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ファミレス①

 ファミレスでミカエルと会ってからもうすぐ一年になるのか。

 あの時と同じ店で、不意に彼のことを思い出す。

 最も、今向かい合って座るのは陰謀論を口にする黒ずくめの男ではなく、金髪のクラスメイトなのだが。


 期末考査を終え、真っ白に燃え尽きた俺に声を掛けてきた夏実の意図はなんなのか。

 ずっとスマホに目を落とす彼女にそれすら尋ねられないまま、ドリンクバーと席を往復するだけの時間が過ぎる。

 だが、ここで俺もスマホをいじったら負けの様な気がする。

 だから、店内の様子を見回して、チラと夏実を見て、再び店内を見回して、またチラと夏実を見て……。

 不意に顔を上げた夏実と目が合った。

 ……気がしただけだった。


 そのまま視線は俺の背後、つまり、ガラスを隔てた夏の日差しが降り注ぐ灼熱のコンクリートジャングル。タウン・マチダへと向かう。

 ……何だろう。英語と現国の試験勉強でほぼ徹夜だったからかな。思考がおかしい。

 湿度過多の梅雨明けの町田。

 これで十分だ。

 それ以上の装飾は要らない。

 兎にも角にも、俺の背後に何かを見つけ、そして笑みを零しながら手を振る夏実につられ俺も背後へと視線を向ける。


 そこには居たのは控えめに手を振る女子高生。

 ビル風に吹かれ乱れる髪、ツインテールがやけに印象に残る。そんな子。



「はじめましてー。風巻しまき凛子りんこでーす」

「あ……」


 風巻と名乗ったそのツインテールの子が、手の平をくるんと一回転させながらおでこに当て自己紹介。

 そして、着席。

 それに反応する前に、夏実が俺を紹介する。


「御楯クン。偶然、同じクラスだった人」

「よろー!」

「……よろしく」


 で?


 そう言う視線を夏実に送る。


「何?」


 何、じゃないんだよ。

 女子を紹介するならば、事前にそう言ってもらわないと!

 制汗剤とか、そう言う準備がだな……。


「ドリンク取ってくるねー」


 そう言って風巻さんが席を立つ。


「えっと、どう言う事?」


 その隙に、夏実に尋ねる。


「私の友達。ほら、例の元カレが浮気してた……」

「ああ!」

「元カレの話、地雷だから踏むなよ?」


 ええぇ……何だよそれ。

 と言うか、本人が来る前にちゃんと教えてくれよ。


 突然放り込まれた女子二人と向かい合うという現実に戸惑う俺の前に、隙間なく氷を詰め込んだグラスを手にした風巻さんが戻ってくる。


「あっついねー」


 そう言いながら、席に座りストローに口をつける。


「えっと、御楯クン。

 ……下の名前は?」


 風巻さんが、夏実に尋ね、その夏実が小さく首を傾げたので自ら名乗る。


頼知ヨリチカ


 まあ、知らないと思ってたけどさ!


「ヨリチカ。じゃヨッチだ!」

「ん?」


 突然とあだ名が決まった。

 まあ、良いけど。


「ヨッチ、アンコを助けてくれてありがとう」


 そう言いながら彼女は頭を下げた。


「いや、たまたまだけど」


 こう、面と向かって礼を言われるとは思っておらず反応に困る。


「でも、ヨッチが居なかったらアンコは戻って来れなかった訳だから、そうしたら、私は親友を失ってた訳なのよ。

 それも、私の所為で」

「別に、御楯が居なくても帰って来れたけどね」


 夏実が、口を尖らせながら言うけれど、それはどうだろうか?

 まあ、良いや。

 友人の前だ。

 そう言う事にしておこう。


「親友なんだ」

「そう! 幼馴染であり、親友。

 そしてアンコは私のナイトなの!」

「やめてよ。恥ずかしい」

「ナイト?」

「良いじゃん! 事実なんだし」


 ナイト……?

