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試験休み②

 翌、昼過ぎ。

 待ち合わせた鶴川駅へ夏実が現れる。


「よっ」


 キャミソールにショートパンツ。

 露出高め。

 顔は相変わらずの厚化粧。


 どこへ行くのか。


 若干の期待と不安を胸に訪れたのは、駅前のカラオケ屋。


「ここなら他に人は居ないでしょ?」

「なるほど」


 平日なら夜まで居ても一人千円でお釣りが来る。

 更にドリンクバー付き。


 とは言え、若干薄暗い部屋に男女二人。

 俺は部屋の隅につけられた監視カメラを見る。

 まさか、連日監視はして居ないと思うけれど。


「タブレット、貸して」

「ああ」


 部屋に入るなり夏実に言われ、鞄からタブレットを取り出し渡す。


「あざー。

 なんか歌う?」


 代わりにカラオケのリモコンを渡される。


「いや、歌わない」


 それは、そのままテーブルの上に。

 人様に披露する様な歌声は持ち合わせて居ないのである。


「私、勝手に見てるから歌って良いよ」


 そう言って夏実はタブレットに視線を落とす。


 夏実は、ルーズリーフを取り出しメモを始める。


「他の人には見せないから」


 俺が言う前にそう言われてしまい、何も言えず。

 まあ、彼女にしても自分の命がかかって居るわけだからなぁ。


 ……シャーペンを走らせ、時折質問をして来る。

 そんな夏実の相手は、この上なく退屈な時間だった。

 俺も何かやる事用意して来ればよかった。


 でも試験は終わったし、異世界の情報は全部タブレットの中。

 仕方なくカラオケのリモコンをいじるが、直ぐに飽きる。


 せめて、何か会話でもした方が良いのだろうか。


「……今日、風巻さんは?」

「学校。何で?」

「いや。別に」


 他に、共通の話題が無いんだよ。

 それで、流石に俺が暇を持て余し睡魔に襲われかけて居る事に気付いたのか、手を止めこちらを見る夏実。


「御楯さあ、向こうで一番危ないなと思った事って何?」


 問われ考える。

 ……そして、思い出す二人。

 殺し慣れた名も知れぬ東洋人と、俺に歪んだ笑顔を向けて来た女性、ユキ。


「軍人達が殺し合いをしている場面に出くわした事かな」


  俺の返答に、夏実が顔を顰める。

 スケッチには残して無い経験。


「それ、どうやって切り抜けたの?」

「相手が居なくなるまで息を殺して待った。

 半日くらい、一歩も動かず」

「半日?」

「そ。あの不味い干し肉齧りながら」

「その間って、他の生き物とか寄って来ないの?」

「俺は、気配を隠す事が出来る。

 相手から見えなくなる術」

「そうなの?」


 その効果は夏実も知っている筈。

 あれ?

 でも、そう言う術を使ってるって説明したっけ?


「一緒に居る時も使ってた。

 木の上に避難した時と、寝ている時。

 あとショニンの後ろに隠れている時。

 竜人の様子を探って居る時」


 思い出しながら口にする。


「ああ、あれが」

「後は、それまで一緒に居た仲間を別の仲間が背後から刺し殺した事かな」

「……それ、どうやって切り抜けたの?」

「俺に恨みは無いって見逃してくれた。

 つまり、人の方が恐ろしい訳だ。

 結局」

「そっか。

 意外な盲点。

 それがわかる様な力と、気配を隠す力か」


 俺は大きく頷く。

 生き残る為に必要なのは戦う力だけでは無いのだ。


「あのさ、向こうでは怪我が早く治ったけど、そのままこっちに戻ったらどうなるの?」

「そのまま」

「じゃ、向こうで治るまで待った方が良いのか」

「多少の傷ならそうだな。

 流石に手足を落とす様な経験はしてないけど」

「傷を治す術も使えるんだよね?」

「うん。まあ」

「それも必要そうだな」


 自分の力をあれこれと考える夏実。

 その力を俺が見る日は来るのだろうか。


「そう言えば、ショニンって奴。

 連絡先、教えてくれない?」

「え?

 知らない」

「あれ?

 初心者セットに入れたとか言ってなかった?」

「ああ、あれ。

 見てない。

 そんな時間無かったし」

「あ、そっか」


 なら仕方ないな。

 奴が俺に荷物を届けた力について聞きたかったのだが。

 まあ、素直に言うとも思えないのだけれど。


「で。

 昨日のアレ、何?」

「アレ?」

「ハナ・ウィラード」


 やっぱり聞いてくるよな。


「こう言う人」


 昨日、ハナから貰った彼女の名刺を鞄から出す。


『G Play 極東研究所 主席研究員

 ハナ・ウィラード』


 G社のロゴと共にそう記された名刺。


 それを受け取り、若干訝しげな表情を浮かべる夏実。


「上司って言ってなかった?」

「今、インターンで行ってる。

 ただ、まあ内容が内容だから、内密に」

「インターン?」


 と言う真っ赤な嘘。

 心が痛い。


「それで、その人が何で私の電話にかけてくるのよ?」

「何と言うか、常識に欠けた人でさ。

 勝手に俺のスマホにウイルス見たいなアプリを入れて居たんだよ。

 着信を無視したら、Bluetoothの範囲内に連絡先の登録されてる端末が無いか調べて、あったらそこへ繋ぐって言う」


 と言う真っ赤な嘘。

 一晩考えた。

 心が痛い。

 我ながら出来の悪い嘘。

 でも、実はCIAで監視カメラを盗み見ているって言っても信じないだろ?

 俺なら絶対信じないもの。


「ふーん」


 ジト目の夏実。


 納得したのか、それとも諦めたのか、再びタブレットに視線を落とす。


 これ以上突っ込まれると面倒なので、俺は俺でスマホのニュースアプリを立ち上げ時間を潰す。

 G Play関連のニュースがピックアップされるように設定してある。


 ――古瀬厚生労働相辞任へ。

 ――G Playでの行方不明者数の増加が失業率の低下に歯止めをかけた格好になったことに対し『仕事が無い人は異世界に行けばいい』とした発言が不適切だったとして辞意を表明。


 ――在韓米軍、完全撤退へ。

 ――南北統一を目前にして、米大統領が在韓米軍の撤退を決定したとの発言が波紋を広げている。

 ――これにより、米国の極東戦略の見直しを余儀なくされ、日本に対し再軍備を含む負担増の要求が予想される。


 ――G社、G Playオフィシャルスクール開校の動き。

 ――G社は加熱するG Playブームに対し、IDOと連携しながらより安全なレジャーとして楽しめるよう、初心者から上級者に向け様々な講習を行う施設を作る予定であることがわかった。

 ――また、今後予定されている世界展開に際し、国内から優秀な人材を派遣できる様、日本政府も全力でバックアップする用意があるとのこと。


 そんな、どうでも良いニュースを流し読み。

 オフィシャルスクールだけは、安全性の向上を謳いながら逆に間口を広げる懸念があるが、そのプログラムが不明な現時点ではなんとも言えず。

 ただ、アンオフィシャルな連中が淘汰されるのであればそれはそれで多少はマシになるだろうか。

 案内人に成るなどと息巻いていたAは上級者コースを受講したりするのだろうか。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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