金髪の直毘①
三連休の最終日。
朝からG Playへ。
他にやる事が無いのがつらたん。
いやいや、現実に迫るベルゼブブと言う脅威に立ち向かう為。
そう自分へ言い聞かせ、異世界へ向かう。
本当に向き合うべき現実から目を逸らし。
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イツキ>今日はありがとうございました
御楯頼知>こちらこそ
イツキ>まあ、映画は微妙でしたけれど
御楯頼知>すません
イツキ>そうですね
イツキ>御楯くんが悪いです
御楯頼知>え
イツキ>冗談です
イツキ>でも、楽しかったです。山も
イツキ>受験終わるまでの分しっかり充電できた夏でした
御楯頼知>頑張って下さい
イツキ>ちょっと迷ってたんですけど
イツキ>この前見て志望校決めました
御楯頼知>どこですか?
イツキ>受かってから教えます
御楯頼知>応援してます
イツキ>そういうわけで暫くは会えないかもです
イツキ>推薦もらうつもりですけど
御楯頼知>良いですね
イツキ>優等生ですから!
イツキ>部活も勉強も!
御楯頼知>耳が痛い
イツキ>おかげで恋バナ系はさっぱりでしたけど
御楯頼知>好きな人とか居ないのですか?
イツキ>居ます!
イツキ>みんなと同じ様に普通の高校生なので
イツキ>たとえば
イツキ>てを繋いでデートしたいとか思いますよ
イツキ>。でも、今はまず受験
イツキ>その後にって考えてるんです
イツキ>・・・どう思います?
御楯頼知>桜河さんらしくて良いと思います
御楯頼知>結果聞かせて下さい
イツキ>真っ先に教えます
御楯頼知>楽しみにしてます
イツキ>ハイ!
イツキ>だから待ってて下さい!
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これが、一ヶ月前、八月終わりのLINE。そして、最後のLINE。
いや、浮かれてた。
突然抱きついても怒らず、一緒に高尾山にデートにも行ったし、他に好きな人が居るとか思いもしなかった訳だ。だから、流れであわよくば、なんて目論んでみて、そして撃沈。
最後の『楽しみにしてます』なんて、送った記憶無いよ。マジで。
でも、まだワンチャンある。その相手から振られると言う可能性が!
て言うか、振られろ!
幸か不幸かその結果は、いの一番に教えてくれるらしいから!! だから! 振られてしまえ! 最低なのは、自覚してる……。
引き出しの中に眠るタオルを返す日は果たして訪れるのだろうか。
いや、その日の為にベルゼブブなんかに余計な邪魔をされる訳には行かないのだ!
……空元気。
◆
「紡がれ途切れる事のない糸の先
常に移ろいゆく色の名
雪に溢れた墨の如く
騒音と騒音が重なる静寂
唱、陸拾肆 鎮ノ祓 絶界」
転移と同時に結界を展開する。
そして、昨日ムサシから渡された大きなリュックの中身を検める。
手紙が一通入っていた。
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拝啓 異世界から来た同士へ
乱暴な別れになってごめんなさい。
このままこの世界に留まる事は君の為にならないと、そう思って下手くそな芝居を二人で行いました。上手に出来てましたか?
私達は追い込まれています。
なので、君の持つ力は大いに魅力的であり、それ故、君の意思に関係なく利用される事でしょう。
でも、私はそれを良しとしません。
その力は君が君の幸せの為に使うべきだと思います。
それに、もう十分力は貰いました。君に助けてもらった命、無駄には散らしません!
ありがとう。
もし、君の世界に私が居て、出会った時はどうかよろしく。
御楯響子
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……ムサシ。
えっと、君はこの世界では母になってるよ。
俺の……。
眉間を抑え、暫し心を落ち着ける。
あれは母では無い。別の存在だ!
……どうなってんだ?
G Playの時空間。
マジで混沌だな。
まさか自分と同年代の母親に会うとは。
俺の幸せかぁ……桜河さん……いかんいかん。そんなちっちゃな事じゃなくて、今優先すべきは世界に迫る危機。
あの招かれざる存在の駆除。未だ確信はないけれど、七芒星を持つ脅威を排除する事。それが最優先。その先にこそ、桜河さんの幸せもあるんだ。
彼女が笑顔ならば、それで良い。
例え、その笑顔を向ける相手が俺で無くとも……。
あの世界へと迫る脅威を排除出来るのは俺しか居ないのかも知れない。今、それから逃げて先々で後悔はしたくない。
桜河さんが居ない世界。
その絶望を俺はまだ知らない。
気を取り直し、再び荷物の中身を確認。
……着替えだろうか。
コスプレ衣装みたいな彼らの制服が数着。
何で女物も入っているのだ?
片っ端から突っ込んだのかな。
それと、固形の保存食が大量に。
そんな、雑多に詰め込まれた荷物の一番奥に刀が一振り。
短刀、不動行光。……マジか!
信長公の懐刀!
それらを自前の荷物袋の方へと移し替える。
他の収穫は、腰に差した波泳ぎ兼光。
それと、彫刻刀のセット。
荷物袋の中からその彫刻刀と木片を一つ取り出す。御紘の四。
ユズがくれた御識札。
まず必要なのはこれ。御識札。
木材を取り出し小さく削り、表面に印を刻む。
カタカナのラの真ん中に横一文字。ラ・イチ。完璧。
その下に天名地鎮で一を掘る。
更に、もう一つ。そちらは二。
出来上がった札二つ。親指に刀を当て小さな傷を作り、滲み出てきた自分の血を札の彫り込みに塗り込んでいく。
「石連なる先
戻ること無い道の半ば
孤独を残す標と成る
唱、伍拾捌 現ノ呪 枝折」
出来上がった札の一つを地面に埋める。これで何時でもここに戻って来れる。




