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まちづくり③

「不思議な所デスね」

「ああ」


 喧騒の中心から少し離れ、腰を下ろしそれを眺める。


「平和な国での暮らしを捨てて、こんな生活して、意味わからナイデス」

「そうか?」


 ここは、何も無いけれど熱気と興奮に満ち溢れている。


「どう映りましたか?」


 そんな俺達の所へトオルが飲み物を持ってやって来た。


「開拓者、かな」

「ははは。そうですか」

「トオルがリーダーなのか?」

「いえ。今は誰がトップとか決めていません。

 いずれは必要になるかも知れませんが」

「それでもこれだけの人数が一つにまとまるのか」

「まとまってませんよ。

 しょっちゅう揉め事ばかり」


 そう言いながらトオルは苦笑いを浮かべる。


「揉めたらどうするデスか?」

「基本は当事者同士で解決してもらってます。

 どうしても駄目、或いは、あまりに素行が悪い様な人は国外追放ですね」

「国外って……」

「門の向こうですね」


 それは、日本だろう。

 そこを国外と呼ぶか。

 五島が警戒したのは、こう言う事態なのだろうか。


 そんな事をぼんやりと考えながら、串焼きを口へ運ぶ。

 不味くは無い。

 だけれど、飛びっきり美味いかと問われればノーと言える。そんな代物だ。


 突然、ガンガンガンと大きな音が鳴り響き、トオルが顔を青くしながら立ち上がる。

 次いで、叫び声。


「ゴブリンだ!」


 それはこの集落で一番高い建造物である物見櫓から発せられた。


「多いぞ! 全員、武器を持て!」


 それをキッカケに慌ただしく動き始める人々。

 さっきまでの祭の様な雰囲気は一気に吹き飛んだ。


 その物見櫓をまるで猿の様にスルスルと上って行く人影が一つ。

 それは、櫓の上で遠くを確認した後に下を向き叫ぶ。


「トオル! どこだ!?」

「ここです!」


 手を上げるトオル。

 そして、男はビルの四階はあろうかと言う櫓の上から飛び降り、彼の側へ着地する。


「どうしました?」

「見た事も無い大軍だ。

 ちゃんと陣を組んだ方が良い。

 それとな、先頭にゴブリンキングが居る」

「何と!」

「遠目だが、おそらく間違い無い」

「ならば、それを潰せば……」

「逆に妙だと思わねーか?

