潜入捜査②
────────────────
アリス>何処住み?
御楯頼知>新百合ヶ丘
アリス>小田急?
御前頼知>はい
アリス>なら、狛江集合
御前頼知>はい?
アリス>返事は、はいかイエス
御前頼知>イエス
アリス>うわ。突っ込めよ。関東人が
御楯頼知>関西人?
アリス>教える訳無いだろ
────────────────
この人、暇なのかな? と、思わせる様なやりとりがあり。
そして、試験休みの金曜日。
人もまばらな狛江の駅前に立っている。
指定されたロータリーでスマホをいじりながら待っていると、突然クラクションが鳴る。
路上に停車した一台の車。黄色のフィット。その運転席に、眼鏡を掛けた有珠。
え? 年上?
どうしよう。一瞬考え、後部座席のドアを開ける。
「おはよう」
「何で後ろ乗るんだよ?」
「え、前の方が良い?」
「別に。良い身分だなと思って」
「はあ」
「それで、目的地は何処?」
「山梨」
「山梨?」
ちょっとした行楽だな。
走り出した車の外へと目を向ける。
カーステレオから流れる洋楽のロックが少し五月蝿い。
「今日やる事、わかってる?」
赤信号で停車したタイミングで有珠が話しかけてくる。
「怪しい商売の調査」
「そう。
潜り込んで、一応話を聞いて、向こうへ行く。
その後は自力で戻って来て、まあ、明日の朝までに帰って来れれば帰りも車で送ってあげる」
つまり、さっさと戻ってこないと電車で帰らねばならない訳か。
ひどくね?
「御楯、ランクはBって聞いてるけど?」
「そう」
「何回くらい行った?」
「50回強。そっちは?」
「ランクはA。数は覚えてない」
……うわ。上位10%に入る強者だ。
車は調布から中央道へと入る。
「人を殺した事は?」
「……無いよ」
「なら良い」
「良いのか」
「一つ、忠告しておく。
向こうで行われた事。
それは全てログに残っている」
「え? マジで!?」
「確証はない。
だけれど、その可能性は考慮に入れるべき。
それが明るみになった時に、再びこの世界で太陽の下を歩けない様な行動はしない方が良い」
……その可能性……あるのだろうか。
今のところ公表されている事は、向こうでの生死はわかると言う事のみ。
……だが、言われた通りその可能性は考慮に入れるべきだ。
羽目を外した行動。
今までもそんな事はしてこなかったけれど、この先も。
「忠告、どうも」
ネットに溢れるG Playの自慢話。
その真偽が明かされる日が来るのだろうか。
と言うか、そもそもG Playって何なのだろう。
そんな大いなる謎より、目の前の小さな疑問から解消して行こうか。
「あの……年いくつ?」
免許があるのだから、年上は確定なのだけれど。
フロントガラスの向こうへ富士山が見えた。
「二十七」
「……え!?」
「何か?」
「いや……」
下手すりゃ中学生に見える。
アレだ。合法ロリ。
「今思った事をそのまま口にしてみ?」
「若いですね」
「合法ロリとか思っただろう?」
「そんな事無いですよ」
「口にしたら殺す」
自分で言ってんじゃん。
「気を付けます」
「敬語止めろ。警戒される」
「あ、はい」
いや、しかし大分パイセンだよ。
「有珠さんって何者?」
「アリスで良い」
キラキラネームだな。
「やっぱ、アリスちゃんで」
どう言うこだわりだろうか?
「……アリスちゃん……て、何者?」
呼ぶのが割と恥ずかい。
「アレ」
そう言いながら右、追い越し車線の方へと顔を向ける。
猛スピードで走り抜けて行くポルシェ。
その後を追いかける赤色灯。
二台の車が走り抜けて行った。
「……走り屋?」
「じゃない方」
警察かよ。
道理で姿勢が良いはずだ。
「ミニスカポリスかとか思っただろ。
最低だな」
「思ってない」
「ヤダヤダ」
思ってないよ。
しばらく先で路肩に停まるパトカーとポルシェを追い越す。
「ナーシャ、元気?」
「元気だけど、知り合い?」
「少し。付き合ってるんだって?」
いや、そんな事実は断固としてない。
だけれど、その情報源は真壁だろう。
という事は、そう信じられていて、そこは訂正しないほうが良いのだろう。
「んー、そんな感じ」
え、そんな感じです?
脳内で驚きの声を上げる桜河さん。
いや、全っ然、そんな感じではないですから。
「若ぇな……」
アリスが前を見ながらポツリと呟く。




