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異変。その始まり②

頑張って週一で更新したいです。

 救急車を降りると地下の駐車場だった。

 ハナに連れられ建物の入り口へ。


 スーツ姿の男性が敬礼で出迎える。

 御紘の親父さんの葬儀で見た事がある。

 確か、弓削是穏ゆげしおん警部補。

 小隊の隊長で、母の部下。


「国内で、銃火器、爆発物の使用は困ります」

「そんな悠長な事を言っていられる状況?」

「しかしながら、我が国には我が国のやり方があります」

「不満があるなら大使館を通して言ってもらえるかしら?」


 相変わらず、他所の国でも遠慮なくやってるらしい。

 そして、そんなハナに対して弓削氏は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 そんな短いやり取りを交わした後に建物の中へ入った俺達、いや、俺に般若の様な顔をした女が怒鳴り声をあげた。


「頼知!」


 母、御楯響子である。

 だが。


「あれ? 何でいるの?」

「な、何でって、ここは私の職場よ!」

「知ってるよ。イタリア出張は?」


 一昨日出張して、帰国は三日後の筈。

 だから、俺が実の面倒を見ているのだけれど。


「連れ戻されたのよ!」

「それはご愁傷様。土産は?」

「そんなの、買ってる暇なんてありゃしないわよ!」


 いつにも増して響子の声がデカイ。


「何でそんなピリピリしてんの?」

「時差ボケで全然寝れてないの!

 それよりアンタ、何した!? ……て、アンタここに居て実はどうするの?」

「あー、引き取りは夏実に任せた」

「杏ちゃんに!?

 あのさ……前々から気になってたんだけど、アンタと」

「課長。

 そろそろ会議が始まります。

 家族会議は、その後で」

「あ、う、うん」


 弓削隊長、ナイス!

 キラキラネームは伊達じゃない。

 いや、弓削是雄ゆげのこれおに連なる陰陽師一族の正当後継者なのだけど。

 面倒な上司の扱いには慣れていると見える。

 今度、取扱説明書を貰おう。響子の。


 ◇


 重苦しい空気が流れる会議室。

 そこには既に二人の人物が腰を下ろしていた。


 ……一人は、響子の上司であり、公安八課の実質的なトップ、御槌公太郎。

 俺と風果の師、御槌四葉の義兄である。婿養子と言う形ではあるが御天八門が一つ、御槌家の当代として名を連ねる苦労人。

 その苦労の程が、頭皮に有り有りと刻まれているのが痛いほどわかる。

 ウチの母が薄くなった頭の何割を占めているのか怖くて聞けない。

 その横は……誰だろう。

 しゅっとした顔の男性。


松殿忠臣まつどのただおみ。総理補佐官よ」

「保身が先に立つ小物だな」


 小声で内心の俺の疑問に答えをくれたのは母。

 そして、余計な情報をくれたのはハナ。

 そんな母とハナと言う、女性二人に挟まれる形で会議室へ腰を下ろす俺。

 例えるならば……両手にギロチン?


「ハナ・ウィラード捜査官」


 その松殿氏が口を開く。


「国内に於いて、銃火器の使用は困る。謹んでくれたまえ」


 それに対し、ハナは態とらしく舌打ちをしてから反論。


「この国は痛みを感じてからでないと腰を上げないと言うのは本当だな」


 その言葉にやんわりと答えたのは御槌参事官。


「予防的に動く。

 それを良しとしない事は……前大戦からの教訓ですので」

「だから負けるのだ。

 わかっているのか?

 今、まさに、この世界へ終末が訪れようとしている事に」

「だからと言って、常識と日常を脅かすのを良しとしていないのだよ」


 若干、総理補佐官が声を荒げる、


「そうやって、答えを先延ばしにして誰かが決断を下すのを待っている」

「それは、首相への侮辱と受け取るが?」

「それ以外に何がある?

 是非聞かせて貰いたいものだ。

 同盟国は自国で防衛能力を持っている。

 そうペンタゴンへ報告すれば、私はこんな蒸し暑い国を今すぐに後に出来るのだから」


 それぞれの立場を盾に主張を張り上げる両者。


「補佐官。黙示録に向け動き出した。

 それは、疑いようのない事です。

 その前では、表の法律など小事」


 対照的に、静かな口調の御槌参事官。


「それより、今は今日起きた事象についてです。

 御楯くん」


 参事官が俺を見て問いかける。


「はい」

「待て。そもそも、何故その少年がここにいる?」


 と、当然の疑問を口にする総理補佐官。

 実は俺もそう思う。

 だけど、そんな疑問を口に出す暇すらなかったからな。


「重要参考人ですから」

「部外者だろう。

 取り調べなら然るべき所でするべきだ」

「参事官。

 本件は既に非常事態宣言が成される事が確定しています。

 つまり、公安八課はもとより御天八門を始めとした関係各所、協力組織と連携を取って対処にあたる事態となるのです」

「それは知っている」

「であるなら、御楯の後継者である彼がこの場にいる事はおかしくはない。

 更に、本件の最重要参考人でもある」

「御楯の?」

「私の息子です」


 総理補佐官殿は、俺と母の顔を順に見て溜息を吐く。


「……わかった。もう良い。進めてくれ」


 あ、いまこの人、投げた。何かを。


「はい。

 それでは御楯くん。

 爆破に巻き込まれたそうだが、体は平気ですか?」

「あ、はい」

「後から痛む事もあります。

 明日以降異変を感じたらすぐに病院へ行きなさい」

「はい」


 すげぇ。

 俺の体を気にかけてくれる御槌参事官。

 そのさり気無い心遣いに感動する。

 ていうか、そんな言葉をかけたのはこの人が最初だという事実に気付き愕然とする。

 横の母からもその言葉が出ていなかったことに。


「……爆破?」


 横の母がこちらに顔を向ける。

 あれ? そもそも知らなかったのか?


