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人の値段

 母親に呼び出され、真壁がアナスタシヤを伴い我が家に現れる。


「男の方は?」

「圧力がかかり国へ戻されました。

 あれでも表向きは外交官なので。

 娘さんと仲良く出来れば良いですね」

「じゃこの子は?」


 昨日よりは少し顔色が良く見えるアナスタシヤは相変わらず下を向いている。


「本名、リリア・グストヴァ。

 CBP(ロシア対外情報庁)の非正規職員。

 戦闘訓練を受けたれっきとした工作員です」

「は?」


 思わず間抜けな声が上がる。


「これで?」


 母さんも信じられないと言う顔でアナスタシヤを眺める。


「息子さん。

 わかったでしょう?

 この子は、最初から君を籠絡させるつもりで接触した。名前も何もかもを偽って。

 本来なら、国へ強制送還させ後は向こうの処置に任せるのが筋です。

 二度と日本の土を踏ませるなと言い含め」


 その真壁の言い方に、少し腹が立った。

 偉そうに言ってはいるが、そうなったのはG Playなんてのを日本で好き勝手にさせているのが原因だ。その一端は、政府側の人間である真壁にもあるのだ。他人事の様に語るこの男にも。


「で、まだこの国にいる訳は?」

「今は一時的にサイロ預かり。

 それが貴女方への最大限の配慮です」

「二国間で爆弾の押し付け合いになったか」

「どうとでも。

 貴女方がもう興味はないと一言おっしゃっていただければ、彼女は晴れて元の組織へと戻れる。

 祖国の土を踏めるのです」

「興味はない。

 けれど、彼女を元の組織へ戻すつもりはないです」


 僕は、真壁を睨みながらそう言い切った。


「なるほど」


 まるでその答えを予想していたかの様に真壁は深く頷く。


「では、彼女の身柄は買取。

 その対価は御楯頼知君、君に支払ってもらうと言う事で良いかな」

「俺は、それで良いです」


 そう言って真壁から視線を外しアナスタシヤを見る。

 相変わらず小さくなったままで微動だにしない。


「保護者としてご意見は?」

「息子の意思を尊重する」

「わかりました」

「では、契約とまいりましょう。

 ようこそ、磯城島守しきしまもりへ」

「磯城島守?」

「ええ。

 太古の昔から幾度となく母体が変わっても連綿と名と使命を引き継いで来た組織。

 それが我々磯城島守です。

 その目的はただ一つ。日本国を守る事。

 今は、内閣の下、防衛省、警視庁、外務省など各省庁と連携を図りながら活動をしています。

 公には出来ませんが、就職にも有利ですよ」

「そんな胡散臭い肩書きより、英会話ができる方が余程働き口がある」


 胡散臭い組織名を告げ、胡散臭い笑みを浮かべた真壁の言葉を母が一太刀で斬り伏せる。


「ここは、日本ですよ?」

「別にこの国で働かなければならない法律は無い」


 母の言葉に肩を竦める真壁。

 そして、英語の成績を思い出した俺にもダメージを与える。

 てか、俺に向かって言ってんのかな?


「これが、磯城島守に関する契約書。

 そして、これらが未知世界、所謂G Playに関する事柄と彼女の身柄についての別紙です」

「貸して」


 俺に渡そうとしたその書類をひったくる様に奪い取る母。


「……250万。安いわね」

「最大限のディスカウントです。

 その後は、彼女が望むならば日本の国籍を。

 これ以上ないぐらいの厚遇です。

 当然、それまでの身柄の保証も」

「で、レポートが一枚5万か。

 これ税金は?」

「上手く処理しておきます」

「レポートって?」

「G Playで飛んだ先の地図、特徴、現れた生き物、情報。

 そう言った物を提出してもらいます」

「……たった、それだけで五万?」

「五万は最低額。

 内容によってはそれ以上も」


 すげぇな。

 バイトいらないじゃん。

 二回で十万。そしたら、ディズニーランド行けるじゃん。泊まりで。桜河さんと。泊まりで!

 行きたいって言ってたし。


「それだけ、貴重なのですよ。

 向こうへ行って帰ってこれる人材が。

 お……」

「私はやらないわよ?」


 母に視線を向けると同時に否定を返された真壁が閉口する。

 俺は未だに微動だにしないアナスタシヤへと視線を転ずる。

 値下げして250万。そう断言された彼女の心境はどの様なものだろうか。


「思ったより、真っ当な契約ね」


 そう言いながら書類の束を俺に渡す母。

 小さな文字の並ぶその紙にざっと目を通す。

 秘密保持、怪我死亡に関する免責、無断渡航禁止、契約終了後の一年間は監視下に置かれる、などなど。


 人権派の弁護士先生が見たら激怒する様な内容で、どうしたら真っ当などと言う感想が出てくるのかわからないのだけれど、磯城島守とか言う水面下の組織。そもそも契約書なんて言う物が存在すること自体が驚きだ。

 まあ、目を通した母が大丈夫と言うならそうなのだろう。

 正体不明の母が。


 その場でサインをして真壁に返却する。


「これより具体的な内容は、後日改めて。

 それと制服も後ほど送ります。

 サイズが無いので特注ですね」

「制服?」

「まあ、使う所は無いですけど」


 それ、なんの意味があるの?


「馬鹿ほど自分達の立ち位置を気にしたがるものよね」


 見下す様に言った母を真壁が笑みを消し睨みつける。

 だが、母は母で見下す様な笑みで真壁の視線を躱す。


「じゃ、この子はそれまで監視の身。

 私の好きにして良いわね?」

「それは、どう言う意味でしょう?」

「元々隣に住んでいたんでしょ?

 そのまま面倒見るって意味よ」

「それは、まあ構わないのですが」

「大丈夫よ。逃げ出す様な根性は無いわよね?」

「……ハイ」


 蚊の鳴くような声でアナスタシヤが答える。


「それと、頼んでいた施設の件は?」

「ちょうど改修工事が予定されてましたので、ご自由にお使いください。

 何をするつもりですか?」

「訓練。

 だらけた愚息と、出来の悪いスパイの性根を叩き直すのよ」


 そう言って、ニヤリと笑う母親の顔にここ数日で一番の恐怖を感じた。

 アナスタシヤが奥歯をガタガタと鳴らす。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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