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丑の刻①

「遅い」

「すいません」


 五月一日。

 学校が終わって直ぐに都心まで出て来た。

 辛うじて18時前。


 だが、レアーの小さな会議室で向かい合うハナの機嫌はよろしく無い。


「で、用って何?」


 俺は鞄から一枚の紙を取り出し彼女の前まで滑らせる。


 【G play 攻略方法教えます! 生存確率99%!】


 黄色い紙に極太のフォントでそんな文字が印刷された安っぽいチラシ。

 連絡先として記されているのは電話番号と担当者の名字のみ。

 先日鶴川のG playに行った帰り、停めておいた自転車の籠に入っていた物。


 攻略法など無い。

 それは、あの世界へ行った俺が良く知っている。

 詐欺紛いの代物。


「これが何?」

「本物ですか?」


 念の為確認する。

 G社が何かを掴んで居る。

 その可能性は捨てきれない。


「本物だと思うわけ?」


 ハナが呆れた様に言う。


「いや。全然。

 どうしてこんな物をG社は野放しにしてるのかなと思って」

「何か問題でも?」

「興味本位で近寄る人間が増える」

「それの何が問題?」

「こんな筈で無かった。

 そう思いながら死ぬ奴が増える。

 それが問題で無いと?」

「無いわ。

 その中から生き延びる奴が出れば儲けものじゃない。

 アンタみたいに」


 俺たちはあくまで実験体な訳か。


「そうまでして何があるんです?

 あそこに」

「何があるの?

 逆に聞きたいわ。

 アンタ、どうして向こうへ行くの?」

「俺は……契約が……。

 それに、親父の……」

「何を勘違いしたか知らないけれど、アンタの父親は正当に評価されて採用されたのよ?」

「は?」

「よそ様の会社の採用に口出しするなんてある訳ないじゃ無い」


 そう言って口角を上げるハナ。

 ……何処まで本当なのか。


 しかし、そう言う事ならば俺の契約は……。


「一応、今月で三ヶ月。

 契約更新、どうする?」

「しなくても……良いんですか?」

「良いわよ。

 その場合、二度目は無いけど。

 他所へ情報が行かないように暫く監視も付くけど」


 そう言いながらハナは俺の前に新たな契約書を差し出す。


「更新するなら今月中にサインして。

 今度は半年」


 それだけ言ってハナは立ち上がる。


「時間よ」


 時計は十八時丁度を指していた。


 ◆


 その足で同じビルの中にあるG playの専用ブースへ。

 忌々しい安っぽいチラシを丸めてゴミ箱に。


 これが本物ならばそれはそれで別に良い。

 ただ、到底そうは思えないから問題なのだ。

 そうやって、何も知らない奴から金を巻き上げ甘い汁を吸う連中に腹が立つ。

 そんな状況に至っても尚、何ら規制をかけない国の連中にも。

 そして、それが当然だと言う体のハナにも。


『Welcome back! Lychee!』


 椅子の中から女の声。


『Are you ready?』

「Yes」

『Have a good trip!』


 悪趣味な言葉に送られながら、全身を包む違和感に身を任せる。



 ……死にたい奴は勝手に死なせれば良い。

 その危険性は、それなりに伝わってる。


 そう。

 そうやって死地から帰る。

 それこそが快楽なのだ。


 見上げた先で不敵な笑みを浮かべる敵、牛の頭をした獣人を見ながら思考を切り替える。


 手にした両刃の斧を挑発するように担ぎ上げ、悠然と構える牛頭。


 円型の闘技場。

 観客は居ない。


「混沌の主、君臨する者

 その全ては戯れ

 望みのままに。ただ、望みのままに

 唱、弐拾捌(にじゅうはち) 現ノ呪(うつつのまじない) 双式姫(にしきのひめ)


 右手に陽光一文字を握り込む。


 牛頭の背後に門が見える。

 通さない。

 そう言う事だろう。


 ……どかしてやる。

 力尽くで。

 それだけの力を、この世界で得た。


 さあ、来い。


 挑発する様に左手で手招きする。

 牛頭は、器用に笑ってからこちらに突っ込んで来る。

 誘いに乗ってやった、と言う様な体で。

 半身になり、迎え受けるように下がりながら刀を繰り出す。


 隙を突いて逃げ帰るつもりなど無い。

 正面から押し通る。

 お前をぶち殺して。



 ◆


 牛頭天王は吉祥天にして御剣ミツルギ派の守り神。

 目の前の牛頭鬼がそれである訳では無いが、彼女との戦いを経て俺は一つ強さを手に入れた。

 そう、確信している。


 丸五日。

 そう。

 五日もこいつと殴り合った。

 休憩を挟みながら。


 まだ名残惜しいが、時間だ。


「楽しい時間だった」


 牛頭鬼に向け、拳を突き出す。

 すると牛頭鬼はその手をすり抜け両腕で俺を抱擁する。


 背骨が軋む程の熱い抱擁を受けたのちに、俺は現実へと帰還する。

 さらば。

 強敵ともよ。

 ……雌だったけど。





「やっべ!」


 時計は24時を回っていた。

 もう、一時近い。

 終電が!

 明日、学校!


 帰り支度を整えながらスマホで終電を検索。


 ……アウト!


 どうすっかな。

 ビルから出て少し肌寒い夜風に吹かれながら途方に暮れる。


 タクシー?

 幾らかかるのか。


 いや、しかし、背に腹は変えられない。

 ウチにはあの牛頭鬼より恐ろしい母親がいる……。


 ……スマホが震える。

 ……鬼かな?

 恐る恐る画面を確認。


 ……ハナ?


「はい」

『帰れる?』

「え、いや……」

『そのまま日枝神社の方まで来て』


 それだけ言って通話が切れる。

 日枝神社は目と鼻の先なのだが。

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