「店内の防犯カメラ映像は押収済みです。

 それを確認しながら質問をしてよろしいかな?」

「はい」


 室内が暗くなり、正面の壁にプロジェクターが映像を映し出す。


「黙秘は認めますが、虚偽はしないように」


 ちょうど俺が店に入り、席に座るところから再生された。


「まず、君があの店に行った目的について」

「昼メシです。

 行きつけの店が休業だったので、たまたま」


 窓際の四人席に腰を下ろし、外を眺める俺の向かいにミカエルが静かに腰を下ろす。

 そこで、映像が停止した。


「同席した人物と待ち合わせではなく?」

「ええ」

「では、この人物は知り合いですか?」

「……はい」

「一体誰なんだね? こいつは!」


 俺を睨み、言えと命令するような口調の総理補佐官殿に少しイラッとする。

 そして、俺が答えようか逡巡する素振りを見せるや否や、視線を弓削隊長へと向ける。


「これだけ顔がはっきりと映っているんだ。

 少し調べればわかるだろう!?」

「マイナンバーカードのデータベースを照合した結果、断定出来る結果が一件」

「何処の誰だ?」

「江東区在住の鈴木美蛙。十八歳、無職」

「そこまでわかっているなら直ぐに逮捕状を取れ!」

「しかし、当該時間、この人物にはアリバイがあります」

「アリバイ?」

「ええ。パチンコ店の防犯カメラにその姿が映っており、現在もまだ移動していない」


 鈴木さんには既に監視が付いているのか。


「彼は、この世界の人間ではない。

 だから、そのパチンコ屋にいる鈴木さんは無関係でしょう」

「この世界の人間ではない? それは死者か使い魔の類と言う事ですか?」


 俺の答えに、御槌参事官が訝しげな顔を見せる。


「いえ。人間です。

 死者かどうかは定かではありませんけど……。

 別世界の住人です」

「何だね!? その別世界というのは?」

「『GAIA』。人を異世界へと送るシステム。

 それを開発した世界が、存在する。

 そう言う事です」

「つまり敵は異世界からの侵略者と言う訳か!? どうしてお前がそんな事を知ってるんだ!」

「オマエもコイツと同じ、その世界からやって来たからか?」


 俺の横に座るハナが腕組みをしながら俺を睨みつける。


「コイツはオマエを同士と言っていた。

 どう言う事か聞かせてもらおう」

「……その世界で、俺は彼と友人だった。

 それだけですよ。

 もし彼がこの世界へ終末をもたらそうなどと考えているなら、何としてでも阻止する」


 例え、彼を殺す事になろうとも。

 この世界には守りたい笑顔がある。

 ……風果が見放した世界だとしてもだ。

 だが、そう言い切って見せたとてハナが俺に向ける視線は変わらない。


「それは、私達の仕事です」


 御槌参事官がそう言って再び映像が動き出す。

 固定されたカメラの映像。その端に、わずかに映り込む突き出された拳銃。

 映像の中の俺が、テーブルの下へと逃げる中、悠然と立ち上がるミカエル。

 そして、放たれた弾丸。

 その全てが、まるでSF映画の様に速度を落とし、彼の周囲に壁があるかのように宙で止まりそのまま重力に絡みとられ地面へと落下して行く。

 そして、映像が一瞬真っ白に変わった。

 スタングレネード が使われたのだ。

 再び映像が戻った時に映っていたのは、背に大きな白い翼を顕在させたミカエルの姿だった。

 そしてその姿が炎に包まれ、それと相対する様に青い光が画面の隅で瞬く。


 映像は、そこで途切れた。


 ……そう言う事か。

 御槌参事官……いや、御槌当代がどうして俺をここへ呼んだのか。

 その本当の理由を理解した。


「御楯警部。

 本件は、言わずもがな最重要案件である。

 明日より君が陣頭指揮を執ってこれに当たれ」

「ハッ!」


 横で母が敬礼をしながら立ち上がる。


「弓削警部補。

 御楯警部の補佐と共に、六壬会とのパイプ役を期待する」

「はい」


 母の横で弓削氏が立ち上がり敬礼。


 六壬会とは、勘解由小路家かでのこうじけ、土御門家、滋丘家、弓削家、三善家、蘆屋家の六家からなる陰陽師一族の組織である。

 御天八門と双璧を成すが、御天八門が表舞台へ立つ事を善しとせず歴史の中にその名がない事とは対照的に、彼らは積極的に宮廷に関わりを持ってきた。尤も、その所為で余分な権力闘争を強いられ家力を削いでしまったのは何の皮肉だろうか。

 だが、やり方こそ違え、国の安寧を願い支える者同士、御天八門とは緩やかに協力関係を築いている。


 その組織も動かす様に参事官が隊長へ命じた。

 つまり、この国の陰陽衆その全てを持って事にあたる。


 事態はそれ程の状況であるのだ。


「ハナ・ウィラード捜査官。

 何か、言いたい事は?」

「コイツの身柄を預かる」

「却下」


 ハナの言葉にすぐさま反応したのは俺を挟んで反対に座する母。

 何と! 俺を挟んで女性二人が俺の取り合いを!