 その単語はどうにも俺の知る夏実のイメージと合致しないのだけれど。

 クラス的には、バーサーカーとか。

 いや、脳筋的にはボクサーもバーサーカーもナイトも同系統なのかな。


「私、飲み物取ってくる」


 夏実が逃げ出す様に立ち上がる。

 その背を笑顔で見送る風巻さん。


「で、その私のナイトのナイトがヨッチな訳?

 にしては、ちょっと細いよね?」

「ナイトでは無い」


 ……洒落では無い。

 言った後に気が付いたけれど。


「でも、アンコより強いんでしょ?」

「この前一発KOされたけど?」

「え? そうなの?

 おかしいなぁ……」


 人差し指を立てて、頬に当てながら首を傾げる。

 ちょいちょい仕草があざとい気がするのだけれど、考えすぎか?


 一度、ドリンクバーの夏美の背中を見つめ、再び俺に視線を戻し、もう一度夏美を見て、そして、少し笑みを浮かべる。


「ヨッチってさ、付き合ってる人、居るの?」


 僅かに身を乗り出しながら、突然投げつけてきたその質問に面くらいながら小さく首を横に振る。

 上目遣いでこちらを見る風巻さんの顔には、好奇心がありありと浮かぶ。


「じゃ、スキな人は?」


 スキな人……。


「あ、居そう! 居るね?」

「いや……」


 何で、初対面の相手とこんな話に?

 困惑する俺の元へオレンジジュースを手に戻ってきた夏実は果たして救世主なのだろうか。


「何か食べる?」


 椅子に座り、何食わぬ顔で風巻さんに言いながらメニューに手を伸ばす夏実。


「あ、バイトだからいいや」


 そう答えながら風巻さんが座りなおす。


「あ、そう」


 と言いながらメニューを開きめくりだす夏実。


「バイトしてるんだ?」


 取り敢えず、話を変えよう。

 そう思い、出てきた単語に食いついてみる。


「そう!」

「何の?」

「ふふふーん。興味ある?」

「ま、まあ」


 風巻さんが鞄に手を入れ、何かを取り出す。

 そして、小さな紙を両手で俺に差し出す。


「はい!」


 それは、そこにはポップなフォントで『カフェ・アンキラ マキマキ』と書かれていた。


「サービスするから、来てね!」

「え?」


 受け取って眺めるが、何の店だろう。


「御楯は?」

「え? 俺?」


 突然、夏実に問われ、レアーの事を言ったものか考える。


「特に何もしてないけど」


 守秘義務らしいので、そう答えお茶を濁す。

 しかし、夏実は首を傾げながらメニューを差し出してくる。


「いや、違う。

 何か食べる?」


 そっちかよ!


「いや、要らない」


 腹が減るような時間ではない。


「あっそ」


 と、言いながら夏実はコールボタンを押して、店員を呼ぶ。


「何の店?」

「それは、来てのお楽しみ!」


 いたずらっぽい笑顔で風巻さんが答える。

 ぼったくられる様な店で無いことを祈る。

 まあ、行かないと思うけど。

 夏実に呼ばれた店員が来たので、薄ピンク色のその名刺をポケットにしまう。


「えっと、デミグラスハンバーグのセット。

 ライスで」


 ……え?


「ご注文は以上でよろしいですか?」

「とりあえずは」


 店員のおばちゃんが機械的に問い返し、それに夏実が答える。

 ……とりあえず?


「え、何?」


 俺の視線に気付いてか、メニューを戻しながら夏実が睨む。


「いや、注文の順番おかしく無いか?」


 最初にドリンクバー頼んで、その後にがっつり食事頼むか?


「だってお腹空いたんだもん。

 この後トレーニングだし」

「さって、私はバイトだから行くね」


 そう言って風巻さんが立ち上がり鞄を肩にかける。


「え? 今頼んだばかり……」

「二人でごゆっくり。

 あ、そうだ。

 連絡先!」


 そう言って風巻さんがスマホを取り出す。


 ……今年に入って三人目の女子の連絡先を手に入れた!

 あれか?

 モテ期か!?


 などと言うあり得ない妄想を膨らませている間に手早く俺の連絡先をスマホにおさめ彼女は去って行った。

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