合同作戦①
「眠い」
「眠いデス」
「わざわざ送り迎えしてやってんだから文句言うな」
アリスの運転するフィットで、シキシマセキュリティサービスへ向かう。
窓の外を流れる夜景の光。
終電はもう終わっている。
「デビルサマナーの指定時間が深夜二時なんだから仕方ないだろ」
「……じゃしょうがない」
「珍しく素直デスね」
「丑三つ時。古来、古今東西深夜二時は闇が支配する時間なんだ」
「ドヤ顔で言うことかよ」
……良いじゃないか。別に。
「で、その、ミカさんってどんな人?」
「化粧が濃い」
「そういうことでなく」
「何でも良いでしょ。
アテのない鬼ごっこが終わるなら」
「終わったら、セキュリティサービスは解散デスか?」
「な訳ない。むしろ、レアーにあれこれ言われそうで頭が痛い」
そう言って、運転席から振り返り俺を睨むアリス。
「怖いから前見て。
え、俺の所為?」
「半分はな」
何でだよ。
「もう半分は?」
「所長の所為」
その五島所長を引っ張って来たのがアリス自身と言う話なのだから自業自得。
いや、深夜日付が変わった頃に高校生の送迎させられているのは流石に同情するけど。
そして、母よ、そんなアリスに缶ビールの差し入れはどうかと思う。
◆
「おはようございます」
「おはようデス」
シキシマセキュリティサービスに入ると既に今回の作戦の面々は勢揃いしていた。
「始めまして。御楯頼知、登録名ライチです」
「銀城文香、登録名ミカで御座います」
スカートの裾を持って優雅に礼をする銀城。
付け睫毛が超長い。真っ白の顔に紫の唇。
厚化粧のゴスロリ。多分アラフォー。
「レアーの手伝いをしている、ライデンだよ」
「ライチです。お会いできて光栄です。大関」
元大関、錦丸。
差し出した右手を握り返す手はグローブの様にデカイ。
こんな人までG Playに。
横目に見たハナ・ウィラードがニヤと笑う。
レアーから派遣されたライデン。
そして、本作戦の要、ミカ。
それに俺とナーシャ、アリス。
計五人で、ベルゼブブ召喚作戦の幕が開ける。
◆
砂漠。
月は無い。
事前に埋めた御識札によって運ばれたここが俺の選んだ舞台。
他にめぼしい敵も出てこないここで、ベルゼブブ 退治と行こう。
「フフフ。
随分と、寒々しい所だこと。
貴方の趣味かしら?」
妖艶な空気を纏わせながら現れたのはミカ。
紫のドレスを着込み、熊のヌイグルミを手にしている。
「絢爛豪華な方が良かったですか?」
「そうね。
少なくともレディを招く場所では無いわね」
と言いながらウインクするミカ。
この人、現実より大分若く見える。
下手したら俺よりも。すげぇな。異世界。
「侍か。
手合わせ願いたいネ」
俺の頭の上にポンと手を乗せる巨漢、ライデン。
その身に武器は無い。
「生意気なんでこってり絞って下さい。
足腰立たなくなるくらいに」
と言うのはアリス。
こっちだと金髪碧眼なのか。
そして、水色のドレス。
完全に不思議の国。
「ミカの服カワイイデスね。
作ったデスか?」
「マダムジルって人がいるの。
招待状欲しい?」
「欲しいデス!」
「でも、貴女達の格好もとてもクールでしてよ?
ペアルック?」
「情報交換は終わってからにしましょう」
「じゃ、僕の店に来ると良いネ」
「やった!
絶対行きます!」
「何の店デスか?」
「ちゃんこ鍋ダヨ」
いや、だから……。
「余裕が無い男はモテないわよ?」
焦れる俺をアリスがからかう。
どうせモテないさ。
第一、俺この中で一番年下だぞ?
◆
ミカが砂地の上に直径十メートル近い大きな魔法円を描く。
二重円の中に十二芒星、月、星、太陽。そして、ルーン文字。
それを見ながら俺は初めて手にする武器の調整をする。
滑車の付いたコンパウンドボウ。
ムサシからもらった荷物の中にあった弓矢。
メインで使うつもりは無いが、ベルゼブブにはまずこれを食らわせる。
上手く射てるだろうか。
記憶の中の名手、桜河さんをイメージして弦を引く。
まあ、一矢必中で無くとも良い。
十射てば、一つくらい当たるだろう。
ライデンは入念に四股を踏んでいる。
それから少し離れティーパーティを始めるアリスとナーシャ。
矢筒へ矢を仕舞い、二人の方へ。
「優雅だな。一杯くれ」
「高いわよ?」
「所長のツケでよろしく」
冗談の後にティーカップに注がれた紅茶を口へ運ぶ。
そして、一人魔法陣を描くミカの方を見る。
「仕事が丁寧ね」
「足跡が残らないのが不思議デス」
「悪魔召喚って、大変なんだな」
そんな大変な仕事を一人に任せお茶会とは罪深い。
まあ、騒がず静かにしていよう。
「はい、これ。渡しておく」
ティーテーブルの上に置かれたのはキノコ。
「何これ?」
「こっちの、裂け目がある方を齧ると小さくなる。
反対を齧れば大きく。
何が起きるかわからないから渡しておく」
「へー」
その怪しげなキノコを持ち上げ眺める。
「私が育てたのよ」
「へー」
「女の子に食べたせたら服が破れてラッキースケベとか思ってるだろ?」
「思ってないよ!」
「最低だな」
「思ってない!」
ミカがこっちを睨む。
小さく頭を下げ謝罪。
「最低デス」
「思ってないって」
「ちゃんと服も拡大縮小するかならな?」
……それは。
「残念、とか思ってるだろ?」
「最低デス!」
「思ってないから!」
「五月蝿いですわよ!」
堪り兼ねたミカの怒鳴り声。
今度は三人深々と頭を下げる。
させん。
「じゃ、これ渡しておく」
御識札を取り出しテーブルの上に。
「何これ?」
「それを持ってれば俺が助けに行ける。
レアー連中が言うところのマーカー。
ここの入り口にも一つ埋めてある」
「……要らないわよ。
気色悪い。
何でアンタにGPS持たされないといけないの。
ストーカー?」
「おま……そこまで言うか?」
結局御識札は突き返された。
別に良いけどさ。




