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潜入捜査④

 いつも行っている鶴川のG Playと同じ様に個室に備え付けられたタブレット。

 それに触れ、いつもと同じ様にカウントダウンが始まる。


「本当かよ」


 そう、呟きながら右手の手のひらを見つめる。

 そして景色が切り替わった。


 ◆


 素早く周囲に目を走らせる。

 炭鉱の様な、木組み残る洞窟。

 当然、誰かの姿は無い。


 ……しばらく待ってみるか。


 そのままそこへ座り瞑想する。

 周囲の気配に気を配りながら、内の力を練る。

 水戸神たる速秋津比売神はやあきつひめのかみの力を。


 ◆


 で、結局誰も現れずスライムまみれの洞窟を抜け帰還した頃には日が傾き出していた。

 既にアリスは戻っているのだろうかとLINEを送るとすぐに既読に。


 ────────────────


 御楯頼知>戻った

 アリス>おつ

 アリス>攻略法はどうだった?

 御楯頼知>誰も居ない

 アリス>だろうね

 アリス>じゃそのクレームを言って来て

 御楯頼知>は?

 アリス>返金があったらお小遣いにして良いよ

 御楯頼知>マジで?

 アリス>私は車に居るから

 御楯頼知>行ってくる


 ────────────────


 ならば、十万きっちり返してもらおうか。

 そう思い、先程の雑居ビルへ。


 既に受付として座っていたおばさんの姿はなく、扉の横の古びたインターホンで呼び出す。


『はい。G Play攻略セミナー』

「あ、午前中にセミナーを受けた者ですが」

『ああ、無事に戻りましたか。おめでとうございます』


 何がおめでとうだ。


「向こうで誰にも会わなかったんですけど?」

『ああ、そうですか。

 でも、貴方は帰ってこれた訳ですよね?』

「え、あ、まあ」

『なら良かったじゃないですか』

「いや、情報が嘘だったんだから返金してください」

『いえ、嘘では無いですよ。

 三人の助けが無くとも貴方は生還できる。

 そう思いましたので、G Play側で生還可能なレベルのステージへと送ってもらったのです』

「は?」

『だから、貴方は戻ってこれたんです』

「なんだ、それ? 証拠は?」

『それは、企業秘密です。

 五十万の上級者セミナーを受講いただければ、そういった事もお教えできます』


 ふざけんなよ。

 コイツラ。

 なんと言い返そうか考えているとスマホが震える。


 ────────────────


 アリス>そろそろ帰るぞ

 御楯頼知>返金できてない

 アリス>道が混むから帰る

 アリス>それとも泊まる?

 アリス>そうすると私が淫行条例で捕まっちゃうけど?


 ────────────────


 何いってんだ。コイツ。

 ただ、まあこれ以上粘った所で金が戻ることはなさそうだ。


 ◆


「なんだ? あのクソみたいな話」


 走り出した車の中で吐き捨てる。


「クソみたい、ではなくクソそのもの」


 アリスが涼しい顔で言う。


「警察だろ? 捕まえろよ!」

「罪状は?」

「詐欺」

「証拠は?」

「……」


 溜息を一つ吐いて、窓の外へ目をやる。


「ちなみに明日もやるからね」

「明日もここに!?」

「明日は……八王子ね」


 こんな事を繰り返して一体なんになるのだろう。

 とりあえず、今日の世界をレポートにして提出して五万、か。


 ◆


「良いですか?

 ウン・バリァツッア・レヴィノモール・カゼッシュ。

 これが、攻撃の魔法。

 バリァツッアを少し巻き舌で発音するのが重要です。

 では、やってみましょう」

「「ウン・バリァツッア・レヴィノモール・カゼッシュ」」

「お上手。

 では、もう一回」

「「ウン・バリァツッア・レヴィノモール・カゼッシュ」」

「お上手。

 次は、ヒーリアム・スフルアート・サン・ミリールール。

 これは、傷を治す魔法です。

 この時、目を閉じながら唱えるとより効果的です。

 では、やってみましょう」

「「ヒーリアム・スフルアート・サン・ミリールール」」

「うん。お上手!

 では、もう一回」

「「ヒーリアム・スフルアート・サン・ミリールール」」

「次は、敵の注意を他へと逸らす魔法。

 アーチュニラ・ムスカアハラナタマナサ・ホライシュ。

 はい、どうぞ」

「「アーチュニラ・ムスカアハラナタマナサ・ホライシュ」」

「お上手!

