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書き込みのあるノート

「ただいま」


 開けた玄関の先、リビングに明かりが点いている。


「お帰り」


 リビングでくつろぐ母。


「どこ行ってたの?」

「はい。

 お土産」


 テーブルの上に小さな箱。

 白い恋人。


「北海道!?」

「そう」


 何故息子を置いていくのだ?


「親父は?」

「寝た」

「メシは?」


 土産を一つ齧りながら尋ねる。


「食べるの? 雑炊くらいなら作れるけど?」

「それで良いや」


 そう言って、もう一枚土産を手に取り自分の部屋へ。

 そして机の引き出しの奥底から取り出す一冊のノート。


 大きく息を一つ。気持ちを静め、いざ。


 ◆


 凶神を封印されし赤子、御楯頼知。

 監視役として送り込まれる妹、御楯風果。

 豪放な師匠(腐女子)。

 同い年の監視役の娘、御紘杏夏。

 二人を襲うまつろわぬ神、天津甕星。

 直毘ナオビの術、百八つ。

 そして、その最期。


 ◆


 うん。

 痛い。

 それでもなお、血反吐を撒き散らしながらも向き合わねばならぬ。

 何故ならば、これが俺の力なのだから。


 だが……眼の中に封印された凶神は居ない。

 根底が変わった。

 その代わりと言っては失礼だが、別の神が宿った。右眼に。

 それは、めくるページの中には記されていない設定。


 最後のページ。

 御紘杏夏を喪い禍津日マガツヒに飲まれる悲劇の主役。


 ページを逆にめくり、始めのページへ。


 魔王の座を狙う七人の魔人。

 それに立ち向かう勇者と月の姫。


 その勇者こそが、現世へ転生する前の俺、らしい。


 ……数ページ捲り、ノートを閉じる。


 正視出来ない。

 全身がむず痒い。

 雑な魔人達の能力設定。

 他方で勇者は設定が思いつかなかったのだろう。

 明らかに途中で投げ出した形跡がある。


 ……それで正解だ。

 剣と魔法の世界の勇者の生まれ変わりと日本の歴史の影に生きる一族の末裔。

 どちらがマシかと言われれば、まだ後者の方がマシである。

 マシなのだ!

 まだ、現実的なのだ!


 ……架空の設定に現実的も何も無いよな。


「ごーはーん」

「はーい」


 取り敢えず、飯を食おう。

 で、風呂入って、予習して。


「……あれ?」


 テーブルの上に置かれた土鍋と雑炊。

 どう見ても、鍋の締め。

 この申し訳程度に残る赤と白の物体は……。


「鍋? てか、蟹?」

「そう。北海道土産」

「え、蟹は?」

「それしか残らなかった」

「何でだよ!?」


 お前ら、夫婦で北海道行ったんだろ?

 何で土産を家で完食しちゃうんだよ。

 息子に買って来たんじゃ無いのか?


「ナーシャが美味しそうに食べるからつい、ねぇ」

「おい、母よ。

 他人に分け与える前にまず自分の息子にだな」

「まあ、もう家族みたいなもんだし」

「違ぇ!」

「ひょっとしたら義理の娘になるかも知れないし」

「ならねぇ!」

「本当?」

「何でそうなるんだよ!」

「だってさぁ?」


 土鍋から立ち上る湯気越しに母の探るような目つき。


「だって、何だよ?」

「……アンタ、ベッドにいっぱい髪の毛落ちてたよ?

 長い金髪が」

「うわああああ!

 勝手に部屋入んな!」

「孫の顔はまだ見たく無いわよ?」

「そんなんじゃねぇ! マジで!!」

「でも、名前は可愛いのが良いわ。苺とか柚とか」

「考えんな!」


 あのノートも置き場を考えた方が良いだろうか……。


 ◆


「おはようございマス」


 朝飯を食いに我が家に現れるアナスタシヤ。

 俺の蟹を喰らい尽くした大罪人。


「何デスか?」

「別に」


 文句を言っても今更吐き出して戻って来る訳でなく、むしろ違うものを吐き出す姿を思い出し尚更腹が立ってくる。


「アレですか?

