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初夏③

「あ……」


 夏実の腕に巻かれた包帯、つまり俺が術で作り上げた布がサラサラと崩れ落ちる様に消えて行く。


 もう三時間か。

 その奥から表れた肌はすっかり綺麗になって居た。


「そろそろ行くか」


 空も白んで来た。

 敵の気配は無い。

 門を見つける為には動かねばならない。


「ねえ、これ、どうなってるの?」


 傷跡すら残らない左腕をさすりながら夏実が問う。


「俺の術」

「私にも使えるの?」

「いや。

 力は人それぞれ。個性見たいなもの」

「じゃ、私にも何かミラクルな力があるの?」

「あると思う」

「どうすれば良いの?」


 夏実が俺を見上げながら問う。

 僅かに頬を紅潮させて居る様な気がする。


「取り敢えず、下へ降りよう」


 そんな熱気を削ぐ様で悪いが、そろそろ枝の上が辛くなって来た。




 ◆


 林の中の少し開けた所。

 まるで何か爆発でもあった様に木が倒された、そんな光景。


 白んで来た空の下、そこで荷物を置き腰を下ろして夏美と向かい合う。


「俺の力。

 多分、君にもある力。

 向こうの世界に無くここにだけ有るもの。

 力の根源、源。

 俺はそれをマナと呼んでいる。

 正式な名称は知らないけれど、師匠と呼ぶべき人からそう教わった」

「マナ……」

「そう」


 素直な生徒を演じる夏実に頷きを一つ返しながら続ける。


「マナは、こちらで活動をするためのエネルギーでもある。

 この体を維持するための。

 だから、マナを吸収することで傷ついた体を癒やす事も出来る」

「あ、それで」

「そう。

 ついでに言うと、何も食べてないけど腹、減ってないだろ?」

「そう言えば」

「マナがあればそれだけで十分なんだ。こっちでは。

 睡眠も要らない」

「へー」


 目を丸くして小さく頷く夏実。


「では、そのマナを手に入れるためにはどうすればいいか。

 それはすごく単純。

 敵を倒せば良い。

 そうすることで死体から溢れ出るマナを体内に取り込むことが出来る」


 或いは他の人間でも大丈夫だろう。

 だが、そんな事試すつもりは無いし、夏実が知る必要も無い。


「敵を倒せばその分強くなるのか」

「そういう事。

 敵は強いほどそのマナは濃密になる。

 そうして、体内に取り込まれたマナを使って自分に宿った力へと変えていく。

 尤も、さっき言ったようにこの世界で活動するためのエネルギーでも有るからそこを考慮に入れる必要はある。

 要するにリソース管理だな」

「じゃ、私が力を手に入れるためにはまず敵を倒さないといけないのね」

「いや。

 最初に倒した白い猿。

 あいつから十分な程にマナを吸収していると思う」

「そうなの?」

「ああ」


 当の本人には自覚は無いようだが、傷を直してもなおお釣りが来るぐらいに。

 俺が、ヨークと過ごした最初の三日間を軽々と上回る程度に。


「それじゃ、私はどんな術が使えるの?」

「それはわからない。

 これは俺の考えなのだけど、どういう力が手に入るかはこの世界へ来た段階で決まっている。

 つまり、最初にこの世界へ来た時にこうありたいと無意識のうちに願っていた、そう言う力が与えられる。

 それは、当然人それぞれ」


 俺の場合は、退魔師としての力。

 途絶えた裏神道、佰捌ひゃくはちの術。

 そして、左目に封印された禍津日マガツヒ


「私の望んだ……力」


 夏実は呟きながら自分の両手を見つめる。


「さて、前置きはこれくらいにして実際にやってみるか」

「はい」

「楽にして、そして目を閉じて」


 マスターに教わったやり方、それをそのまま夏実へ。


「暗闇の中、自分の周りに光を感じないか?」

「…………………………ある」


 目を閉じたまま、彼女はわずかに顔を上げ、答える。


「それが、君が今手に入る力。

 どれを選んでも良い。

 魔物を倒してマナと言うのを体に溜め込むと取る数が増える。

 強い力ほど、マナが必要になる」


 実際には強い力、では無く自分と相性の悪い力、なんだと思うけど。

 それは、まあおいおい分かるだろう。

 わからなくても二度とここへ来ないならば関係のない話。


「私の力……」


 夏実が目を閉じながら、ゆっくりと右手を伸ばし何かを掴もうとする仕草をする。


 暗闇の中、力を掴んだのだろう。


 おそらく、大多数はここにすらたどり着けない。

 統計がそれを証明している。

 飛んだ異世界に先人がいる事は稀だし、そうなるとマナを手に入れる事すら難しい。


 そう言う意味では彼女は幸運だった。

 俺と言う教師が居て、偶然にも猿のマナを吸収した。

 幸運である事、それはこの世界で生き残る為に何より必要な事だ。


「よし」


 彼女が、目を開け一言。


 一体なんの力を手に入れたのだろう。


 自分の両手をまじまじと見つめ、そして静かに立ち上がる。

 そして、俺を見て微笑んだ後、目を閉じゆっくりと右手を自身の胸の前に。


「マジカル・ベール キャスト・オン!」


 その言葉と共に、夏実の体がまるで釣り上げられるようにわずかに宙に浮き上がる。

 身につけていた豹柄の外套がなびきながら、光の粒子となり消えていく。

 それは、外套だけでなく身につけていた下着も同様に。

 一瞬、体の線が露わになる。

 直後、足に光が集まり、ハイカットのシューズに変わる。

 次いで、手。

 指先が覆われていないオープンフィンガーのグローブ。

 それから、腰から胸、肩へと光に覆われ、ふわっとスカートが現れる。

 そして、頭。

 チョコンと猫耳が飛び出し、そこから毛先へと光が通り抜け、最後にパンと光が弾ける。

 キラキラと余韻を残しながら。


「モード・レオパール!」


 両手でファイティングポーズを取りながら、夏実がドヤ顔を決めた。


「どう?」


 えっと……裸を拝めた様です。ごちそうさま。


「魔法少女?」

「へへへへ」


 少し照れくさそうにはにかんで笑う。


「すごい。体が軽い」


 二度、三度と飛び跳ねる。


「服もバッチリ」


 くるりとその場で一回転。


「なるほど。

 何となくわかった。

 こうやってそれぞれ違う力を手に入れて行くのか」


 猫耳がピクピクと動く。


「と言うことは……御楯のあの呪文ってさ、自分で考えてるの?」


 顎に手を当て、俺を見上げながらニヤリとする夏実。

 ……お前だって裸晒してんだからな!


 彼女は二度、三度、準備運動の様に上半身を捻ってからシャドウボクシングを始める。

 両手を交互に繰り出し、前後にステップを踏む。


 キレのある動きだな。


 魔法少女って、もっとマジカルな力で戦うんじゃ無いのか?


「ねえ」

「ん?」

「ちょっと相手してもらえる?」


 夏実が挑発する様に手のひらを上に向け、手招きする。


 こっちには歴史の闇の中を二千年以上受け継がれて来た刄術があるんだぞ?


 調子に乗ったひょっ子にこの世界の真髄を見せてやろう。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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