アナスタシヤの恩返し
桜河さんは天使だと思う。マジで。
夕暮れの観覧車。
十五分強の夢の様な時間。
あの時間だけをエンドレスにループする世界線は無いのか?
G Playならそんな事も可能では無いのか?
むしろ向こうで会いたい。
きっと、紛う事無き天使が降臨あらせられる筈だ。
そんな情景を思い浮かべながら帰宅。
「ただいまー……」
あれ?
家の電気が点いていない。
留守か?
『パパと、旅行に行ってきます♪
ご飯は適当に食え!』
と言う書き置きと五千円札。
いつ帰るんだよ。
てか、一言言ってから行けよ。
こんな事なら晩御飯食べてくれば良かった。桜河さんと。
渋々コンビニへ行って弁当を買う。
それを食べながらスマホをいじる。
────────────────
御楯頼知>今日はありがとうございました
御楯頼知>楽しかったです
イツキ>こちらこそ
イツキ>また行きましょう
御楯頼知>良いんですか?
イツキ>良いです
────────────────
ヨシ!
全力でガッツポーズ。
これ、可能性あるか?
あるんじゃないか?
いや、待て。
まだだ。
まだ、慌てるような時間じゃない。
スマホに納めた画像を眺め至福の時を過ごす。
ピンポン
ん?
インターホンが鳴った。
家の前。
誰だ?
「はい」
『コンバンワ』
アナスタシヤだった。
「何の用だ?」
『ご挨拶デス。開けて下サイ』
ご挨拶?
怪訝に思いながら、玄関へ。
「どうした?」
「今、帰って来まシタ」
満面の笑みでアナスタシヤが報告する。
確か、村上達と遊びに行っていた筈。
「そうか。楽しかったか?」
「ハイ! 入って良いですか?」
「良いけど誰も居ないぞ」
「あ、そうデスか」
手提げの袋を持って家に上がりこんで来るアナスタシヤ。
「飯も無いぞ?」
「ミンナと食べて来まシタ」
鼻歌でも歌いそうな程、上機嫌なアナスタシヤ。
「コップ、下サイ」
テーブルの横に腰を下ろしながら彼女が言う。
「ん? 茶くらいならあるぞ」
「コップだけで大丈夫デス。二つ」
何か持って来たのか?
キッチンの食器棚からガラスのグラスを二つ取り出しアナスタシヤの元へ。
「ありがとうございマス」
ニコリとしてコップを受け取ると、アナスタシヤは手提げ袋の中から持って来た物を取り出しテーブルの上にドンと置く。
無色透明なガラス瓶。
余程冷えているのか瓶から白い冷気が漂う。
どう見ても、酒。
「飲みマスか?」
アナスタシヤがそう言いながら瓶の蓋を開ける。
途端に、アルコールの匂いが室内に漂う。
「飲まない。てか、犯罪だぞ?」
「ロシアでは、18歳から飲んで良いんデス!」
「いや、ここ日本だし、18歳ならそれでも駄目だろ」
しかし、アナスタシヤはコップに透明な酒を注ぐ。
「駄目じゃ無いんデス」
そう言いながら、アナスタシヤは軽くコップを掲げ、一気に流し込む。
「……はぁ……この一ヶ月、大変でした」
空になったコップを掲げながらアナスタシヤが感慨深そうに言う。
どう見ても飲み慣れている。
「お前、年いくつなんだよ?」
「秘密デース」
楽しそうに二杯目を開けるアナスタシヤ。
ロシア人は酒に強いんだっけか?
「お前、外で飲むなよ?」
一応高校二年生なんだから。
「飲まないデスよ。
ちょっと、キッチン借りマス」
と言って、キッチンへ向かい、緑の柑橘類を二つ切りにして戻って来る。
今度は、それを絞り三杯目。
それを横目に俺はスマホをいじり、ここ最近行って居なかったG Playの情報をネットで探す。
眉唾物のコメントばかりだし、参考になるとは思ってない。
しかし、一人酒盛りを始めたアナスタシヤの横で他にする事も無く。
そのアナスタシヤは酒をガブ飲みしながら今日の出来事を面白おかしく報告する。
それに、適当な相槌を打つ。
「聞いてんデスか!?」
と、突然の怒鳴り声にスマホから顔を上げる。
虚ろな目をしたアナスタシヤが不機嫌そうな顔をしていた。
酒瓶が一本空になっており、二本目が半分ほど減っていた。
……何本持って来たんだ?
「聞いてる。聞いてる」
聞いてないけど。
「全然、聞いて無いデス!」
面倒臭い。
酔っ払い。
「じゃぁーワタシがーどう思ってるか当ててみなサイ!」
何が、『じゃぁー』なのだろう。
「酒うまい」
「ブッブー。違いマース!
お酒はとても美味しいデース」
当たってるじゃん。
「そうじゃ無いんデース。
わかりませんか?
わかりませんかぁぁ?」
体をフラフラとさせながら問うアナスタシヤ。
「知らん」
面倒臭さい。
早く帰れ。
「ワタシはぁー。
ワタシはぁー。
ワタシはぁー……」
「何だよ?」
「ワタシは!
感謝してるんデス!
学校行って、友達が出来て、買い物シテ、暖かい部屋でお酒飲んデ!
とても楽しいデス。
とても、とっても楽しいデス!」
「良かったな」
俺は絡まれて全然楽しくない。
「それも、ヨリチカと、キョーコのおかげデス。
おかげなんデス。
わかってマスかぁぁ?」
「はいはい」
「だぁかぁらぁ……」
立ち上がり、着ているワンピースのスカートを捲り上げるアナスタシヤ。
呆気に取られる俺の前で、一気に服を脱ぎ捨て下着姿に。
「……は?」
これ、何てエロゲ……。
「体で……お礼デス」




