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車中の取り引き

 飯を買いに出る。しとしとと雨が降る中、傘を差し。

 雨の所為か、真夏なのに少し肌寒い。


 霞ヶ浦を眺めながらスマホを取り出す。


『はい。御槌です』

「あ、御楯……御楯頼知です。いきなりすいません」

『どうしましたか?』

「調べて欲しい事がありまして」

『調べる?』

「先日の鈴木美蛙。

 彼の周囲……直接は関わりが無いかもしれないけれど、生活圏内で不自然な死者が居ないか調べてもらえませんか?」

『不自然な死者?』

「ええ。同年代で同じ学校とか」

『ふむ。洗ってみましょう』

「助かります」

『構いませんよ。

 使われるのには慣れてますから』


 あー、それはひょっとして……。


「親子揃って迷惑かけてますか?」

『ははは。

 君達は本当に良く似た親子だなと感心していたところだ』

「すいません」

『謝る事は無い。

 間違った事をしている訳じゃないのだから。

 ……御紘の先代はさぞやしっかりと教え込んだのでしょう』

「……親父さんには感謝しています。

 しきれないくらいに。

 それから、四葉さんにも」

『今度、伝えておきますよ。

 調べ物はたしかに。

 何かわかったら連絡しますよ』

「お願いします」


 無理を言ったな。

 だが、使える物はなんであれ使う。

 電話を切った俺はそのまま次の相手へコール。


『何だ?』


 名乗る前にこれか。



「確かめて欲しい事が。

 出来れば会って話したいんですけど……」


 その返答は背後からクラクションで返ってきた。

 振り返ると日産のフェアレディ。

 その運転席に座るハナ・ウィラード。


 思った以上に近くに居たな……。

 怖っ。


 ◇


「私物ですか?」

「借り物よ」


 助手席のシートへ身を沈めながら尋ねる。

 前から疑問だったのだけれど、この人に貴婦人と言う名のこの車を貸し出す人とは一体どんな人物なのだろう。


 走り出した車は霞ヶ浦に掛かる大橋を渡り、家から遠ざかっていく。


「で? 話は何?

 バカンスに行く気になった?」

「しばらく天気悪そうなんで、結構です」


 七月も終わろうかと言うのに、日本全国的に梅雨が開けてない様な雨続き。今年は冷夏だろうと早くも野菜の値上がりが話題になり出した。


「乾いた場所がお望みなら用意するわよ?」


 どうしても拉致りたいのか。

 モテモテだ。


「呼ぶんじゃなかった」

「普通は呼ばないわよね。

 バカなの?」

「こっちも情報が欲しいんですよ。

 貴女なら、話になる。そう思って」

「ふうん。

 で?

 何が聞きたい?」

「えっと、何でFBIがアイツを追っているのか」


 だって、国外で活動するとかおかしいだろ?


「人材不足。人がいないから」

「なんか……すんません」


 凄く嫌そうにいわれ反射的に謝ってしまう。

 俺、悪くないのに。

 いや、聞きたいのはそう言う事ではないんだけれど。


「ロンドン、ニューヨーク、ベルリン、ローマ。

 立て続けに起きた事件を調べ、全ての現場にいた一人の男の存在を突き止めた。

 それが、ミハイル・イワーノフ。

 もちろん偽名よ」

「突き止めた?

 どうやって?」

「USには毎日20 billion以上の画像が送られてくるのよ。世界中のモバイル端末から」

「え?」


 毎日、二百億?


「え、それ……」


 勝手に見ていいの?

 ダメじゃね?

 いや、二百億とか見ようと思って見れる数ではないぞ?

 しかも、1日で。

 あれ?

 そしたら、俺の夏実コレクションも?


「見たんすか!?」

「AIの画像認識。

 人の目で識別してる訳ないだろ?

 バカなの?」

「……」


 AIには全人類のプライバシーが筒抜けか。

 そりゃそうか。


「でだ、そのミハエルが羽田で確認されたので飛んできた訳」

「……画像認識って、どれぐらいの精度なんですか?」

「そうやって疑うのが馬鹿らしくなるくらい」

「いや、双子とか」

「識別する。

 例えば、鈴木美蛙。

 確かにそっくりだな。

 だが、AIはそいつとミハエルは別人だと判断した」

「へー。別人」

「別人なのか?」

「別人なんでしょうね」

「何を知ってる?」

「どうやら彼は俺の知っていたミカエルそのものではなさそうだと言う事はわかりました」

「……それで?」

「トリグラフ、メトロ-2」

「何だ? それは?」

「トリグラフはスラヴ神話の神。

 メトロ-2はモスクワに眠る地下鉄の都市伝説。

 その二つが、彼の口から語られた」

「それで? それが一体なんなの?」

「さあ?」

「……お前、ふざけてんのか?」


 信号に捕まり車が止まる。

 運転席のハナが氷のような目で睨む。


「それを探って欲しいんですよ。

 Xファイルで」

「Xファイルには過去の事しか書かれていない」


 あ、そうなの?

 それならそれで、聞きたい事がある。


「……ロズウェルの真相、知ってたりします?」

「それを知りたければFBIに入る事ね」

「FBIかぁ」

「その為には市民権が必要だけどな」


 無理じゃん。


「もし、俺の情報がそれに見合う価値があるなら教えてください。

 ケネディ大統領暗殺の真相と一緒に」

「考えておくわ。

 それで、どこでそいつと会った?