 次は……」


 厚化粧のオバさん講師が読み上げる呪文、配られた紙を見ながら復唱する。

 その数、優に二十以上。

 配られた紙だけだと何の呪文かわからない上に、発音にもコツがあるらしい。

 手の込んだやり口だな。

 と、馬鹿みたいに復唱しながら思う。

 それっぽい真っ赤な嘘を教え、金を巻き上げる。

 こんな難解な呪文をいきなり覚えられる訳ないし、目を閉じて癒しの呪文を唱えていたらその間にお陀仏だろう。生き残って帰られては面倒だから、そうならない様に工夫を凝らす。

 これで、一人十万。

 たかだか十万巻き上げる為にこんな手の込んだ事をして……相手の命を奪い……それでも何とも思わないのだろうか。

 まあ、俺とアリスの他に客が居ないのでどれだけこの講座を受けたか定かで無いが。




「ウン・バリァツッア・レヴィノモール・カゼッシュ」


 講座を受けた雑居ビルからG Playへ向かう道すがら、アリスが諳んじる。


「覚えたの?」

「検証。一つぐらい覚えて」

「無理」


 使えると信じて無い様な力を扱える訳はない。

 そんな事、試すにも値しない。

 しかし……これを鵜呑みにする奴が居たら……そいつにはこの力が宿るのだろうか。


 俺のノートに書かれた設定。

 あれをそれっぽく書き直したならば、同じ術を扱う奴が現れたりするのだろうか。……直毘ナオビ……が。


 ◆


「試したの?」

「試したわよ。一応」

「結果は?」

「聞かなくてもわかるでしょ?」


 そりゃそうだ。

 俺は試そうともしなかった。

 そもそも、長ったらしい謎呪文を覚えていなかったのだから。


「明日は?」

「明日は川越」

「了解」


 高速を時速80キロの速さで進むフィットの中で少し憂鬱な気分になる。


 ◆


「まず、向こうの世界で必要なのは常識を捨て去る事です。

 念じれば水は凍る。

 人は燃える。

 服は透けて見える。

 そうして得た力は、決して他人とは分かち合えないのです。

 なぜなら、貴方はあの世界でもこの世界でもただ一人のオンリーワンだからです。

 さあ、信じてお行きなさい」



 という様な事を入れ替わり立ち替わり、十人近くの男が力説する講座。

 これで五万。

 他の受講者が三人ほど。


 具体的な事は何一つ教えていない。

 だけれど、この三人はもしかしたら生き延びるかもしれない。

 そんな風に思う。


 ◆


 週が明けて月曜日。

 今日は試験休み。

 そして木更津。


「良いか。

 ゴブリンが来たら、こう……ガッと掴んで、ガンとやって……ドン! だ」


 と、身振りを交え戦い方を教える自称Cランクのガタイの良い男。

 これで、相手に伝わっていると思うのだろうか。

 体から湯気が出るほどに、汗を滴らせ熱演する男を冷めた目で眺める。

 あの動きならば……軽く躱し組み伏せ事が出来るのではないか。

 何かしらの格闘技経験がありそうな男の動きを観察する。

 男がひとしきりの解説を終え、タオルで汗を拭う頃に、勝てそうだと言う結論に至る。

 わずかに、動きに淀みが見られたからだ。

 意思に反して、体の動きが遅い。そんな風に思えた。

 強靭な筋肉を覆う様な分厚い脂肪の所為だろう。


 ◆


「捜査会議中の刑事みたいな目付きしてたわよ?」

「え?」


 G Playへと向かう途中でアリスに言われる。


「それ、どう言う意味?」

「とてもまともな人間には見えないって事」

「酷くね?」

「だって、アイツらまともな人間じゃないもの」


 ……それは、暗に俺もまともな人間では無いと言いたいのだろうか。

 まともな人間でないのは、母一人で十分なのだけど。


 ◆


 てかさ、ザシュ、ザシュってやれば良いんだよ。ゴブリンなんて。


 そんな風に思いながら現実へと戻る。


「明日は海老名」

「明日で休み終わりだけど」

「知ってる。

 今週末どうするかは、追って連絡する」


 まだ続く可能性あるのか。


「ちなみにガッて掴んでドンは役に立った?」

「俺、格闘家じゃないから役に立たなかった」


 刀と術を使う直毘ナオビなのだから。


 そう言えばアリスはどう言う力なのだろう。

 毎回俺より早く戻っているが。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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