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海上の駅舎①

「…………!」


 転移と同時に仰向けに落下を始める体。

 遥か先の天頂には、白く輝く入道雲と抜ける様な青空。……綺麗だ。


 …………違う!

 見入ってる場合じゃ無い。

 落下しながら、反転し落ち行く先を確認。


 ……下も青一面の空…………じゃない!!

 一面の水……この匂い……海だ!

 良かった。

 いや、良くない。

 どんだけの高度かわからないが、このまま水面に叩きつけられたら痛い。死ぬかも知れない。

 体を折り曲げた姿勢で落下して、着水直前に開けば衝撃をゼロに出来るのだったか?

 そんな訳ない。ヤバい。


 しかし、そんな状況でも俺の頭はすんなりと受け入れ次に取るべき行動の選択を始める。


 瞑目。


 廃墟の戦いで得た魔力。

 それを使い得るのはこの体の強化。


 (つつみ) 陸拾弐(ろくじゅうに) 水雲(みずぐも)

 水面の上に立ち、沈む事なく移動する術。


 その扉を開け、力を得ると同時に刮目。


 着地する先を確認し、それに備える様に体へ力を流す。


 両手両足の四点で小々波に揺れる水面の上に静かに着地、いや、着水する。

 まるで、アメンボの様に。


 ……そのままゆっくりと体を起こし、水面の上へと立つ。

 違和感無く、体が動く。

 突然の状況の変化に動じつつも、思考を止める事なく対処する。

 KBC(地獄)で得た成果。


 さて、ゲートはどこだろう?

 見渡す限り、陸地の様な物は見えない。

 見下ろした海は深く、底まで光が届いていない。


「下、かなぁ?」


 海底に門がある。

 あり得そうな話。

 目を凝らし、海中を見つめ、それから顔を上げる。

 取り敢えず、歩いて見よう。

 海の上の散歩。

 そんな事、この世界でしか出来ないのだから。

 水平線の向こうへ浮かぶ入道雲を目指し歩き出す。



 術の力で水の上を歩く。

 少しでも気を抜いたらば、この体が海中へと沈み込んで行くだろう。

 そして、走る事も出来そうにない。

 まだまだだな。

 まずはこの体を十全に扱える様にならねば。

 何より生き残る為に。


 そんな風に考えながら、大海原を歩く。

 穏やかな潮風に吹かれながら。


 ……背後から気配を感じた。

 上ではない。

 下。

 水の中。


 振り返り、海中へ目を凝らす。


 小さな丸い影が、猛スピードでこちらに迫る。

 そして、その奥に白い巨体な影。


 腰の狐白雪へ手を回す俺の下を小さな影が通り過ぎる。

 そして、海面が盛り上がりそれを追っていたであろう白い影が海上へとその姿を現わす。

 真っ白な、巨体。

 人の様なその姿は、海面から出た上半身だけで十五メートルはあるだろう。

 顔には目も口も無い異形。


 ……ヒトガタ。

 南極の海にいると言うUMA。


 それが俺に向け、薙ぎ払う様に大きく右手を振るう。


「創造する手・無の化身

 紡ぐ、縦横に

 拒絶する柔らかな結界

 唱、(さん) 現ノ呪(うつつのまじない) 白縛布(はくばくふ)


 逃げれない。

 咄嗟にそう理解した俺は、振るわれる右手が俺を弾き飛ばすその間際に大きく跳躍。

 術で作り出した布を巨大な白い手へと引っ掛け、振り抜く勢いを借りながら宙へ。


 (つつみ) 陸拾漆(ろくじゅうしち) 火辺知(かべはしり)

 垂直の壁すら走って登れる肉体強化の術を解き放ちながら、その手首付近へと着地。


「極冠に吹く死の風

 灼熱に踊る雪

 全てはその悔恨の為

 唱、伍拾参(ごじゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 千殺月(ちさつき)


 右手に刀を現わし、文字通りヒトガタの右腕を駆け上がって行く。

 肩まで駆け上がり、喉笛目掛け跳躍。

 新たに手にした刀、火雨花落はスパリとヒトガタの喉を切り裂いた。


 そのまま着水。

 獲物が絶命し、海中深くへとその巨体を沈めて行くのを立ち泳ぎで見送り再び海上へ。


 ヒトガタから吐き出されたマナが俺の中へと流れ込む。

 不思議と高揚感は無かった。

 むしろ、当然の結果。

 そう思えた。


 何せ俺はKBC(地獄)を経験したのだから。


 そんな俺の足の下へ、再び小さな影が現れる。

 まるで俺を先導する様に泳ぐそれに着いて行く事にした。

 周りは大海原。

 他に当ては無かったし、この影が再び敵を呼び寄せる餌になるかも知れない。

 そんな風に思い。


 ◆


 海の上に、電線が張ってある。

 そして、その下。海面ギリギリへ浮かぶ線路。

 その伸びる先にあった、無人の小さな駅。

 そのホームにひとつだけ置かれた長椅子に腰を下ろしている。

 足元には、ここまで先導してきてくれた海亀が微動だにせず待っている。

 何を?

 多分、電車を。


 いつ来るとも知れぬ電車を待つ間、ヒトガタから得た魔力を使い身体強化の力を得る。


 潜水術、(つつみ)拾弐(じゅうに) 『水蓮(すいれん)』。

 整息術、(つつみ)弐拾漆(にじゅうしち) 『調息(といき)』。

 歩走術、(つつみ)伍拾弐(ごじゅうに) 『撫霧羽(なんば)』。

 空中移動の術、(つつみ)伍拾漆(ごじゅうしち) 『天駆(あまかける)』。

 気配を遮蔽する術、(つつみ)漆拾弐(しちじゅうに) 『神匸(かみかくし)』。

 無呼吸の整息術、(つつみ)漆拾漆(しちじゅうしち) 『瞬息(しゅんそく)』。

 遠視の術、(つつみ)捌拾弐(はちじゅうに) 『千理鑑せんりがん』。

 先々の先を読み取るすべ(つつみ)捌拾漆(はちじゅうしち) 『察氣(さっき)』。

 一切の感情を殺すすべ(つつみ)玖拾弐(きゅうじゅうに) 『断獄(だんごく)』。

 死してもなお戦い続けるすべ(つつみ)玖拾漆(きゅうじゅうしち) 『流転(るてん)』。



 壊の術は、確かに強力だ。

 更に禁呪ともなれば、空間を渡る事も出来る。

 空間ごと、敵を裂くことも出来る。

 だが、それに頼らずとも戦う事は出来る。

 この体がまず何よりの武器。

 それを十全に扱う。

 それから始めなければならない。


 さて、ではその為にその使い方を身体に馴染ませるか。

 手始めに、天駆あまかける

 宙空を踏み台に、天を駆け回る術。

 空を見上げ、立ち上がり、そして、視線を再び水平線へ戻す。


 線路の向こうから電車が現れた。

 新たな術の試験は後回しだな。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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