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正義を掲げる④

 車の中で、GoProの中のデータをラップトップで再生する。


 冒頭、いきなり自転車で薄暗い街中を疾走する場面から始まる。


「今朝、ね」


 字幕表示された時間を見てアリスが呟く。

 余程急いで走っているのだろう。画面が激しく揺れる。


『そこまでだ』


 静かな、しかし、威圧感のある声と共に画面がゆっくりと停止。

 路上に佇む人影を捉える。

 長い髪の後ろ姿。それが、ゆっくりと振り返る。


 血のように赤い目が画面の上方を睨む。

 ガバッと開いた口が、頬まで裂けておおよそ人とは思えぬ程の大口を開けた。


『破アアアアァーーーーーー!!!』


 その直後に大音量の叫び声と共に突き出された右手。

 それに合わせ画面の奥の女が大きく後ろに弾かれ宙を舞う。


 アスファルトに叩きつけられ動きを止め、そして、一瞬その姿がブレた後に跡形もなく消え去る。


『……次に会ったらその口に舌を入れて塞いでやる』


 と言う、決まってるのかわからない決め台詞の後に動画は停止した。


「寺生まれってスゲェ……」


 思わずそう呟いてしまった。


「いや、逃げられてっから」


 アリスが冷たく切り捨て動画をもう一度再生する。


「……これ何デスか?」

「口裂け女じゃんね」

「口裂け女? あと、最後何やったデスか?」

「かめはめ波みたいなもんじゃない?」

「カメハメハ?」


 噛み合わない二人のやり取り。


「ちょっと、停めて」


 女が大口を開けたタイミングで動画をストップさせる。


「何?」

「少し拡大して」

「グロいデース……」


 アナスタシヤの声を無視して女の顔、口の中を引き延ばし画面に映す。

 真っ赤な画面の中心に黒の印。

 ぼやけてはいるが、これは七芒星。


「……間違いない」

「何、これ」

「七芒星。不完全の刻印」

「どう言う事?」

「七芒星ってのは、どうやっても割り切れないから不完全なんだよ」

「いや、そう言う事でなく。

 これが有ったから何なのよ?」

「向こうで俺が戦った奴にも同じ刻印があった」

「……つまり、こいつはやっぱりお前のお客さんって事?」

「いや、俺が招いた訳では無い」

「じゃストーカーだ」

「嬉しくないな。全然」

「追いかけて来て欲しいのは誰デスか?」


 助手席のアナスタシヤがニヤニヤと笑う。


「そんなのお前に関係ないだろ?」

「あ、イツキ」

「え!?」


 アナスタシヤの言葉に窓の外に目を向ける。


「嘘デス!」

「お前!!」

「アンタ、何、今の反応速度……」


 恋する男子は無敵なんだよ。

 ……何言ってんだろう。俺。


 ◆


「ま、あの通りこっちの世界はTさんに任せておけば一先ずは安心。

 だけど、彼によるとそれ程楽観視出来る状況でもない」


 車を走らせながらアリスが言う。


「やっぱりヤバいのか」


 俺は映像越しに目の当たりにした、伝説の異能の力に内心興奮していた。

 だけれど、そのTさんを持ってしても弱音が出るとは。


「現れる度に強くなってる。

 負ける事はないだろうけど、しぶとく抵抗されると厄介だって、本人が」

「へー」

「彼、意外と恥ずかしがり屋なのよ。

 だから街中で人目を集める様な状況は避けたいんじゃない?」

「そう言う理由?」

「そもそも、あの人だけで平気なのデスか?

 他の場所に現れたらヤバいデスよね?」

「それは平気。

 彼の結界は、日本全土をカバーしてるし。

 遠方には幽体で行けるらしいから。幽体、スピリッツ」

「……バケモノデスね? 何でそんな事出来るデスか?」

「寺生まれだからでしょ?」


 寺生まれってスゲェ。


「なら、Tさんの存在が世間に知られる前に倒さないと」


 俺が。

 何故ならアレは俺の設定から生まれ、俺が倒し損ねた物なのだから。


「でも、G Playは休業デスよね?」

「アンタ、素知らぬ顔してるけど当たりが付いてるんでしょ?」

「……CIAを使うデスか?」

「そうよ。嫌かしら?」

「ノンノン。私は日本人。同盟国の組織なら友好的に出来マス。

 ……向こう次第デスけど」

「……話が見えない」


 運転席と助手席のやり取りに一人取り残される。


「G社の子会社にレアーって所があるの」

「レアー?」


 ギリシャ神話の女神かな?


「そう。

 そのレアーってのが、何人もの日本人を使ってG Playの研究をしている所で、その実、CIAのフロント企業でもある」

「CIAが日本人を使ってG Play研究?」

「CIAが、ではなくアメリカが。

 その職員としてCIAの連中が派遣されてるの。

 表向きはレアーって企業の社員として」

「……あ!」


 ――呑気に同盟国へ情報を提供するモルモットにされてるのだよ


 アナスタシヤの父親役だった男が母の尻の下で言っていた言葉。

 そう言う事だったのか。


「じゃ、そのレアーに潜入するデスか?」

「流石にそれを許す程向こうも甘く無い。

 だから、頭を下げて協力をお願いした。同盟国として」

「弱みでも握ったデスか?」

「協力だっつってんだろ」


 腹の探り合いに似た二人のやり取りを聞きながら俺は後部座席へ寄りかかり背を預ける。

 何だって良い。

 アレを倒す。その為に向こうへ行く手段があるなら何でも良い。


「アリス」

「ん?」

「これから宜しくな」


 ルームミラー越しに訝しむ視線。


「お前、さっさと免許取れ」

「は?」

「後部座席で踏ん反り返るその態度が気に入らない」


 そっすか。


「私、運転出来マス」

「無免許は駄目」


 ……割と何でも出来るな。スパイ。




 こうして、九月最後の週末が終わり、免許取得条項が盛り込まれた規制法案が賛成多数で可決された。


 この国における異世界の存在。

 それが、新たなる段階へと進んだのである。

 そして、その行き着く先は。

 だが、『安心、安全な異世界生活』などと言う少し前に雑誌で見た言葉。

 そんな事が実現するとは、微塵も思えないのはどうしてだろうか。





二部三章 完


頼知は現実に現れた幻を追う

アナスタシヤは異世界へと消えた友人を追う

そして交錯する世界

世界の理とは。


終章「帰」六月再開予定



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