 片方は悪魔の様な女だし、もう片方は鬼と揶揄される母だが。


「アイツがコイツを狙ってきたのは明らか。

 街中に放てば被害が拡大するだけだぞ?

 周囲から隔離出来、どれだけ火の手を上げようと問題ない場所に用意がある」


 ハナは、母ではなく総理補佐官の方を見ながら言った。


「……久米島か!」


 久米島って確か、米軍の射爆撃場があるところでは?


「補佐官!」


 母が立ち上がり、補佐官に食って掛かる。


「御楯警部。

 今回の様に市井を無闇に危険に晒しておく訳にはいかないだろう。

 親離れ出来ていない年でもあるまい?」

「補佐官。

 彼は高校生です。その彼を拘束、監禁するのは人権の侵害ですよ」


 母が文句を言う前に釘を刺す参事官。

 そうしないと目も当てられぬ事になっていたのだろうな……。


「おやおや。

 公安の人間に人権を説かれるとは」

「私は当然の事を言ったまでです。

 お分かりにならないようでしたら、法学部出身の秘書の方に教えを受けてみては如何ですか?

 夜の手ほどきだけでなく」

「な、貴様……!」

「貴方の首をすげ替えるなど造作も無い。お忘れないように」

「くっ……」


 ヤバい。

 御槌参事官、柔和な顔をして黒い。

 俺、将来この人達の部下になるの?

 考え直そうかなぁ……。


「まあ、良いわ。

 バカンスに行きたくなったら連絡ちょうだい」


 机の上でFBIの公式紋章が印字された名刺を滑らせ手渡すハナ。

 咄嗟に母がそれを奪おうと動くが、それより前に俺が拾い上げる。


「考えておきます」


 この先、情報のやり取りで必ず必要になる。

 俺は、手の中の名刺を見ながらそう確信していた。



人物紹介



御楯頼知

東京都稲城市在住、高校一年生。

高校入学に合わせ茨城より転居。

母、妹と三人暮らし。

まだ付き合ってない。

結果的に中二設定な世界の中で生きる事になったけれど、さてどうなることらや。


夏実杏(旧名 御紘杏夏)

川崎市麻生区在住、高校一年生。

高校入学に合わせ仙台より転居。

母と二人暮らし。

まだ付き合ってない。

作者すら名前を忘れるというミラクルを引き起こした三部の(多分)ヒロイン。


御楯実

御楯響子の養子。

保育園に通う六歳児。

六歳? ちょっと無理がないか?

まあ、フィクションだし。


御楯響子

警視庁公安部公安八課課長。

階級は警部。

料理は全くしない。

主人公よりあまねく世界に存在しているかも。

一部二部の時は正にARMSの高槻美沙がモデルだったけれど、この世界はそれより随分と人間臭くした。


ハナ・ウィラード

FBI捜査官

Xファイル担当。スカリー。

ここでも日本に飛ばされてる。

石原さとみで実写化希望。


鈴木美蛙(よあ)・ミカエル

え、お前復活するん!?


御槌参事官

御槌四姉妹の長女、御槌一葉の婿養子として御槌家当主となる。

常識人。

度重なる苦労は頭皮に現れる。


(旧姓)御槌四葉

御槌四姉妹の末っ子

御楯頼知、風果兄妹を六歳から十二歳までの間面倒を見た。

現在は一般人と結婚し二児の母。

腐女子。

設定だけの人。


御紘龍市郎

御紘杏奈の父。

御楯頼知、風果兄妹を十三歳から十五歳までの間面倒を見る。

急性心不全で死亡。

前御紘当主。

存命だった場合、娘が連れてきた男は太平洋の藻屑へと変わる。


御紘寅次郎

御紘龍市郎の弟。

現御紘当主。


担任

適当なピン芸人が居なかった……。

R-1までまってたらワタリ119になってた筈。


警視庁公安部公安八課

人ならざる物によって引き起こされる事件を扱う警察の中でも秘匿にされている組織。

まあ、フィクションだし?

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script?guid=on 新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
https://ncode.syosetu.com/n3012fy/
― 新着の感想 ―
[良い点] うひょー、三部だけ読んだらハナさん感じ悪いし組織的にお近づきになりたくない人だな。 個人的に色々と知ってるけど下手なことは言わない慎重派頼知くん好きやで? [気になる点] 見た限りまだGA…
[気になる点] まだ付き合っていない
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