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消えた友人

「ナーシャ。

 ユーヤと連絡取れてる?」


 登校した俺達に村上が尋ねてくる。

 そう言えば昨日は休んでたな。今日も来てないのか。

 アナスタシヤがスマホを取り出し確認。


「土曜から連絡来て無いデス。

 LINE非通知にしてるから気付かなかったデス」

「非通知なんだ」


 可愛そうな大里。


「だって、毎日送って来るデス」


 毎日!?

 一体何をそんなに送る事があると言うのだ?

 いや、それくらいやらなければ駄目なのか?

 よし、俺も桜河さんに……何て送れば良いのさ。

 そうか、大里に聞けば良いんだ。


「LINEも送れないって、ヤバない?」


 と、村上。

 そうだ、その大里と連絡がつかないって話だった。


「ナーシャ、ちょっと送ってみてよ」

「えー。何でデスか?」

「ナーシャが送って未読スルーは無いっしょ?」

「じゃ送りマス。

 ……マシた」

「何て送ったの?」

「スタンプデス」


 しかし、アナスタシヤの送ったそのスタンプは既読になる事は無かった。

 翌日も登校しない大里。


 そして、十月。日本の各地の神々が出雲へと集う月。

 街中のG Playの看板から電気が消える。

 去年の夏、開始直後に一時休止して以来の出来事である。


 再開は法案の執行後。

 次に一般人が再び異世界へ訪れる為には免許を取得する必要がある。


 だから、その前に。

 そんな事を考え、滑り込む様に向こうへ行った連中。

 大里がそんな連中の一人だと知ったのは、十月の最初の金曜だった。

 彼の登録名はわからない。だから、その生死も不明。

 休止されたG Playは帰還するだけの一方通行。


 ◆


「帰還率がなぁー、ナイアガラみたいに下がったんだわ。

 まあ、予想はしてたけども」


 シキシマセキュリティサービスの室内。自分の机でモニターを睨みながら五島が言う。


「死んだって事デスか?」

「いやー、帰りたくないんだろうさ」

「何デ?」

「そりゃ、現実(こっち)が辛くて、異世界(あっち)が楽しいからだろ?」

「そうなんデスか?」

「いや、俺はちゃんと帰って来てるし」

「ん、そうなのか?」


 モニターから俺に視線を移す五島。


「何でそんな意外そうな顔するんです?」

「いや、お前さん、向こうに行ってる時間の平均が長いんだわ。他と比べて」

「はあ」

「て事は、向こうで楽しんでるのかと思ってな」

「いや、トラブルで帰れないだけですよ」


 敵が強かったり、門が見つからなかったり、門が破壊されたり。


「成る程な。

 ランクが上になると、向こうへ行けば最低一ヶ月は戻らないような輩も居るから、お前さんもそうなのかと思ってたわ」

「いや、日常生活に差し支えるでしょう。

 そんな生活してたら普通に留年します」

「こっちの日常生活なんて、とうに捨ててる連中も多いからな」

「贅沢な連中デスね」

「いや、そうは言うけどな、向こうに行ったら二十才若返ったなんて話を聞くとおじさんも行って見たくなるわな。

 下手したら帰ってこなくても可笑しくない」

「五島さんは、行った事無いんですか?」

「歳を取ると変化が怖くてな。

 ……あ、居たぞ。大里優耶」


 五島がG Playのデータベースの中からクラスメイトの名を見つけ出す。


「登録名、キング。

 九月二十六日に向こうへ行ってるな」


 九月二十六日。

 この前の土曜日。


「そして、そのまま帰還していない。

 だが、ステータスは生存(アライブ)だ」

「生きてるデスか」

「なら、何で帰って来ないんだろう」

「金髪に囲まれてるんじゃないデスか?」


 どんな世界だよ。それは。

 そんなのわざわざ異世界まで行かなくても飛行機で行けるではないか。


「助けに行けたりするんデスか?」

「いや、無理」


