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初夏⑦

「……他に商品は?」


 男の話はひとまず後回し。

 今ここで出来ることをしようと店主に問いかける。

 可能ならば服が欲しい。


「大抵は有るよ」


 そう言って彼は自分の背後から大きな鞄を俺達の前に出す。


「彼女が着れる服はあるかな?」

「私?」

「あるよ。趣味が合うかはわからないけど」

「え、何で?」

「その格好だと目立つだろ」


 彼女の身にまとうフワフワのスカートを指差しながら言う。

 ちょいちょいパンツ見えそうで見えないんだよ!

 目立つだろ!


「そう?」

「そう。

 今聞いてただろ。

 何をするかわからない様な連中が居るなら余計に気をつけるべきだ」

「……そう……ね」


 自分のスカートをつまみ、口を尖らせながらも彼女は従った。


「こんな所かな」


 ショニンは鞄の中から服を一揃え取り出す。


「うーん、いまいち」

「我慢しろよ」


 手に取り、不満を口にする夏実。


「私、お金無いし」

「これで足りるか?」


 荷物の中から狼の毛皮を取り出しショニンに渡す。


「うーん、まあ良いよ」

「じゃ、払いはそれで」

「良いの?」


 夏実が俺を見上げる。


「良いよ。お前が仕留めたんだし」

「へー。お嬢さんが。やるね。

 じゃ、これもおまけしちゃおう」


 そう言いながらショニンは小さな荷物袋を取り出す。


「これは?」

「初心者セットと称して取り敢えず生活に必要そうなものを詰め込んでる。

 試しに作ってみたんだ。

 僕のあっちでの連絡先も入ってるよ」


 それ、初心者関係ないだろ。


「だから、是非使用感を教えてね。

 あと、リクエストも受付中!」

「一応受け取っておく」


 下心に勘付いたのか微妙な顔をしながら夏実はそれを受け取る。


「……じゃ、ちょっと着替えてくる。

 フィッティングルームなんて、あるわけないよね?」


 笑顔で頷く店主。


「ここで待ってるから物陰でしてこい」

「覗くなよ?」

「はいはい」


 俺とショニンを順番に睨みつけながら夏実は服を抱え木陰へと消えて行った。


 その間に俺は店主と雑談。


「あの鞄ってさ、どれだけ入るの?」

「結構入るよ。見た目よりは」

「俺のも貰い物で似たような感じなんだけど、何の素材?」

「ある獣の内臓」


 内臓?


「そんな物まで加工してるのか」

「色々謎が多いからね。

 あれこれ試してるよ。みんな」

「みんな、か。

 あっちで情報交換を?」

「まあ、それなりに。

 気になる?」

「まあ、それなりに」

「でも、男に連絡先は渡さない主義だからなー」

「そうかよ」

「お得意様なら話は別だけど。

 武器とかいらないかな?」

「……見せて」


 別に今の爪刀、狐白雪に不満は無いし、刺青と化した三本の刀は強力だ。

 だが、力が手に入る機会があるなら手にするべきだとも思う。

 ひょっとしたら俺の予想の付かない物、例えば銃とかがあるかもしれない。


 そんな風に考える俺の前にショニンは鞄から幾つかの剣を取り出し並べていく。


「剣だと、こんなもんかな」

「……どうして剣を使うと?」

「勘、かな。体の動かし方と手の形」


 言われ俺は右手を見る。

 僅かに豆が出来ているが……。


「流石と言うべきか……」


 並べられた剣の一つを手に取る。

 ナイフよりは長く、剣にしては短い。

 そんな不思議な剣。

 鍔は無かった。


 鞘から抜いてみる。

 漆黒の刀身が姿を現す。


「これは……」


 全てを吸い込むような黒。

 一瞬で目を惹き付けられた。

 美しい。


 静かに鞘に戻し店主の前に戻す。


「気に入らなかった?」

「いや。

 だが、見合う品が無い」

「そうか。それは残念。

 切れ味も抜群なんだけどね。

 切ったことすら気づかないほどに」

「そりゃ怖い」


 夏実にはサービスするのに俺にはビタ一文まけるつもりは無いらしい。


 結局、実の無い商談はその直後に中断する。


 ……気配。


 俺と店主が同時に川下の方へと視線を向ける。

 誰か来た。


「店先で揉められると面倒だな」


 チラリとこちらを見て悪びれもせずにショニンは言う。


「分かった。隠れる」


 夏実が消えて行った木陰へと身を躍らせる。


「ちょ……」


 抗議の声を上げようとした夏美の口を手で塞ぐ。

 着替えは既に終わっていた。


「唱、漆拾弐(しちじゅうに) 鼓ノ禊(つつみのみそぎ) 神匸(かみかくし)