 あの家に人の出入りなんてなかった」


 家にって……完全に見張られてるのかよ。

 まあいいや。


「G社が、オープンワールドを生成するソフトウェア、AIを開発したって話、聞いたことあります?」

「初耳ね」

「異世界への入り口。それを『G Play』と言う名で世に広めた」

「それが別世界?

 お前はそこから来たのか?」

「いいえ。

 そこに逃されたんです」


 窓の外を眺めながら答える。


「だから、また戻ったこの世界で好き勝手されるわけにはいかないんですよ」


 せわしなく動くワイパーの向こうで稲穂が雨に濡れ揺れる。

 この風景こそが俺の過去。


 ◇


 Xファイルの中身は本気で気になる。

 人ならざる物が跋扈するこの世界であっても、地球外生命体の存在は公には確認されていない。


 ああ、しかし、ハナに嘘を教えられたとしたらそれが本当か確かめる術はない。

 ……やはりFBIになるしかないのか。

 ハナのコネでなんとかならないかな。

 後でちょっと調べよう。


 そんな風に自分の将来に対して浮気心を出しながら雨の中家へと戻った俺を待っていたのは宅急便のオッさんだった。


「あ、ここの人?」

「あ、はい。御楯です」

「あー、よかった。

 荷物、五つ届いてるよ。

 ここにサインか印鑑ちょうだい」


 荷物? 五つも?

 なんだろうと思いながら受け取りの伝票を見る。


 差出人『御楯由美子』


 ……バアさんだ。

 何で?


「ここ、空き家じゃなかった?」

「あー、夏の間だけ使わせてもらってるんです」

「へー」


 五枚の伝票にサインしながら答える。

 届いたのは大きなダンボール五つ。

 どうしていきなりこんなに荷物を送って来た?

 救援物資?


 開けていいものか。

 取り敢えず、電話をするが繋がらず。


 なんとなく、嫌な予感がする。

 無造作に置かれた荷物を眺めながら、買ってきた蕎麦をすする。


 ◇


「……何で?」


 送られて来た荷物。

 その送り主が目の前にいる。


「二人の面倒を見るためです」


 そう言い切った祖母、御楯由美子。

 その横でキョロキョロと家の中を見回す実。


「母さんは?」

「早々に泣きついてきました」


 そっすか。


「そう言うわけですから、しばらくの間は私が二人の面倒を見ます」


 そっすか。


「……畳じゃ」


 実が畳を手でスリスリと撫でる。


「珍しい?」

「懐かしいのじゃ」

「あっちの家にはないもんな」

「……良い香りじゃ」


 そうなんだよ。

 しばらく放ったらかしにしてあった筈の空き家。

 なのに畳が全部張り替えられていた。

 まるで誰かが俺が戻る事を予想していたかの様に。


 ◇


 予定外に、実と祖母が現れた。

 そして、一気に騒がしくなる家の中。

 実ははしゃいで、広くない家の中を走り回る。

 祖母は家の中を丹念に確認して回る。

 まるで勝手知ったる我が家の様に。


「……楽しいか?」


 宿題をする横で飛び跳ねる実に声をかける。


「のう。ヨリチカ」

「兄な」

「兄さま。

 田んぼがいっぱいあったのじゃ」

「田舎だからな」

「すごいのう。

 あんなに沢山の田があるから毎日お米がいただけるんじゃのう」


 ……そこに感動があるのか。

 俺はそれを当然としか思わなかったのだが。


「それを買ってくれてるのが響子だ」

「ならば、ありがとうを言わんとな」

「……そうだな」


 ケタケタと笑う実。

 ……風果はこんなに無邪気に笑った事があっただろうか。

 今は居ない、この屋根の下で暮らした妹を思う。





神楽風果〜上野頼知と風巻凛子とカフェにて〜


「へー。ボクサーブラック?」


聞いたことが有るような気もする、俳優だという上野さんのお父上の代表作。


「……はいはい。その反応ね。

わかってるよ。

何か聞いたことある。あるかな?いや無いかも?……無いね。でも、ドヤ顔してるし、とりあえず聞いた事がある体にしておこう。

そう言う事だろ?」

「……えっと……」


概ね、そうなのですけれど……。


「ヨッチ、もう面倒くさいよ。それ。

風果ちゃんが目を泳がせて困惑してるじゃん。

取り敢えず謝りな?

世界を代表して」

「や、俺が世界の代表?

その意味がわからない」

「分かれ」

「……分かった。

……させん」

「えっと……」


何でこの人はわざわざ私に謝るのだろう。

でも、この困惑しきりの仕草がとても可笑しくて、可愛らしくて……。


「おおい。耳まで真っ赤だけれど?」

「うっせ!」

「やべ! 新型ウイルス? 伝染るぅー!

濃厚接触は風果ちゃんだけにしといて」

「おまっ!?」

「ほぇっ!?」


一瞬、上野さんと目を見合わせ直ぐにその目を逸らす。


「……なんなの? このナメクジ達」


……ナメクジってなに?

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script?guid=on 新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
https://ncode.syosetu.com/n3012fy/
― 新着の感想 ―
[良い点] ハナさーん! [気になる点] 響子さんダメダメじゃねーかw [一言] クソザコって意味だよ! いやしかし風果がヒロインな世界もいいな……、上野姓の頼知ってことは、直毘世界では会ったことのな…
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