 アナスタシヤに問われ、即答する。


「偶然、同じ世界に飛ばされる可能性はあるけど……」


 言いながら、視線を五島の方へ。


「そんな目で見るなよ」

「向こうへ行く手段。

 どうなってるんですか?」


 休業となったG Play。

 その代わりをシキシマセキュリティサービスが用意すると言う話。


「ちょっと話が拗れてなぁ。

 相手さんの施設を使うのが難しくなった」

「つまり、無理になったと」

「結論を急ぐなよ」

「はぐらかさないで教えるデス。

 それは、ワタシが原因デスか?」

「ん?」


 アナスタシヤの口調から苛立ちが感じられた。


「ああ、いや、そんな事はない。

 と言うかな、お前らちゃんと最後まで話を聞きなさい」

「さっさと言うデス」


 五島が頭を掻き、溜息をひとつ吐いてから続ける。


「レアーって組織の事は有珠から聞いたな?」


 問いかけに頷く俺とアナスタシヤ。


「その連中が持ってる施設の一つにG社とは別の転移設備がある。

 これが都心、溜池山王の旧山王ホテルの跡地に建つ高層ビルの中にあるんだわ。戦後、アメリカに接収されたままの場所だ」

「日本の中のアメリカデス。

 そんな場所にロシアの人間は入れられないて事デスね?」

「聞けってば。

 お前はもう日本人だし、日本人だとしてもおいそれと入る事は出来ん。

 でだ、その施設の主である米軍の上層部と我々が協力を仰ぐレアーとで意見が決裂した訳だ」

「何でデスか?」

「この前の後挟総理とG社社長の会談。

 あの和かに握手を交わす映像が軍上層部の顰蹙を買ったって話だ。

 そしてそれを防げなかった責任はCIAにある、と」

「スケープゴートにさせられたデスか」

「と言うよりは順当に連中の失点な気がするがな。

 そんな訳で、俺達がアテにしていた溜池山王のビルの中にある、レアーの連中が拵えた施設は米軍連中が優先的に使う事となった」


 そこで五島はまるでお手上げだと言わんばかりに両手を広げて上げる。


「……施設なら、街中の至るところにある」


 休業中のG Playが。


「そんな物を使って変な噂が立ったら色んな人が困る訳よ」

「じゃあ、どうすれば」

「いや、だから最後まで話を聞きなさいよ。君達は。

 俺は、向こうへ行けなくなったなんて、一言も言った覚えは無いぞ?」


 確かに。

 他に利用できる施設があるのだろうか。

 例えば、ロシアとかに。


「では、どうするデスか?」

「今ある施設が利用できないなら、新しく作れば良い」


 さも当然の様に五島が言った。

 まあ、それはそうなんだけれど。


「そう言う訳で、ここに転移のための施設一式を用意してもらう事にした。

 内装工事も必要だから、それが整うのは来週末だな」

「それ、勿体つけずに最初に言えば良かったデス」

「オジさん、こう言う芸風なんだ。勘弁してくれ」

「クラスメイトがいなくなったんデス」


 そう言って、五島を睨みながら立ち上がるアナスタシヤ。

 彼女の口から出たその言葉は少し意外だった。


「帰るデス」


 そう言ってアナスタシヤは一人、部屋から出て行く。


「…………あー、居なくなった大里てのは、アレか?

 アナスタシヤの彼氏か?」


 五島が困った様な顔で小指を立てながら俺に問う。


「そんな話は聞いて無いですけど……」


 逆ならともかく、アナスタシヤが大里を?

 ……男と女はわからない。

 いや、居なくなって初めてその大切さに気付いた……のか?


 しかし、向こうへ行って一週間帰らないと言うのは、やはり何か起きているのだろう。

 だが、今焦っても何も出来ない。

 無力だ。物語の主人公の様に、ペンチを持ってG Playへ忍び込む勇気なんてカケラも無い。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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