は止み、高速を降りた頃には茹だるような暑さが戻っていた。

 途中見かけたG Playに『オープン一周年記念!』と言う幟が上がっていた。

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