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多重人格

 二度目の異世界。


 俺は、一つの物体を見下ろしていた。


 転移したてなのだろう。

 粗末な下着姿の遺体。


 その腹は無残にも食い破らされていた。


 物音に気付き、急ぎ駆けつけた時には既に遅く。

 苦痛に歪み、涙と涎と鼻水に濡れた顔には見覚えがあった。

 俺を招いた知り合い。ミカエル。


「惨めだろ?」


 その遺体を見下ろす俺に背後から声をかけたのは……。


「ミカエル……」


 その遺体の主。

 だが、涼しい顔で俺の背後に立っていた。


「転移するなり獣に襲われ、逃げまどう間にこの様だ」

「……」

「だけれど、そのお陰で僕の願いは成就した」

「願い?」

「転生。生まれ変わってチートだ!」


 目の前のミカエルが両手を広げながら恍惚の表情を浮かべる。


「それも、人を超えた存在として!」


 天を仰いで高らかに言ったミカエル。


「もう! 俺様をコケにするやつなんていない!

 アイツラは全員、惨めにも許しを請いながら死んだ!!

 全員、そう全員だ!!

 ハッハッハ!!!」


 片手で顔を覆いながら高笑いを上げるミカエル。

 その豹変ぶりに俺は絶句するしかなかった。


「お前はどうする?

 俺に許しを請えば片腕として活かしてやらなくもない!

 絶対服従の刻印を刻んだ上でなぁ!

 ……あ? ……うるせぇよ! 今は俺の……黙れ! 黙れ黙れ黙れ!!」


 絶叫しながら、頭を抑えうずくまるミカエル。


「……うぅ……ぜ……」


 うめき声を漏らしながらのたうち回るミカエル。

 だが、その動きがピタリと止まる。

 そして、静かに立ち上がった。


「……ルシファーが、失礼したね」


 さっきまでとはうって変わり、静かな顔を俺に向けるミカエル。

 その両目は普通の目に戻っていた。


「……ルシファー?」

「最近、抑えが効かなくて」


 そう言って、小さく首を振った。


「来てくれて嬉しいよ。同士」

「その呼び方、好きじゃないんだけど」

「そうか。元々僕たちは相容れない運命さだめだものな」

「そんな相容れない俺を、どうして呼んだ?」


 今のミカエルなら、話が成り立つか?


最終戦争ハルマゲドンを起こす。

 ……共に戦おう」

「いつ?」

「厳しい冬を三度越えた日。」

 その日が約束の日」

「……三度の冬」

「これより夏は訪れない」


 それは、最終戦争ハルマゲドンではなく終末の日ラグナロクの前触れだ。

 心のなかでツッコミを入れる。


「そのために色々と準備が必要でね。だから同士に声をかけた」

「それが、わざわざこんな所へ呼び出した理由?」

「向こうだと色々と邪魔が入るだろう?

 この前の様に。

 まあ、会うタイミングがズレたのはこちらの落度だ。

 まだ、機械の調整が上手く行かなくて」

「機械?」

「トリグラフだよ。今は僕の手の内にある。嗚呼、G Playと言ったほうがわかりやすいかな?」


 ほう?


「流石。用意が周到ですね」

「そうだろう? 研究所は完全に掌握した。外に漏れる心配は無い。

 今度同士も招待しよう。我がメトロ-2へ」


 メトロ-2?


「さあ、共に夜明けを見よう」


 ミカエルが、右手を差し出す。


「……同士?」


 一歩下がった俺に、ミカエルが小さく首を傾げる。


「その呼び方、好きじゃないって言ってるだろ?」

「……敵対すると言うのか?」

「俺には協力する理由がない。

 何故そんな事をしたい?」

「そうか。やはりそうなるか。これもまた運命さだめ

「理由を言え」

「……神に理由は必要無い。

 それを不条理だ。理不尽だと嘆くのは人の身勝手」


 ミカエルが、顔を歪める。


「死して自らを神だと名乗る存在を俺達はこう言う。

 祟り神と」


 それは、祓うべき物。

 大きく後ろへ下がる。


「直毘、御楯頼知……参」


 右手を突き出し、術を。

 だが、それより前にミカエルの姿が消える。


「邪魔するなら、殺すしかねぇよな!」


 その声は、すぐ下から聞こえた。

 胸先で俺を見上げる黒白目。



 亟禱きとう 飛渡足(ひわたり)



 反射的に距離を取るが、間合いの外へ外れたミカエルが持っていた剣は赤く染まり、その剣に貫かれていた俺の腹からはとめどなく血が滴る。


「ザマァ! どうした? 悔しいか?

 どうせ直ぐ終わるんだ! お前も、お前らの世界も全部!

 ハッハッハッ…………だから、止めてくれ」


 最後に、懇願するように言った顔。

 それは、ルシファーでもミカエルでもなく鈴木さんの顔の様に思えた。


 亟禱きとう 飛渡足(ひわたり)


 その願いを聞き入れる為に、俺はまず逃げた。


 ◇


「……黒猫 添いて歩き

 落ちて戻る

 思いは血を越え飛び行く

 唱、伍拾伍(ごじゅうご) 命ノ祝(めいのはふり) 赤根点(あかねさし)


 飛んだ先ですぐさま傷を癒す。


 ……やられたな。

 油断がなかった訳ではないけれど、ミカエルは強い。

 昨日、埋めておいて正解だった。

 新しい御識札ごしきふだ


 今まで埋めた物と区別出来るように新しい字を作り刻んだ物。

 百の中へ一の文字を足した形。百一即ち千三つ。つまりは嘘吐き。

 この嘘の様な世界で目印にするにはぴったりだ。そして、俺が今、夏実へ嘘を吐き活動していることを戒める為にも。

 ……夏実と俺の名前の中から共通のところを抜き出した訳では決してない。


「とりあえず、色々わかったが……わからない事も増えたな……」


 キーワードは『トリグラフ』と『メトロ-2』。

 早くもXファイルの出番の気がする。


 そして、ミカエルの目的。

 それは多分語られる事は無いだろう。

 彼は、そういう自分の内面を曝け出す事を嫌っていたから。

 いつだったか、彼が言っていた。


『物語の悪役にも相応の背景は合って然るもの。

 だが、それは語られるべきではない。

 圧倒的なまでに強く理不尽に主人公の前に立ちはだかる。

 そう言う純粋な存在でこそ相応しいのだ。

 だからこそ輝くのだ』と。

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