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異世界。その始まり③

「これ、もうわかんねぇな」


 つまり、俺は裏神道を操る一族。

 そして、生まれながらにして凶神を封印された器。

 そう言う事なのだ。


 大学ノートに書かれた設定によると。

 そのノートの作者は俺な訳だけど。

 そして、反対側で骨と化しているアメコミヒーローは、あの爪で悪漢と戦うヒーローへ憧れていた誰か。

 そう言うことだろうか。


 それがどうしてこんな所で力尽きた?

 空腹?

 疲労?


 そう言えばここに飛んでから何も食べてない。

 そろそろ晩飯の時間だと思うがそれほど空腹感は無いな。不思議と。

 まあ良い。

 それより白骨死体だ。

 何か原因が?


 近寄り調べるほか無かった。


 壁に刻み込まれた爪の跡は更に先へと続いている。

 と言うことは、先まで行って引き返して来て、ここで力尽きた。

 右手に赤い宝石を握りしめ。


 取り敢えず、先に行こうか。


 俺は立ち上がり、爪の刀を一つ右手に持つ。

 左手にはヒーローが持っていた宝石。


 それらを手に更に奥へと進む。


 武器がある。

 それだけで、少し心強い。

 歩きながら素振りをする。


 逆手に持ってみたり、順手で持ってみたり。

 二刀流の方が良いかな。




 壁の爪の傷は段々と深く、荒くなって、時折言葉が混じる。



 Great!


 グレイト



 Amazing!


 アメイジング



 Fuck!!


 放送禁止用語



 Danger


 ダンガー……?



 hurt!!!!


 ハー……フート?




 それらはヒーローの喜びと苛立ち。

 そんな風に思えた。


 行けども行けども変わらぬ景色。


 彼はどうしてここに居たのだろうか。

 彼もG社で?


 考えながら歩く俺に水滴が一つ落ちて来た。

 腕に冷たい感触。


 何だ?

 雨?

 そんな訳は無いか。


 脚を止め先の様子を伺う。

 目を凝らすと、天井から水が滴り落ちているのが見えた。


 爪の跡はまだまだ続いている。


 このまま進むとびしょ濡れにならないだろうか。

 裸で体を冷やすのは危険では無いか?

 行くなら傘か、せめてタオルが欲しい。


 少し考え、俺は引き返す事にした。

 反対側もまだ見ていない。

 濡れるのはそれからでも良いだろう。



 ヒーローの遺骨の所へと戻る。

 大量にあったコウモリの死骸が無くなっていた。

 跡形も無く。


 ……何かが食べたのだろうか。


 念の為、もう一本爪を拾い二刀流で行く事にした。


 そうやって引き返して歩く俺の耳に再びコウモリの鳴き声が届く。

 逃げられないのは分かっている。

 覚悟を決め、両手の爪の小刀を振るいそれを向かい受ける。




 素晴らしい切れ味だった。

 そう。

 スクリーンの中で活躍する彼さながらに。


 そうやってコウモリを退けながら辿り着いた反対は行き止まりだった。


 マジか。


 垂直の壁が行く手を阻む。

 やはり、水に濡れて行かないとならないのか。


 傘が欲しい。

 文明って偉大だな。


 そう思いながら壁を恨めしく睨む。

 押したら開いたりしないだろうか。

 両手で押すがピクリともせず。


 しかし、壁に小さな窪みを見つけた。


 ……まさか。


 そう思いながらヒーローの手にしていた赤い宝石を近づける。

 サイズはピッタリだ。


 恐る恐るその窪みに宝石を押し込み、嵌める。


 ゴゴゴという音がして、壁が震えだす。


 俺は後ろに下がって距離を取り、小刀を構える。


 ゆっくりと、壁が開いた。


 その奥に、小さな小部屋。

 そして……探していた石碑。

 イラストで見た石碑があった。


 ……これで、帰れるのか?

 石碑に触れようと一歩踏み出し、そして、足を止める。


 この爪……コレ、何の金属だろうか。

 現実に持ち帰ったら、ちょっとした騒ぎになるんじゃない?

 それでなくてもちょっとカッコイイし。


 今、手に二本有る。

 後四本残されている。


 取りに戻ろう。

 俺は、再びトンネルを引き返す。

 今度は走って。


 ◆


 三度みたび、コウモリの群れに襲われながらヒーローの元へ。

 合掌して成仏を祈り、爪を拾い集める。

 去り際に、念の為十字をきっておく。


 さ、現実へ帰還だ。



 計六本の爪を抱えて石碑に戻り、そして、恐る恐る石碑に触れる。

 石碑の表面が淡く青く光りを放つ。


 と、視界が暗転した。


 来た時と同じ様に全身に圧迫感。


 気付くと、小さな小部屋の中に立っていた。

 シャツとジーンズ姿で。

 必死に掻き集めた六本の爪は何処にもなかった。


【おかえりなさい】


 そう画面に記されたタブレットが壁に掛かっていた。


【アンケートにお答えいただくと次回以降ご利用できるクーポンを差し上げます】


 とも表示されていた。

 それを手に取り、椅子に座りアンケートに答える。

 来た時と違い、少し柔らかい座り心地だった。


 ◆


【問1:どのような場所でしたか?】


 洞窟


【問2:そこであなたは何をしましたか?】


 散歩


【問3:他に誰かいましたか?】


 いない


【問4:また利用したいと思いますか?】


 はい


【問5:他になにか気になることはありましたか?】


 特になし


【ご協力ありがとうございました。

 ご利用が無料になるクーポンをプレゼントいたします。

 アプリより取得して下さい。

 ご協力ありがとうございました。

 またのご利用を心よりお待ちしております】


 ◆


 アンケートに答え、そして部屋を出る。

 順路通りに進むとすぐに建物の外に出た。


 スマホを取り出す。

 時間は22時を回っていた。


 鈴木さんに『出ました』とLINEを送る。

 そして、コンビニで飲み物を買って店の前で暫く待つ。


 既読にならないので『先に帰ります』と送って帰路についた。


 遅い、と母親に一言文句を言われながら晩飯をかきこみ、そして風呂に入る。

 風呂場の鏡に映った俺の目は、見慣れたいつもの目だった。


 寝る前に確認したが、鈴木さんのLINEはまだ既読になっていなかった。

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