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傲慢

 爽やかな風が走り抜け、緑一色の草原を揺らす。

 現実は梅雨入りし、鬱々とした日々が続くがこちらはそんな事お構い無しか。

 まあ、今に始まった事では無いが。


 広いな。

 周囲を見渡しながらそんな感想を抱く。

 そして、門を見つけるのが大変そうだな、とも。


 だが、まずはあの敵を倒してからか。

 視界の端、草原の先に豆粒程に見える小さな影。

 だが、それだけ距離が離れていても感ずる異様な気配。


「極冠に吹く死の風

 灼熱に踊る雪

 全てはその悔恨の為

 唱、伍拾参(ごじゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 千殺月(ちさつき)


 分かつ者

 断絶の境界

 三位さんみ現身うつしみはやがて微笑む

 唱、拾参(じゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 水鏡(みずかがみ)


 全てを切り裂く白く燃える霧の刀とあらゆる力を受け止める碧い盾。

 それを現し近寄って行く。

 禍々しい気配を隠そうともしない人影へと。




 それは、獣の上に腰を下ろし、蔑む様な視線をこちらへ向けていた。

 座したるは、鬣を備えた雄獅子。

 座するは、背に翼を持つイケメン。


()が高い」


 その男が、笑みを浮かべながら言い放つ。

 直後、上から圧し潰す様な力。

 首を折り、地に膝を突く。

 その直前で堪え、顔を上げ男を睨み返す。


「何者だ?」


 腹の底から声を絞り出す。

 その間にも、俺を地に押し倒そうと掛かる力。

 それに抗う。


「魔王が一人」


 男が口元を釣り上げながら言い放つ。

 ……やはり。

 俺はこいつを知っている(・・・・・)

 傲慢の魔人・ルシファー。

 弱者を屈服させ、君臨する者。

 だが、ただそれだけだ。

 そして、目の前の男より、俺の方が強い。

 全てを断ち切る刀、全てを受け止める盾。

 その二つがある。

 何より、こんな奴よりも恐ろしい魔王(キョウコ)を俺は知っている。

 上からのしかかる力を跳ね返し、直立する。


「だから、何だ?」


 こんなもの、何ともないのだ。

 強がりでは無い。

 心の底から思う。

 目の前の男より、俺の方が強い、と。


「不遜な」


 背にある三対、六枚の翼を広げる。


 だから、何だ?

 地を蹴る。

 二足目で空を踏み抜き、三歩で男の上を取る。


「貴さ……」


 何かを言おうとした男の後ろ首へ右の足首をめり込ませる。


 その翼は飾りか?

 来いよ。

 怒りに顔を歪ませたルシファーを見下ろす。

 六枚の翼が広がる。

 それに合わせ肌を切り刻む様な威圧感が押し寄せる。

 だが、それも一瞬の事。

 すぐさま俺を守る様に展開される碧い盾、紺抂亀。それが防ぐ。あらゆる攻めを。

 速秋津比売様、御力を。

 ここに喰らい飲み込むべき者が在る。


「死して後悔するが良い」


 その言葉、そっくりそのまま返してやる。


 ◆


「貴様……これで終わりと思うなよ……」


 背の六枚の翼全てをもぎ取られ、地に鎖で縫い付けられた魔人がそれでもなお苦し紛れに恨み言を口にする。


「そうかよ」


 見下ろす先に男の白い首。その真ん中に小さな黒い模様が一つ。七芒星……歪みの刻印。

 そこに狙いを付け、火雨花落を振り下ろす。

 その刃は、違わずに首を刎ね落とした。


 傲慢で在れ。

 それがこの魔人に勝つ為の手段。

 相手に敵わぬ、そう思った瞬間、勝負は決する。

 一度ひとたび負けを認めるとたちまち圧し潰す力に屈し、二度と立ち上がる事が出来なくなる。

 それが、傲慢を冠した魔人、ルシファーの能力。

 ならば、屈しなければ良い。

 ただ、それだけの事。

 だが、圧倒的な力を前にそれが為せる者は限られる。

 そして、人はそれをこう呼ぶのだ。勇者と。


 まあ、俺は勇者で無く直毘ナオビな訳だけど。


 ◆


 ……偶然。

 七つの大罪でルシファーなんてありふれた創作の存在。

 俺の設定の中に同じ物があったとしても、それは偶然。


 自室でノートを開く。


 ────────────────


 【傲慢】ルシファー

 三対六枚の翼を持つ

 その姿に畏れを抱いた者は立ち上がる力を失う


 ────────────────


 目の前のノートに書いてある設定。

 自身にそれが発現するのは理解出来る。

 だが、それを元に他のキャラクターまで現れるのか?


 まさか。ただの偶然だ。


 そう結論付け、ノートを引き出しに仕舞いスマホに目を落とす。


 ────────────────


 イツキ>最後かもしれないので

 イツキ>悔いの残らない様に頑張ります


 ────────────────


 明日、武道館で行われる東京のインターハイ予選。

 それに臨むのは桜河さん。


 ────────────────


 御楯頼知>応援行きます


 ────────────────


 もちろん予定は空けてある。


 ────────────────


 イツキ>来ないでください


 ────────────────


 万全の状態で応援を……え?


 あれ?


 ────────────────


 イツキ>平静で臨みたいので


 ────────────────


 ここで、傲慢を発揮するならば。

 俺がお前を見たいから応援に行くのだ。

 お前がどう思おうが関係ない。

 と、壁ドンしながら言っただろう。

 そして、付き合う。


 ────────────────


 御楯頼知>あ、はい


 ────────────────


 だけれど、そんな傲慢など持ち合わせていないのです。


 しかし、拒否られるとは……。


 ────────────────


 イツキ>負けたら

 イツキ>大泣きするかもしれないので

 イツキ>大泣きするので

 イツキ>泣き顔見たいですか?

 

 ────────────────


 え。

 見たい……かなぁ?

 泣き顔も可愛いぞ。

 と壁ドン、顎クイしながら言えば良いのか?

 だけれど、そんな傲慢など持ち合わせていないのです。


 ────────────────


 イツキ>私は見られたくないです

 イツキ>なので、明日は大丈夫です

 イツキ>あ

 イツキ>でも一言もらえると嬉しいです


 ────────────────


 なんと言えば良いのだろう。

 しばらく考え、そして送る。


 ────────────────


 御楯頼知>この前の大会、桜河さんの立ち姿と、放たれた矢は何より綺麗だと思いました。

 御楯頼知>明日もきっと同じ様な姿で矢を射るのでしょう。

 御楯頼知>でも、それを見るのは次の機会まで楽しみにとっておきます。


 ────────────────


 次の機会。

 八月に秋田で行われるインターハイ。

 勝ち抜けば、それに出場するのだ。桜河さんは。


 ────────────────


 イツキ>恥ずっ!


 ────────────────


 ですよね!

 ちくせう。

 もう少し気楽な言葉にすりゃ良かった!


 ────────────────


 イツキ>不意打ちが過ぎます!

 イツキ>あーもう!

 御楯頼知>ごめんなさい

 イツキ>取り消して良いですか?

 御楯頼知>何が?

 イツキ>応援、来てくれると嬉しいです

 イツキ>やっぱり

 御楯頼知>行きます!

 イツキ>その方が、頑張れます

 イツキ>ありがとうございます。

 イツキ>もう寝ます

 イツキ>おやすみなさい

 御楯頼知>おやすみなさい


 ────────────────


 よし。

 よし!

 明日全力で、静かに応援に行こう!

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script?guid=on 新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
https://ncode.syosetu.com/n3012fy/
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