 飛んできた拳を避けながら気配を隠す術を唱える。

 そして来客の方を指差し、状況説明の代わりにする。

 それで理解したのか、俺に非難の目を向け口を抑える手を掴みどかせと力を入れる。

 手をどけると夏実は無言で歯を剥き出しにして威嚇するような顔をした。


「やあ、干物かい?」


 呑気な店主の声。

 二人は物陰からそちらの様子を伺う。


 武器は全て片付けられており、俺達の居た痕跡は無い。


 やって来たのはガタイが良い大男とその取り巻きの様な二人の三人組。


「あいつをぶっ潰して来る。

 良い加減、戻って米が食いたい」

「そうか。頑張ってくれ」

「それでだ、興奮剤と強化薬、それと回復薬を寄越せ」

「うーん、結構するけど?」


 高圧的な大男に俺たちと変わらぬ口調で応対する店主。


「何言ってんだ。ショニン。

 俺とお前の仲だろ?

 終わったらあの竜人の角を一本分けてやるよ」

「それは楽しみだ」


 そう言いながら店主は懐から幾つか包みを取り出す。


「今日でこんな所はおさらばだ!」


 奪う様にその包みを受け取り三人は引き返して行った。

 下品な笑い声を上げながら。


 その声が聞こえなくなってから俺と夏実は茂みから顔を出す。


「良いの? あれ」


 夏実が不満気に口を尖らせる。

 男達が消えて行った方を睨みながら。


「まあ、強い奴が正しい世界だからね」

「強奪じゃん!」


 諦めた様にショニンが言う。

 が、さほど悔しそうでもない。


「ま、それが許されると思ってるんだから救いの無い連中だよ。

 よく似合うね」


 意味深な事を言った後にショニンは話を変え、夏実を褒める。


「ちょっと地味」


 口を尖らせ不満を口にする夏実。


「いや、十分だろ」


 ショートパンツにシャツ。

 そして豹柄の外套。


 俺の反応に冷めた目で溜息を返す夏実。


「ヘソ冷やすと腹壊すぞ」


 隙間から覗く引き締まった腹部を揶揄する。


 返事は拳で返ってきた。


「あいつら、ゲートに向かったんだよな?」


 夏実の拳を躱しながらショニンに問う。


「そう。

 噂のAランクさんだよ」


 あれが?

 モブなんて名前、見た事無いんだよなぁ。

 まあ全員が公表している訳では無いけども。

 それにしても、言っちゃ悪いが俺より格上には見えなかった。

 まあ戦闘力だけでランクが決まっている訳では無いらしいけども。

 その疑問が顔に出ていたのだろう。


「自称、ね」


 そう付け加え、ショニンはニヤリと笑った。


「……戻るチャンスだな。追いかけよう」


 懲りずにじゃれてくる夏実にそう提案。

 上手く行けば帰れる。


「覚えてろよ!」

「忘れた」

「そのまま忘れてろ!」


 怖い怖い。

 どうして関わりが出来るのはこんなに恐ろしい女子ばかりなのだろうか。

 まあ良いや。

 それも後数刻。


「じゃ。世話になった」


 店主に挨拶。


「あ、ちょっと待って。これお土産」


 魚の干物を手渡される。

 断ろうと思う前に夏実が反応する。


「やった! ありがとう!」


 まあ良いや。

 ショニンが手早く大きな葉で包んだ干物を受け取り、荷物袋に入れる。

 匂いはさほど気にならないが、早めに処分しよう。


「じゃねー!」

「ああ、また」


 手を振る夏実にショニンが振り返す。


 また、か。

 この先、再会する事なんか有るだろうか。

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