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氷上の軍人④

 刀を探しに行く俺を置き去りにしてトラックは走り出す。

 目当ての刀を掴んだ時には既に格納庫に重い重機の動く音が響いていた。


 すぐさま踵を返し、先程まで立っていた格納庫と甲板を繋ぐエレベーターへと飛び乗る。

 せり上がっていく床。そこにムサシの姿は無かった。


「置いてくなよ」


 トラックの荷台へ飛び乗り、ベッカムに文句を言う。


「長生きさせてやろうと思っただけだ」

「そりゃ、どうも」


 荷台に乱雑に置かれた銃を避けながら手にした刀、波泳ぎ兼光を腰へ差す。


 一分に満たない時間で、俺達が再び甲板の上へと上がった時、そこには無数の異形がその上に埋め尽くす光景があった。


 白い体に金色の武器を持つ異形。

 顔に仮面の様な物を嵌め、頭上に浮かぶ光輪。

 その背には翼の様な物を持ち、天から舞い降りて来る。


 一部は既に甲板の上におり、そして、それに相対するのは数珠丸を手にしたムサシ。

 だが、髪を逆立たせ、その全身から微かに焔の様な光をたなびかせるその姿。なりより、一度見失えば二度と追いつけない様な俊敏な動きはとても人のそれとは思えず。


「何だ……あれ」


 俺が思わず漏らした呟き。


精霊化ゲニウスだ」


 それにベッカムが答えると同時に、エレベーターが停止。一気に動き出した車の荷台から振り落とされそうになるのを辛うじて踏み止まる。


「ゲニウス!?」


 叫ぶ様に問い掛けた俺の言葉はエンジン音とベッカムの手にしたマシンガンの炸裂音の所為で相手には届かなかったのかも知れない。


 異形と化したかと思えるムサシの元へ、ベッカムが操るトラックが一直線に進んで行く。

 銃とハンドルを巧みに操るベッカム。

 タイヤを鳴らしながら車を滑らせムサシのすぐ側に。


「あれが天使」


 助手席に飛び乗り一言。

 すぐさま動き出す車から突き出されたムサシのサブマシンガンが次々と異形を蜂の巣にして行く。


「取り巻きは任せる」

了解ラジャー


 再びタイヤを鳴らし、甲板の端へとたどり着いた車からムサシが一言言って飛び出して行った。

 その先に居るのは六枚の羽を持ち直立する蛇。


「流れ弾に当たらない様に、そこで頭下げてな」


 ムサシの後ろ姿を追う俺にベッカムが言う。


「要は、露払いをすれば良いわけだろ?」


 そう答えながら車の荷台から飛び降りる。


「こっち半分は引き受ける。

 だから、銃口を向けんな」


 背後のベッカムへそう叫び、波泳ぎ兼光を右手で握る。

 ……違和感。

 右手が、違うと言った。

 手に宿る火雨花落が。

 周囲に浮かぶ異形。それこそ、自分の斬るべき物だと言わんばかりの声。


 波泳ぎから手を離し、声の赴くままに右手を握り締める。


「極冠に吹く死の風

 灼熱に踊る雪

 全てはその悔恨の為

 唱、伍拾参(ごじゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 千殺月(ちさつき)

 断ち切るは光

 刎ね落とすは闇

 生きながらえるは再びの滅び

 斬神(ざんしん) 灰燼に帰せよ 火雨花落(ひさめはなおとし)

 我と共に、原罪を塗り替えん」


 呼び声に応え現れる刀。

 それが、俺を駆り立てる。目の前の異形共を狩り尽くせと。

 身を焼き尽くす程の怒りと凍える程の絶望。

 これは、火雨花落に込められた想いか。


「……参る」


 その熱に駆り立てられる様に地を蹴る。

 翻る刃は、静かに冷たく疾る。



 ◆


 宙を蹴り、空飛ぶ天使へと切迫。

 その胴目掛け、右手の刃を伸ばす。

 だが、切っ先は相手を捉えず空を切った。


 上昇し回避した天使が振り下ろした錫杖が肩へと食い込み、そのまま遥か下の甲板へ叩きつけられる。

 急降下で迫る天使から逃れようと立ち上がり、それが果たせずに崩れ落ちる体。


 叩きつけられた衝撃で膝を砕かれたか。

 痛みの無い世界。それは即ち自身の体に起きた異変に気付く事を難しくする。


「静寂の精、銀の戯れ

 閉ざされた結界

 時すらも凍る

 唱、参拾壱(さんじゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 逆氷柱(さかさづらら)


 ギリギリまで天使を引きつけ、下から串刺しにする。


「黒猫 添いて歩き

 落ちて戻る

 思いは血を越え飛び行く

 唱、伍拾伍(ごじゅうご) 命ノ祝(めいのはふり) 赤根点(あかねさし)


 体を癒やしながら素早く戦況を確認する。

 自身より巨大な蛇と向かい合うムサシ。

 ベッカムが作り出す弾幕は、その戦いへ割り込む存在を許さず。

 優勢なのはムサシ。

 雷撃を撒き散らす蛇を翻弄するように動き回る赤い影。

 少しでも隙があればベッカムが支援とばかりに弾丸の雨を浴びせかける。

 蛇の背にあった翼はいつの間にか三枚へ減っていた。


 再び天を仰ぐ。

 俺は、自分の戦いに集中しよう。

 腹を抉られても気づかない世界なのだから。


「分かつ者

 断絶の境界

 三位さんみ現身うつしみはやがて微笑む

 唱、拾参(じゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 水鏡(みずかがみ)


 上空から降り注ぐ矢を、盾で受け止める。

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