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変わりゆく現実②

「ふーん」


 ドヤ顔を決めた俺に、素っ気ない対応のハナ。

 これが、塩対応と言う奴か。


「で、それどうするの?」

「え?

 えっと、マスコミに送りつけるとか」

「全部、私の作り話。

 信じる訳無いでしょ」

「G社の守秘義務とか」

「残念ながらG社にハナ・ウィラードと言う社員は存在しないわ」

「は?」

「裏で私は本国へ強制送還。

 それでも良いけど」

「ネ、ネットに……」

「アンタさ、相手はG社。

 かつて世界一のインターネットカンパニーと言われた所よ?

 アンタ一人で何が出来ると思うの?

 上げたファイルなんて、直ぐに改竄されて元が何だがわからなくなるわよ。

 恥ずかしい検索履歴までバレてるの忘れた?」

「すいません。消去します」


 考え無しに馬鹿な事をした。

 素直にデータを消去する。

 下手な武器は持たない方が身の為だから。


「アンタが粋がって相手にしようとしたのはそう言う物。

 個人がどうこう出来るような、そんなスケールじゃ無い。

 現実はそう言うどうしようもない事ばかりなのよ」


 窓の外を眺めながらそう言って、シートを戻しハンドルを握り、霞ヶ関で高速を下りる。


「でも、向こうじゃ違うんでしょ?」

「何か知ってるんですか?」

「知らないわよ。

 向こうの事は一切わからない。

 でもGAIAがリストアップしたって事は何かあるんでしょう」


 車はビルの地下の駐車場へと入って行く。

 入り口に、軍人が立って居た様な気がしたが。


「ようこそ。USAへ」


 車を停めた後、ハナが気取った声で言った。


 後でわかった事だが、このビルは太平洋戦争の後アメリカ軍に接収された山王ホテルの跡地に建っており、それは元号が二回変わった現在においても返還されて居ないまま。

 つまり、実質的にはアメリカなのだ。


 車から下り、ハナに着いて行く。

 エレベーターは地上二十二階で止まる。

 Rhea, Ltd.と言うプレートがあった。

 ……レア?


「レアー」


 首を傾げる俺にハナが一言。

 どう言う意味だろうか。


 彼女はそのまま会議室へ。


 中にはホワイトボードとモニター。

 テーブルに椅子が六脚。


 促され、椅子に座り待つこと暫し。

 ハナが封筒と書類を抱え戻る。


「さて、契約といきましょう」


 ハナが向かいに座り、書類を広げる。


「あの、俺、もうG playはやりません」


 ここ暫く考えて居た事。

 イツキを失ったあの世界へ戻るつもりは……無い。


 例え、彼女にとって過去が変わって居たとしても。


「何で?」

「そう、決めたので」

「何があったのよ。

 是非、聞かせて欲しいものね」

「大した事ではありません」

「でも、人前で大泣きしてたじゃない」

「何で……」


 それを……。


「カメラの目が無いところは存在しないわ。

 現実には」


 てか、どんだけ俺の事探ってるんだよ。


「そう言う事なので」

「はい、そうですか。

 と言う訳には行かないのよね」

「それは、こちらも」

「まあ、説明だけでも聞きなさい。

 それで、気持ちが変わるかも知れないし」

「変わらないと思いますけど」

「まず、持ち帰った情報には報酬を支払う。

 具体的な額は、内容を見て査定するので今は何とも言えないけれど。

 一回で一万ドルを超える額を受け取った例もあるわ」


 一万ドル……百万円!

 マジか!

 今までタダで遊んでただけなのに、そんな美味しい思いをしてる奴も居たのか。


 ……いやいや。

 金に命は変えられない。


「それから、専用の移動スペースを用意出来る」


 へー。


「飲み物、食堂使い放題。

 ジムも使い放題。

 家賃補助もある」


 その辺はあまり惹かれない。

 実家だし。


「どう?」

「いや……」


 ハナが溜息を吐いて、それまで浮かべて居た営業スマイルを取り下げる。


「まあ、少し時間をあげるからゆっくり考えて」


 そう言って、モニターの電源を入れる。


 そこへ……映像が映る。


 ……会議室だろうか。

 テーブルを挟んで向かい合う三人が俯瞰で映って居る。

 一対二。

 音声は聞こえない。


「何です?

