表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/308

目覚める力

 起きて飯を食い、それでもまだ鈴木さんのLINEに既読マークは付いておらず。


 スルーか。

 昨日勝手に帰ったから怒ってるのか。


 それにしても、あれは何だったのだろう。

 高度な幻覚?


 ……それを確かめる為にもう一度行こうか。


 幸いクーポンもあるし。


 少し考え、俺はリュックに荷物を詰める。

 服と靴。

 後は……懐中電灯に、ノートとペン。


 もし、異世界へ行っているのなら、これらを持ち込めないだろうか。

 そう期待して。


 電車で二駅の昨日の店へ、今日はチャリで向かう。

 途中のコンビニでペットボトルとおにぎり、それとカロリーメイトを買い、リュックへ詰め込んだ。


 二日目の『G Play』には、待ち行列も無くスムーズ中に入れた。


 そして、昨日と同じ様に通された小部屋。

 俺は背負って来たリュックを前に抱え直し、きつく抱きしめながらタブレットに表示された開始するに触れる。



 カウントダウンの後、景色が変わる。


 ……再び、違う世界へと訪れた俺は昨日とは全く違う所に立って居た。


 目の前にそびえる階段。

 頂上の見えない階段。

 後ろは闇。


 宙に浮いているのか俺の立つ踊り場の様な所から後ろは何も無かった。

 下を覗き込んでも真っ暗の闇。


 幅三メートル程の階段の左右に、壁は無い。


 そして、来る前に抱えて居たリュックは手の中になく代わりに六本の爪が握られて居た。


 つまり、あちらとこちらで物の移動は出来ないと言う事か。

 となると、やはりこの世界は幻影か?


 爪をかざし覗き込む。

 そこに俺の稜威乃眼イズノメが映り込んだ。


 俺は一段ずつ階段を登り始めた。

 頂上は見えなかった。


 ◆


 二百までは数えてた。

 もう、その倍は上ったと思う。

 しかし、行けども行けども同じ景色。


 ……いや、違う。

 ここに階段やまがあるから上るのだ。

 陽は、常に上る。

 それが穢れを祓う。

 そう。

 それがことわり


 ◆


 変化があった。

 階段が、分かれた。


 相変わらず上へと続く真っ直ぐの階段。

 そして、それに直角に交わる左右に伸びる道。


 十字路。

 さて……正解は?


 ここは慎重に考えるべき。

 まず、上は除外しよう。

 もう、上りたくない。

 残るは右か左。


 左にするか。

 通路の脇に壁がある。

 少し、安心して歩ける。


 俺は直感を頼りに足を左へと向ける。


 まあ、間違えなら引き返せば良いのだから。


 ◆


 片側だけでも壁がある。

 それだけで少し安心する。

 落ちたらどうなるか。階段を上がっている間は気が気でなかったのだが。


 と言うか、落ちたらどうなるのだろう。

 死ぬのか?

 落ちるが正解だったり……いや、それは本当に最後の手段だ。


 今はこの何もない通路をただ歩くのみ。


 何も無い事は無かった。


 通路の先に、旋風で砂煙が舞い上がる。


 そこに、うっすらと黒い人影の様な物。

 向こうが透けて見える。

 霊的な奴だろう。


 どうしよう。

 このまま通してくれないかな。

 腹減ってきたし、喉がカラカラだ。


 爪を構え、その影を注視しながら止まった足を進める。

 影は動く気配は無い。


 攻撃をして来る訳では無いのか?


 慎重にユラユラ揺れるその影の横をすり抜ける。


 パンッ! と思いっきりデコピンをされた様な衝撃。後ろに弾かれる。

 弾みで、両手に持って居た爪が床に落ち、尻餅を突く。

 手から落ちた爪が一本、床を滑り地の底へと落ちて行った。

 慌てて覗き込むが暗い空間が広がっているだけ。


 残った五本の爪を拾い集め、再び影に向き直る。


 壁を背にして慎重に影に近づく。

 再度、衝撃。

 覚悟があった分、今度は持ち堪える事が出来た。

 と言っても二、三歩後ろに下がったが。

 三度みたび

 結果は変わらず。


 痛みはそれ程では無いのだが、通してくれる気は無い様だ。


 他の道を行けと言うことか?


 諦めようと振り返ると、いつの間にか背後にもその影が立って居た。


 ……そして、ゆっくり、本当にゆっくりと、ナメクジが這う様な速度でこちらへとにじり寄って来る。


 両方から挟まれたらどうなる?

 壁に押し付けられるか、場合によって反対まで押し出され下に落ちる……。


 クソ!

 霊って!

 どうすりゃ良いんだよ!?

 除霊か?

 浄化魔法か?


浄化ピュリフィケイション!」


 手を翳し、ラノベで読んだ魔法の言葉を唱える。


 何も起きず……!


 そもそも霊なんて初めてなんだよ!

 どうすりゃ良い!?



 いや……。

 初めて……じゃ無い。



 そうだ。

 霊が見える。

 それは……これは……直毘なおびの力。

 右目の力……。


 爪を持ったまま左手を顔の前に掲げ、人差し指と中指を立てる。


赤千鳥あかちどり!」


 裏神道佰捌(ひゃくはち)の秘術の一つ。

 敵を燃やし浄化する赤い鳥を具現化する術。


 しかし、何も起きず。


 何でだ!?


 稜威乃眼イズノメはある。

 なのにどうして術が出ない!


 稜威乃眼イズノメはある……まさか……目覚めたて……か?


 思い出せ。

 初めて稜威乃眼イズノメに覚醒した時を。

 幼い日の記憶。夏の夕暮れの街。マガに襲われた幼馴染。

 あの子を庇った俺は、無我夢中で自分の中に眠れる力を呼び起こした。

 それは……術とは到底呼べない裏神道の初歩にして全ての力の基礎。

 禍仕訳天かしわで


 手にした爪を捨て、そして、直立。

 目を閉じ、両手を胸の前で合わせる。

 パンと言う音が、全身に響き渡る。

 ゆっくり目を開ける。

 右目の稜威乃眼イズノメが、さっきよりはっきりと影を捉える。

 不浄の力の流れが観える。


 行く先を塞ぐ霊に歩み寄る。

 不浄の力の塊が俺に向け放たれた。

 左手でそれを振り払う。

 そして、霊の力の中心。神核。

 それを右手で掴む。

 霊が苦しみに震えるのがわかる。

 更に力を入れ、右手を握り締める。

 苦し紛れに放たれた攻撃は左手で防ぐ。


 そして、神核を握り潰し、霊は消滅した。


 体に……力が流れ込む。

 背後の一体も同じ様に。


「ユリちゃん……今度は上手く行ったよ」


 霊の消えた空間に向かい、そう呟き、その場にしゃがみ込む。



 空腹感はおろか、喉の渇きも癒えた。

 そして、疲労も無くなった。


 霊を倒したからだろう。


 昨日のコウモリの時も感じたが、今回はそれよりもはっきりわかった。


 つまり、ここで活動を続ける為には敵を倒し続けろと、そう言うことなのだろうか。


 そう結論付け、俺は爪を拾い再び歩き始める。


 その後も何度か霊に遭遇したが、既に俺の敵では無く。

 そして、石碑に辿り着き現実へと帰還した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on 新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
https://ncode.syosetu.com/n3012fy/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