 私の事、好きになりマシたか?」


 予備動作なしに振り抜いた俺の右フックは、スウェイバックで躱される。


「愛情表現が下手デスね。

 日本人は」

「愛情なんて表現してないからな」


 いちいち腹立つ。

 どうしてこんな奴を助けようと思ったのだろう。俺は。


「早くご飯食べなさい」

「はいデース」


 そんな三和土での攻防もありつつ今日も平和な一日が始まる。

 我が家に馴染み行くアナスタシヤを冷めた目で眺めながら、とっととこの家を出ようと決意を新たにする。

 その為の資金稼ぎ。それに磯城島守とやらはもってこいだ。


 ◆


 連日アナスタシヤと肩を並べて登校し、そして、週末。金曜日。


 さて、行きますか。

 残り、62回。

 それでアナスタシヤは解放。


 鶴川のG Playでタブレットに触れる。


 異世界へ降り立ち、すぐに周囲の気配を探る。

 ……大丈夫。敵は居ない。

 そのままその場に座り瞑目。



 内なる世界。

 最奥の扉。閉ざされたその扉の奥から漏れ出る静かな、だが、圧倒的な力。


 使える物は使う。

 そう決め引き返す。

 そして、小さな扉の前へ。

 命ノ祝(めいのはふり)卑弥垂(いやしで)

 以前は鍵穴が潰されていたその扉。

 手を触れ、魔力でその鍵を開け扉を開く。


 一つ、力を手に入れ目を開く。


 そして、左手の甲へ目を落とす。

 三本あった刀。

 内なる扉が開けられたその中に力は無く。

 それを示す様に刺青も消えていた。


 だが……。


「何だろう。これは」


 六角形の亀甲紋の刺青。

 知らぬ力がまた一つ。


 まあ、良い。

 わからぬ事をいつまでも考えてもわからない事はらからない。

 狐白雪を抜き、ジメッとした洞窟を歩き出す。


 ……行く手を遮る様に現れる異形。

 人型で直立歩行する、蟹。

 ……流石に食欲は湧かないな。


「暮れない夜

 怠惰なる夢を夢と為せ

 羽落ちるその束の間

 唱、拾陸(じゅうろく) 壊ノ祓(かいのはらい) 赤千鳥(あかちどり)


 放った術は相手の表皮に当たり、弾かれる様に消滅。

 硬い、か。

 火雨花落で無理矢理に断ち切っても良いが……狐白雪を手に蟹怪人へと襲いかかる。

 関節の隙間。そこへ刃をねじ込ませ、断ち切る。

 肘から切り落とされ、ぼとりと落ちる大きな鋏。

 しかし、全く意に介さず振るわれるもう一つの鋏。


「分かつ者

 断絶の境界

 三位さんみ現身うつしみはやがて微笑む

 唱、拾参(じゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 水鏡(みずかがみ)


 呼び声に応え現れた盾が、蟹の鋏を受け止る。

 その隙に、蟹の口へ狐白雪を突き刺す。


「零れ落ちる記憶の残滓

 遠路の先の写し身

 爪を赤く染めよ

 唱、(いち) 壊ノ祓(かいのはらい) 鳳仙華(ほうせんか)


 引き抜きざまに狐白雪が穿ったその隙間を爆破の術で圧し広げる。

 頭を吹き飛ばされ、食欲を唆る様な香ばしい匂いを放ちながら異形は崩れ落ちた。


 その後に残った盾。

 光の届かぬ深海の様に深く碧い水の板。

 左手の甲にあった刺青が無くなっていた。


 ……そうか。

 速秋津比売と共に居た海亀。

 あれが依代となったのか。


「……汝、紺抂亀こんごうせき也」


 浮かぶ盾にそう名付け。

 黒い盾は、嬉しそうに揺らめいた後に静かに消え行く。それに合わせ左手に戻る刺青。


 身に宿った新たな力の印を見つめ、そして顔を上げる。


 さて、帰ろう。

 現実へ。





二部一章 完


頼知の前へと現れた一人の少女

敷島守の命により彼女と行動を共にする彼は

そこで人の浅ましさを目の当たりにする!


二部二章「転」四月初旬再開予定





伏線なく設定が増えた気がしないでも無いですが、そんなもんです。

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script?guid=on 新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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