 これ」


 テーブルの上に書類が一枚置かれて居る。

 二人はそれを見て居る様だが……。


「この書類。

 同じ物のコピーがここにあるけど、見たい?」

「え、ええ」


 ハナがテーブルの上に二つ折りにされたA4サイズの書類を広げる。


 ……履歴書だった。

 モニターの中の書類と見比べる。

 同じ物の様に見える。


 名前、顔写真にバッチリと見覚えがある……。


「これ、録画じゃ無いそうよ」


 マジか。

 という事はライブ中継?


「えっと、彼らは何をしてるのですか?」


 想像はつくが一応尋ねる。


「G社の関連会社の採用面接ね」

「……」


 それを受けて居るのは……親父。


 しかも、履歴書の経歴の一番下。

『1月15日 一身上の都合により退職』


 親父!

 知らぬ間に無職!?

 先月から無職!

 マジか!?

 どうりで最近おかずが少ないと!


「いい会社だと思うんだけど。

 受かると良いわね」

「えっと……そう言う事ですか?」

「何が?」


 とぼけながらわざとらしい笑顔を見せるハナ。


 つまり、親父の就職、ひいては我が家の家計とかそのほか諸々が俺の返事一つな訳だ。


「汚ねぇ……」

「そう言えば、アンタ、契約どうするんだっけ?」

「クソ! インキュベーターめ!」

「何それ?」

「何でも無い。

 わかりました。

 契約する前提で、説明お願いします」

「物分かりが良くてよろしい」


 真顔で座り直すハナ。

 切り替え早いな。

 こっちはまだ色々とショックなのに。


「やる事は今までG playでしてきた事と変わらない。

 向こうへ行き、帰ってくる。

 そして、その情報をレポートとして提出。

 これには内容次第で報酬を出す。

 出さなくても良いし、特に期限も設けて居ない。

 自分にとって不利益になる事柄は書かなくても良い。

 例えば、犯罪行為とか。

 書いても良いけど。

 そして、重要な事。

 虚偽の報告はしない。

 これは、絶対にわかるから」


 俺の目を見つめ、まるで脅す様に言う。


「そして、契約上守秘義務が発生する。

 他所に漏らさない事。

 特に酒の席で自慢したりとか……酒はそもそも駄目ね」

「はい」


 未成年だし。


「まあ、そう言う事だからクラスメイトにあんまり自慢したりしない事」

「はい」


 そんな相手、居ないので問題無い。


「ま、多少は目を瞑るけど」


 どうだろうか。


 モニターの中の親父が、二人と固い握手を交わし深々と頭を下げる様子が映る。


「渡航の施設はここを使う事」

「え。ここですか?」

「そう。交通費はもちろん支給する」

「ここ、何処ですか?」

「千代田区永田町。

 最寄りは溜池山王か国会議事堂前」


 わざわざ都心まで来ないといけないのかよ。

 確か、国会議事堂前までは小田急から千代田線の直通運転があったっけ。


「月に120時間は向こうへ行く事」

「120時間?

 ……無理です」


 土日しか行けないだろうし。


「学生なんで」

「学校へ行くより稼げると思うけど?」

「いや、そう言う問題では無いんです」

「そうよね。

 ……えっと……80時間まで下げる。

 それなら行けるでしょう」


 週二日。

 毎週土日それぞれ十時間……。


「無理す」


 ギリ、厳しそうだ。

 遊ぶ時間が無くなる。

 あと、試験勉強とか……。


「せめて40。

 もちろん、それ以上、可能な限りは行きますけど」

「少ない」

「学校を休む訳にはいかないんですよ」

「多少は犠牲にしなさい。

 学校の成績なんかより、見返りは大きいわよ?」


 そう言って、ハナは一枚の紙を出す。


 そこには、国立、私立問わず大学の名前が列挙されて居た。


「これは、G社に対して研究協力を要請して来た大学のリスト。

 ここに対し、G社は研究員として秀でた人物を推薦する事が出来る。

 つまり働き次第では、ここにも入れるのよ」


 そう言って、ハナはリストの一番上、『東京大学』と書かれた所を指差す。


「……それはすごく魅力的なんですが、それでも無理です」

「何でよ?」

「学校は休まない。

 それが母親との約束なので」

「母親……キョウコ・ミタテと?」

「はい」


 僅かにハナの顔が強張った気がした。


「わかった。40時間でいいわ」


 ……え?

 何で?


「それはならば仕方無い。

 上も納得するでしょう」


 いや、待って。

 ウチの母親何者なのさ?

 何で納得するのさ?

 ただの主婦だろ?

