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協力者

「ワタシに向こうで生きる方法を教えるデス。

 ……お願いしマス」


 朝の小田急線。通学電車。

 横で吊革を掴むアナスタシヤが俺を見上げながら言う。


「……わかった。家でな」

「ラジャです」


 お前さ、大里の事、どう思ってるの?


 喉まで出かかったその質問を飲み込む。

 クラスメイトの身の危険を案じる。

 それは、何一つおかしい事はない。

 むしろ、俺の方がもっと友人を心配すべきなのだ。


 ◆


「向こうへ行ったらまず周りを良く観察する事。

 最初は粗末な下着を身につけているだけ。武器もない。

 ……まあ、お前ならそれでも戦えるだろうけど」


 戦闘訓練を受け、徒手で母に挑んで行けるアナスタシヤが神妙な顔で聞き入る。


「ただ、現れる生き物はこの世界では見た事も無い様な奴ばかり。

 後で思い出す限りの特徴と姿を描いて渡す。

 参考にしてくれ」

「ラジャです。

 人間は居ないデスか?」

「居る。敵も味方も。

 赤い旗を掲げた奴は商売人だ。共通の目印。

 貨幣はないから物々交換だが。

 尤も、施設が閉鎖された今、どれだけ残っているか。

 それ以外は……全部敵だと思った方が良いかもしれない。

 最初のうちは見つけても話しかけたりせずにやり過ごす方が良いだろうな」

「……その世界、何が楽しいデスか?」

「この世界では使えない力が使える。

 例えば、手の平から炎を呼び出したり、体の傷を一瞬で直したり。

 水の上を走る事になるも、空を飛ぶ事も出来る」


 アナスタシヤが眉間に皺を寄せ、首を傾げる。


「まあ、それは俺の知る奴の力で多分アナスタシヤの力は全く違う物だ」

「どう言う事デスか?」

「例えば俺は……刀と術を使うヒーロー。そんな存在になりたいと思い、そして、その様な力を得た。

 お前は何に成りたい?」

「……プリンツェッサ」


 一瞬考え、そう答えるアナスタシヤ。

 俺にはそれが何なのかは分からなかったが。


「それが、向こうで実現する。

 だけれど、その為には敵を倒しその敵が死に際に撒き散らすマナを取り込む必要がある」

「最初に強い敵が出たらどうするデス?」

「逃げるか、隠れる」

「それが出来なかったら?」

「そん時は、自分の不運を恨むしか無いな」

「……ルィツァリが必要デスね。

 ヨリチカ、グヴァールヂヤになってクダサイ」

「グヴァールヂヤ? 何だ? それ」

「良いデスね?」


 と、俺を真剣な眼差しをむけるアナスタシヤ。


「クラスメイトを救う為デス」

「……わかった」


 そう重ねられ、俺は了を返すしか無かった。


 ◆


 そして、一週間後。

 五島から設備が整ったとの連絡を受け、俺とアナスタシヤはシキシマセキュリティサービスへと向かう。

 向こうへ行くつもりのアナスタシヤを止める事は出来ないだろう。

 はっきりとは言わないが大里が心配なのだ。

 そんなアナスタシヤへ俺が向こうで体験した事は全て叩き込んだつもりだ。

 後は向こうでこいつがどれ程の力を使えるのか次第ではあるが、おいそれと死ぬ様な事にはならないだろう。


「……私のアシスタントにしたかった」


 シキシマセキュリティサービスで、アリスが俺を恨む様な目付きで睨みながら言う。

 アナスタシヤの事だ。


「まあ、本人がやりたいって言ってんだから」

「私の負荷はどうなってんですか?」

「まあ、いざとなったら俺が手伝うからさ」

「その言葉が一番信用出来ないんですが」

「こんな目立つ奴とお前を組ませる訳にもいかんだろう」


 五島が溜息混じりに応対する。


「確かに三歩進む度に声をかけられて大変デシタ」


 そう体をくねらせながら謎のアピールをするアナスタシヤ。


「なら、ウチの売り子やってもらおうかな」

「高いデスよ?」

「尻の毛までむしられそうだ」

「そんなの要らないデス!」


 顔を顰めるアナスタシヤに笑い声を上げるTさん。

 その間にアリスがホワイトボードに俺達の名前を書き加えて行く。


 利害調整:五島

 渉外:有珠

 巡回:転法輪

 外回り:御楯、ナーシャ


「まあ、人手不足はおいおい何とかする。

 最低限、やるべき人員は揃った訳だ。

