嘘
私の名前は風巻凛子。
親族が経営する喫茶アンキラで時給九百五十円で飲み物と笑顔を運ぶウエイトレス。
店内にお客さまは二名。
私と同い年の男の子と、その妹ちゃん。
この店で知り合いになった友達である。
店内にお客さまは二名。
つまり、暇なのです。私は。
「ヨッチ」
「ん?」
男の子がオムライスを食べる手を止め私の方を見る。
「いや、頼知君」
「何? 改まって」
「……来ないの」
「誰が?」
「生理」
私の返答に、ヨッチは咀嚼する口を止めゆっくりと首を傾げる。
そして、水とともに口の中を空にする。
「……それを聞かされて、俺はどうすれば良いの?」
「もっと驚くとか、焦るとか」
「焦る意味がわからない」
まあ、そうだよね。
「本当に? 平気なの?」
「遅いよ。その反応」
「そんな事言われても」
「まあ、嘘なんだけど」
「……その嘘に何の意味があるの?」
「暇つぶし」
「もう少し、楽しい嘘を吐けば良いと思うよ」
「いやいやいや、ヨッチのさリアクションがつまらない訳よ」
「俺の所為?」
「もっと、こう、さ『……お、俺の子なのか!?』とか顔面蒼白にしながら言ってご覧よ」
「いや、意味がわからない。そもそもそんな心当たりないし。
何? 遠回しな告白?」
「いや、昨日見たドラマを思い出して、普通の男子はどういうリアクションをするのかなと試してみたわけよ」
「自分の彼氏でしろよ」
「彼氏おりゃん」
カウンターの椅子に腰掛けながら、唯一の客をからかって時間を潰す。
その奥で、口の周りをケチャップでベタベタにしてオムライスを掻き込む実ちゃん。
そろそろ閉店時間。
でもこの二人が帰らないという事は……。
カランコロンとドアベルが鳴る。
「いらっしゃーい」
「ごめんねー。閉店間際に。
オレンジジュース一つ」
元気な声とともに飛び込んできた夏実杏。
最近友達になった、通称アンコ。
「いいよー。無理に頼まなくても」
どうせ彼氏と待ち合わせ。
「居るよね?」
「待ってるよ」
私の答えに満面の笑みを浮かべ指さした席の方へと小走りで向かうアンコ。
お冷一つもってその幸せそうな後ろ姿を追いかける。裏山。
この後、実ちゃんがさっきの嘘を中途半端にアンコに伝えるというトラブルがあり。
「私は、別に平気だから」と涙目になりながら強がるアンコにキュンとする。
申し訳ないので今度バイト代から天引きでナポリタンをご馳走することにした。実ちゃんと、二人分。
あと、アンコ。横のリアクション薄い男はもっと大げさに騒ぎ立てたほうが喜ぶと思うよ。
エイプリルフール!
さっき書き上げましたのでご笑納を。