 最近は鶏肉料理ばかり作ってるただの主婦。


「その代わり、家賃補助の類は出せない」

「それは問題無いです」

「伝える事はこれくらいね。

 問題無ければここにサインと印鑑を押して」

「印鑑、持ってないです」

「こっちで用意してるから大丈夫」


 そう言って、三文判を取り出すハナ。

 ……何でそんなの用意してんだよ。

 まるっきり闇金のやり方じゃ無いか。


 不安になった俺はもう一度契約書にじっくりと目を通し、サインと判子をつく。


「はい。これて契約は完了。

 今から貴方は研究員リサーチャーです」

 

 ……専業とイツキが言って居たやつだ。


「で、早速なんだけど、レポート出して」

「は?」

「だって、今まで適当なアンケートしか出して無いでしょ。

 書ける範囲で良いから細かく書きなおして」


 めんどくせえ。

 まあ、仕方無い。


 貸し出されたパソコンで今までの異世界での出来事をまとめて行く。

 ユキの凶行は書かなかった。

 そして、イツキの事も。


「あと、これも」


 PCに打ち込んだレポートの他に鞄に入って居た大学ノートを取り出し渡す。


「上手いわね。

 アンタが書いたの?」

「はい」


 今まであっちで見たモンスターや洞窟の様子を記憶を頼りにスケッチしたもの。


「じゃ、これはスキャンして返すわ。

 査定金額はすぐに出るから」


 そう言い残し、ハナは一度部屋から出て言った。

 そして、ノートの他にもう一枚紙を持って戻る。


 そこには査定金額が書かれて居た。

 ゼロが……三つ。

 三千円……。


 そんなもんか。


「スケッチと、ヨークの事が高査定の様ね」

「ヨーク……」

「君の話の裏付けは彼から取れた」

「ヨークは……生きてますか?」

「ピンピンしてるわよ」


 なら良い。


「報酬は口座に振り込まれるから。

 あ、口座はもう分かってるから大丈夫よ」


 いやいや。

 個人情報……。


 なんか、もう良いや。

 俺の個人情報、丸裸。


「で、最後のレポートはどうしても出さない訳ね」

「書く様な事、無いですよ。

 何でそんなに気になるんですか?」

「ラヴ・ロマンスの匂いがするからよ!」


 ハナが巻き舌気味に言った。


 そんな理由かよ。

 しかも、当たってるし。


 ◆


 帰りも送ると言うので車に乗せてもらう。


「トーキョーの割に遠いわよね」


 そんな文句を聞き流しながら、スマホで口座を確認する。


 ……一、十、百、千、万、十万……三十万!?


「振り込まれてた?

 三千ドル」


 ドル!?


「すげぇ」

「そう思うなら私に何かプレゼントしても良いのよ」

「いや、意味わかんねっす」

「取り敢えず、髪でも切りなさい」

「はあ」


 折角だから、親になんかご馳走するかな。

 就職祝い。

 二人分の。


「ハナさんって、何者なんですか?」

「名刺渡したでしょ」


 そんな奴居ないって言ってた癖に。


「ラングレー?」

「小説の読みすぎよ」


 ラングレー。

 CIAの隠語。

 すぐさま否定されたけれど、伝わるあたり的を射ているのかもしれない。


 ◆


 自宅マンションの前の路上に車が一台停まって居た。


 それを見てか、ハナさんが玄関まで送ると言い出す。

 マンションのエントランスでは無く、自室の玄関まで。


 目的がわからないが引き下がらないので仕方なく付いて来てもらう。


「ただいま」


 鍵を開け、中へ。

 玄関に見慣れぬ靴がある。

 親父は、まだ帰ってない様だが。


「おかえり。……どちら様?」


 母親が玄関まで出て来る。

 そして、ハナさんを見て尋ねる。


「アメリカの友人です」


 ハナさんがやたらと大きな声でそう答える。


「そう。

 アメリカの。

 ウチの息子に……」

「分かってます。

 約束は生きている」

「なら良い。

 お茶でもと言いたい所だけれど、生憎先客が居るのよね」

「いえ、我々はもう失礼します」


 奥からスーツ姿の男二人組が現れた。


「ご馳走様でした」


 やたらと鋭い目つきで、俺とハナを見ながら二人は立ち去る。

 それを見送るハナの目つきもまた鋭い。


「私も失礼します。

 お茶はまたの機会に」


 そう言い残し、ハナは去って行った。


「母さん、あの二人組、誰?」

「公安」

「……母さんって何者?」

「ただの主婦」

「だよね」

「今日はチキンカレー」


 また鳥かよ。


 ◆


 こうして、俺の異世界へ行く週末は再開した。

 片道……三十分以上かけて。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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