 改めてよろしくな」


 そう五島が締めくくり、シキシマセキュリティサービス初めての全員の顔合わせが終わる。


「御楯、ちょっと」


 会議室から退出しようと立ち上がった俺を五島が呼び止める。


「何でしょう?」

「まあ、座れ」


 言われ、再び椅子に腰を下ろす。


「お前の仕事なんだが」

「ベルゼブブを倒す」

「まあ、そうなんだが、それだけじゃない」

「と、言うと?」


 まあ、他にも俺の設定の中の強欲、嫉妬、憤怒が残っている。


「向こうへ行ってそのままの連中が何をしているのか。

 その動向を調べてくれ」

「何って、サバイバル生活じゃないですか?」

「それならそれで良い。

 それすらここからだと分からんからな。

 年明けに再開してどんな事が起きるのか。

 その辺も考えなきゃならん」

「成る程。了解です」

「と言いつつ、向こうで他人に接触する時はくれぐれも慎重にな」

「どうしてですか?」

「世の中のG Playは利用禁止。

 だから、本来ならば人が来る事はないんだろ?」

「ああ、そうですね」

「なんで、まあ、上手いこと誤魔化してくれ」

「え?」

「やり方は任せるから」

「は、はあ」


 そもそも接触しなければ良いのか。

 その方がいいな。そうしよう。


「じゃ、頼んだぞ」

「了解です」

「それと」


 まだ何かあるのか。


「アナスタシヤは大丈夫なのか?」

「……何がです?」


 五島は彼女を信用して居ない?


「何がって、女の子一人で向こうへ行ってだよ」

「ああ、まあ平気でしょう」


 何せ、共に地獄から帰還した仲間なのだから。

 五島が納得したちょうどその時、会議室のドアがノックされた。


「ああ、こんな時間か」


 腕時計を確かめた後に立ち上がり、会議室のドアを開ける。


「所長、お客様ですよ。レアーから」

「ああ、ちょうど良い。通してくれ。茶は要らんから」

「はい」


 と言う短いやり取りの後、アリスが西洋人らしき女性を伴い会議室の中へ。


「資材の搬入、セッティング、予定通り完了しましたわ」

「ご苦労さまでした」


 知的な笑みを浮かべる女性に対し、五島が深々と頭を下げる。

 その女性の視線が俺の方へ。


「そちらは?」

「ウチの調査責任者、御楯です」


 さらりと五島が俺を紹介するが、調査責任者って何だ? 初耳だぞ?

 横目に五島を睨む。


「ハナ・ウィラードです」


 微笑みながら、名刺を取り出し差し出す女性。

 その肩越しにアリスが『立て』とジェスチャー。

 椅子から立ち上がりその名刺を受け取る。


『G Play 極東研究所 主席研究員

 ハナ・ウィラード』


 研究者?


「我々に協力してくれるレアー社の人でもある」


 そう、五島が補足する。

 レアーって、CIAか。

 いや、それよりこの名前……。


「ハナ……ウィラード…………あの」

「何かしら?」

「デイビッド・ウィラードって、ご存知ですか?」

「父が同じ名ね。どうして?」

「いえ……」


 咄嗟に疑問が口に出てしまったが、誤魔化すべきか。

 ……いや、彼女たちは協力関係にある。

 ならば、伝えよう。


「向こうで、そう言う名の人に会いました」

「あら。それはとても興味深いわね。

 今度ゆっくりと話を聞かせてもらおうかしら。

 朝までゆっくりと」


 そう言って妖艶に笑うハナ。

 朝まで……ゆっくり?


「あー、ウチの若い奴を惑わすのはやめてくんないかね」


 五島が、横から苦情を申し立てる。


「あら。この組織はプライベートの自由も無いのかしら?」

「それは、そちらさんの事でしょうよ」

「そんな事無いわよ? ねえ?」


 そう言ってウインクを一つ俺に寄越すハナ。

 何と答えたら良いのか分からず、アリスに救いの視線を投げかける。


「プライベートとか、死語じゃん?」


 と言う助け舟に愕然とした。

 死語なの?


「は、ははは……」


 魑魅魍魎の様な三人に囲まれ、乾いた笑いしか出なかった。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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