 今まで姿を見せなかった奴が何でいきなり先陣を切ってる?」

「言われれば確かに」

「何か匂う。

 一人連れて巣穴を見てくる」

「わかりました。

 ならばミホを……」

「いや……新顔」


 櫓から飛び降りた男が俺の方を見る。


「腕に自信、あるだろ?」

「あるよ」

「俺はヒロシだ。名前は?」

「ライチ」

「付き合え。

 トオル、馬、借りるぞ」

「ええ。くれぐれも気を付けて」

「お前こそ」


 二人がグータッチを交わす。

 そして、集落の人々が慌ただしく武器を手に取る中、俺はヒロシに連れられその場を後にする。


 ◆


「ゴブリン共を率いているゴブリンキングって奴が居る。

 まあ、俺達がそう呼んでるだけだが。

 何時もは巣穴の奥深くにいて姿を見せなくてな。

 何度も討伐を試みては阻まれてきた。

 それが今、先頭に立って連中を率いている」


 馬を走らせながらヒロシが状況の説明。

 横目にはそのゴブリンキングに率いられたゴブリンの群れ。

 ぱっと見、千近いの軍勢に見えるが……。


「どうしてだ?」

「考えられる事はそう多くない。

 恐らくは代替わり。

 誰かが、新しくボスの座に座った」

「そいつを潰しに行くのか」

「巣穴に残ってるのは多くないはずだ。

 新旧の頭を潰せる又とない好機」

「集落は大丈夫なのか?」

「まあ、持ちこたえるだろう。

 お前にはわからんだろうが、彼奴等にはあの場所に執着がある。

 守る理由があるんだよ。だから、強い」

「なるほど。

 それが、俺を連れ出した理由でもあるのか」

「まあな」


 俺には、あの場所に対する執着も、守る理由も無い。


「新しいボスはお前に任せる」

「ん? 俺で良いのか?」

「もう一体、ゴブリンクイーンってのが居る。

 俺は、そっちをヤルぜ」


 そう言って、馬の腹を蹴るヒロシ。

 俺は振り落とされない様に不本意ながら彼に必死にしがみつく。

 汗臭い男に。


 ◆


「無事に逃げろよ」


 ゴブリンの巣穴の近くで馬を放すヒロシ。


「良いのか?」

「繋いでおいてもゴブリンの餌になるだけだ。

 なに賢い動物だ。落ち着いた頃にちゃんと帰ってくる」

「そうか」

「こっちも、ちゃんと帰らないとな」


 そう言って、両手に斧を持ってニヤリとするヒロシ。

 その視線の先は、ゴブリンの巣穴。その横に二体の見張り。


「死ねやぁ! ゴラァ!!」


 大声を上げ斧を投げると同時に飛び出していくヒロシ。

 背後で巨大な爆発音。

 あっちもこっちも騒がしいな。


 飛び出したヒロシから少し離れ彼の背を追って巣穴だと言う洞窟へ。



 ◆


 洞窟の中で途中二手に分かれた道。

 ヒロシは『匂いがする』方へと進んでいった。


 そして、今、最奥の開けた場所で俺と正対するのは黄金の山の上に腰を下ろす浅黒い肌の小男。

 ヒロシの絶叫が木霊する洞窟内。


「ゴブリンの王、ね……」


 小男の顎に在るは、七芒星。


「強欲のマモン、だな?」


 俺の問いに、下品な笑みを返事の代わりにするマモン。


「……参る」


 波泳ぎが音もなく鞘から滑り出る。


 亟禱きとう 縛鎖連綿・五重襲いつえかさね


 鎖が小男を二重三重に縛り上げる。

 地を蹴る。

 だが、その前に背後より向かいくる風切り音。


「分かつ者

 断絶の境界

 三位さんみ現身うつしみはやがて微笑む

 唱、拾参(じゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 水鏡(みずかがみ)


 現れた紺抂亀こんごうせきが飛びくる矢を全て防ぐ。

 今しがた通って来た穴から湧き出てくるゴブリンの群れ。


 わざわざ死にに来るか。

 それとも、操られているのか。


 亟禱きとう 赤千鳥・十重襲とえかさね


 仲間の屍を乗り越え迫るゴブリン。

 一筋縄では行かないか。

 鎖に拘束されながらも薄ら笑いを浮かべるマモンをひと睨みし、ゴブリンの群れへと方向を転ずる。



 ◆



 恨み言を口にするマモンを袈裟斬りに。

 崩れ落ちる強欲の体。


 終わった。


 その瞬間、背筋に悪寒が走った。

 振り返るがそこに在るはゴブリンの亡骸のみ。


 ……誰かの視線を感じた様な………気の所為か?


 再びマモンへ視線を転じ、亡骸の下に転がる金貨を一枚拾い上げる。

 見た事も無い言語が彫り込まれている。

 だが、こんな物を集めて果たしてどんな価値があるのか。


 それを放り捨て来た道を戻る。


 ◆


 洞窟の外でヒロシが待っていた。


「勝ったみてぇだな」

「当然。

 そっちはどうだった?」

「欲求不満の女王様に思いっきり噛みつかれたよ」


 そう言って粗末な布を巻いた左腕を上げる。

 その布には滴り落ちる程に血が滲む。


「黒猫 添いて歩き

 落ちて戻る

 思いは血を越え飛び行く

 唱、伍拾伍(ごじゅうご) 命ノ祝(めいのはふり) 赤根点(あかねさし)

「ほう。すげぇな」


 治った布の下を確かめるヒロシ。


「向こうは?」


 集落は無事だろうか。

 遠目には、何事も無いように見えるが。


「大丈夫だろう。

 ヤバい狼煙も上がって無いしな」


 そう言いながら彼は歩き出す。

 一歩離れ、それに続く。


「あー、この先で変な物を見るかもしれねーが、気にしねーでくれ」

「変な物?」

「勝者の権利とか言う奴だ」


 ヒロシの言った勝者の権利。

 それは、おぞましい物だった。

 初めは亡骸の中で生き残りが動いてるのかと思った。

 だが、違った。人が、ゴブリンのメスを犯していたのだ。

 戦場で死体の転がる中で。


 集落へ戻る頃には勝利の余韻など消え去っていた。


 勝利に沸く集落で、俺はトオルを見つけここから去る旨を伝える。


 ◆


 行きと同じように荷車に乗り、トオルに門の場所まで送ってもらう。

 曰く、彼らの仲間が門を見張っており、勝手に通る事は出来ないのだとか。


「さて、この国はどうでしたか?

 まあ……改めて聞く必要も無いかもしれないですが」


 帰還を申し出た。

 それだけで印象は察せられたのだろう。


「俺はまだ常識の内なんだよ」


 一言そう返す。

 向かいでアナスタシヤが訝しげな顔をした。


 ◆


「連中、後何ヶ月持ちますかね」

 

 帰りの小田急線でアナスタシヤが溢す。


「さあな。

 案外、長続きするかもよ?」

「本当、理解出来ナイデス。

 何でこんな平和な国が嫌なんデスか?

 あんな塩味の肉よりコンビニのお弁当の方が全然美味しいデス」

「それに飽きたんだろ」

「贅沢デス!」


 強欲。

 人を動かす原動力。

 彼らの欲の行き着く先は果たして……。

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