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アナスタシヤ親衛隊

 シキシマセキュリティサービスの更に奥の部屋。

 そこにハナと言う人が持ち込んだのは専用の転移施設だった。

 非接触型のロックが付いた扉が五つ並ぶ。


 一つは俺、もう一つはアナスタシヤ。アリスもいずれ使うらしいから残りは二つ。


「……生きて帰れよ」

「大丈夫デス!」


 俺の横のスペースへと入るアナスタシヤへ一言かけて、自分のスペースへ。


 タブレットは置かれておらず、代わりにヘッドレストのついた椅子が一つ。


 その椅子へ腰を下ろし、ゆったりともたれかかる。


 リクライニングシートへ身を横たえる。


『Welcome Lychee!』


 ヘッドレストから声がした。


『Are you ready?』

「……Yes」

『Have a good trip!』


 良い旅を。悪趣味だな。

 そんな風に思った俺の全身を違和感が包み込む。


 そして、視界が切り替わった。


 ◆


「紡がれ途切れる事のない糸の先

 常に移ろいゆく色の名

 雪に溢れた墨の如く

 騒音と騒音が重なる静寂

 唱、陸拾肆(ろくじゅうし) 鎮ノ祓(しずめのはらい) 絶界(ぜっかい)



 転移と同時に結界を作り身を隠す。

 普段使うG Playと同じ感覚で転移した。

 右手に二度、三度と力を込める。

 体も同じ。

 念のため荷物も確認するが、以前の記憶と変化なし。


 つまり、シキシマセキュリティサービスには本当に転移施設が設置された訳だ。


 やる事は、三つ。

 ベルゼブブ退治、大里の捜索、人の調査。


「よし、行くか」


 微かに黴の匂いの漂う薄暗い洞窟の中を歩き出す。


 ◆


 現れたのは剣を持つ頭の無い鎧騎士。デュラハン。


 ……隙が無い。

 生前は相当な手練れ。そして、それは死してもなお変わらず。


 だが、いや、だからこそ。


「その未練、ここで祓い流したまえ」


 それが、直毘ナオビたる俺の役割。

 だが、武人として真っ向から戦う。

 それがせめてもの報い。


 整息し、波泳ぎへ手を掛け、腰を落とす。


「……参る」


 相手の間合いへ、一歩踏み込む。

 その直後、地に円を描く様に光が走る。


 何!?

 武人として真っ向から、そう考えたのは俺だけだったか!?

 それとも他に何か居るのか?


 咄嗟に後ろへ下がろうとした俺の足へ、見えない手ががっしりと掴んだ様な感覚。

 そして魔方陣が完成し、地に吸い込まれる様に全身に力がのし掛かる。


 そして、光が弾けた。




 光が消えると同時に、両足が地に触れた。

 突然の事に、バランスを崩し跪く。


 ……転移?


 顔を上げる。


 そこに、先程まで向かい合っていたデュラハンではなく勝ち誇った様な顔の女が居た。


「成功デス!」


 拳を握りしめガッツポーズをするアナスタシヤ。下着姿で。


「……は?」


 成功?


「ヨリチカ、グヴァールヂヤとしてワタシ守るデス!」


 腰に手を当て踏ん反り返るアナスタシヤ。


「……え?」


 何が起きたのか。

 事態が飲み込めない。


「グヴァールヂヤ? いや、それより何でここに? 瞬間移動? ……いや、違う」


 アナスタシヤの向こうに空がある。さっきまでと違う世界、野外だ。


「どう言う事だ?」

「ヨリチカはルィツァリでショウ?」

「ルィツァリて何だよ?」

「ナイト、騎士デス!」

「はぁ!?」

「プリンツェッサ……プリンセスを守るナイトデス!」


 そう言えば、そんな事を言った記憶がある。


「グヴァールヂヤは?」

「親衛隊……ロイヤルガードデス!」

「成る程。

 アナスタシヤがプリンセスで、俺が姫君を守る護衛な訳か」

「ダー!

 命懸けで守るデス!」

「ざっけんな!

 てか、何でここに俺が居るんだよ!?」

「ワタシが、呼び出したデス!

 護衛だから当然デス!」

「マージーかー」


 何だそのすげぇ能力。拉致し放題。

 欲しい。桜河さんを呼び出して閉じ込めておきたい。


「誰にでも使えるの?」

「ノンノン。ワタシを守る物だけデス!」

「何で俺がその枠組みに入ってんだよ!」

「当然自分で言ったからデス!」

「おぉう……」


 ドヤ顔で俺を指差すアナスタシヤ。

 迂闊だった。

 まさか向こうの行動で、こっちにこんな影響があるとは……。


「……身代わりにはならないからな?」

「騎士としてあるまじき言葉!

 信じられないデス」


 行動を支配するとか、恐らくはそこまでの拘束力ないだろう。

 出来るなら既にやってる筈だから。


「まあ、しゃあない。

 ひょっ子一人放り出して野垂れ死されるのも目覚めが悪いしな。

 手、出せ」


 そう言いながら立ち上がる。


「手?」


 アナスタシヤが両手の平を上に向け差し出す。

 その下へ手を入れる。


「痛いんだろ?」

「全然痛く無いデス!」

「嘘付け!」


 システマじゃあるまいし。

 皮が剥け血が滲んでいた彼女の拳。

 平然を装っては居るが、人一人呼び出す力。

 はじめての世界で何の道具も持たずに戦ったのだろう。


「幻の王

 響く声、笑う声

 未だ夢から醒めず

 全て暗闇の中に

 唱、() 命ノ祝(めいのはふり) 卑弥垂(いやしで)

「おぉう!?」


 手を裏返し、綺麗になった手の甲をまじまじと見つめるアナスタシヤ。


「便利な男デスね。見直しマシた」


 その上から目線の口調にイラッとする。

 下着姿の癖に。


「……これ、着ろ」


 荷物袋の中を漁り服を取り出す。

 ムサシに渡されたコスプレ衣装の様な軍服。


「変な衣装デス」

「下着姿とどっちが良い?」

「このままだとムラムラして大変デスか?」

「全然?」


 若干目のやり場に困るぐらいだ。

 だが、これを引き連れ歩いていて他の人間が寄って来るのも面倒。


「あと、これも」


 不貞腐れながら着替えたアナスタシヤに狐白雪を差し出す。


「カタナデスか」

「壊すなよ? 貸すだけだからな?」

「献上品デスね?」

「貸すだけだっつてんだろ」


 借りたら返す。

 それは人として当然の事。

 だから、俺は桜河さんにタオルを返さなければならないのだ。


「準備出来たら行くぞ」

「ダー」

「やる事は分かってんな?」

「怪しい女の退治デス」

「そ。それと?」

「他に何かあるデスか?」


 現地調査。

 まあ、これは五島から俺だけに言われた事だが。


「大里は?」

「ああ、そうでしタ!」


 え、何その反応。

 お前、あんなに心配してたじゃん。

 ……まさか、演技? 俺も五島も一杯食わされた?


 渡した刀を試しに振り回すスパイの真意は。

 それを探ろうにも、芝居は相手の方が一枚も二枚も上か。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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