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潜入捜査①

 桜河さんは天使なのだと思う。

 あの矢に射抜かれたならば、俺はきっと生まれ変われるのではないか。


 ……何言ってんだろう。


 とりあえず、桜河さんの引退は先送りになり、泣き顔を見るような事にはならなかった。

 俺は武道館の二階観客席からそれを眺めて居た。


 そして、その帰り道。

 新宿に降りる。


 目的地はシキシマシステムサービス。

 真壁からの呼び出し。

 一体何の用があるのだろう。

 日曜なのにわざわざ。

 ワーカーホリックとはああ言う人を言うのだろうな。

 ウチの親父も労働時間長いがあれは社畜だ。


 IDカードでゲートを抜け、地下3階へ。


 そして、辛気臭いシキシマシステムサービスへ。


 受付の内線電話で真壁を呼び出す。


『はい、真壁』


 ワンコールもしない内に相手が出る。


「御楯です」

『ああ、そこで待ってて下さい。すぐ行きます』


 通話が切れるとほぼ同時にサムターンの回る音がして、扉が開きスーツ姿の真壁が現れる。


「何の用ですか?」

「受付で立ち話するような会社は無いですよ」


 無表情にそう言われるが、こちとら高校生。

 そんな説教を食らいに来た訳ではない。

 まあ、一言多いのは無視しよう。そういう人なのだ。


 真壁は前回と同じく小さな会議室へと案内する。

 そこには先客が居た。

 ニット帽をかぶりメガネを掛けた小柄な女の子。

 俺達が入ると静かにスッと立ち上がる。

 ラフな格好に似合わないほどに良い姿勢。


有珠うすしのぶさん。

 御楯頼知君」


 真壁が互いを紹介し、それに合わせ軽く頭を下げる。

 そして着席した俺の前に一枚の紙を差し出す真壁。


 【G PLAYのノウハウ教えます! オリジナル攻略法!】


 白い紙に極太のフォントでそんな文字が印刷された安っぽいチラシ。

 俺が鶴川のG Playに行く度に、自転車の籠の中に似たようなものが放り込まれている。


「新しい商売ですか?」

「儲かりますかね?」


 そんな訳無いだろうと思った俺の軽口に満更でもなさそうな真壁の返し。


「どうぞご勝手に」

「もし、儲かるなら転職も考えようかな。

 そう言う訳でこれが実際、どんな物か見てきて下さい」

「え? 俺がですか?」

「ええ。君と有珠さんで」


 嫌だよ。面倒臭い。


「報酬は……一日三万でどうですか?

 もちろん、レポートと別で」


 ……悪くは無い。


「でも、嘘でしょう? これ」


 まさか、本物だと信じているのだろうか?


「万が一、と言う事もありますからね」

「いや、無いと思いますよ」

「それを、経験者の視点から見てきて下さい」


 成る程。


「……わかりました」

「では、よろしくお願いします。

 この案件、有珠さんが直接の指示者となりますので細かな話は有珠さんから聞いて下さい」

「あ、はい」


 向かいに座った有珠さんに目を向ける。

 無表情で背筋を伸ばし椅子に座っている。

 俺と同い年か、少し下くらいだろうか。


「よろしく」

「よろしく。

 早速だけど、明日からの予定、教えてくれる?」


 そう言いながら、彼女は自分のスマホに目を落とす。


「明日は学校」


 ゆっくりと顔を上げ、マジマジと俺の顔を観察する。


「……休めない?」

「無理」


 響子がキレる。

 KBC再入隊なんて事態になったら耐え切れない。

 言い切った俺の反応を見て有珠は真壁の方へ顔を向ける。


「バイト気分かよ」

「まあ、高校生ですからね。

 バイトみたいなものです。

 そこは堪えて下さい」


 有珠は恨みがましい目で俺を睨んだ後に再びスマホに目を落とす。

 学校行って無いのか?


「再来週の週末は?」

「無理す。テスト勉強するんで」


 その後にすぐ期末試験。


「いい身分だな。高校生」

「ならば試験休みもあるでしょう?」

「その翌週の金曜から休みです」

「……ならとりあえずはそこ、空けておいて。

 予定は追って連絡する。

 電話番号は?」


 問われるままに電話番号を教える。

 直後、スマホが震えLINEにメッセージ。


 ────────────────


 アリス>よろ


 ────────────────


 俺がスマホから目を上げると既に有珠は立ち上がっており、そしてそのまま会議室から出て行った。


「何が目的ですか?」


 残された俺は真壁に真意を問う。


「目的は、このチラシの真偽ですよ。

 もし、本当に攻略法があったとしたらどうです?」

「そんな物があったら、わざわざ他人に教える訳無いでしょう?」

「私はそうは思わないな。

 自慢したくなるでしょう?

 俺は、こんなに凄いんだ、特別なんだって」

「……別に」


 向こうへ行って、帰って来る。

 それは、果たした自慢になるのだろうか。

 少なくとも桜河さんに向かってそんな事を自慢げに話すつもりなど、微塵もない。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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