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亡者の群れの中で③

 飛び掛かってくるゾンビ犬を刀で迎え討つ。

 だが、ゾンビ犬は刃の餌食となる前に大きく後方に弾かれ、その動きを止める。

 突き刺さる一本の矢。


 振り返り確認するまでも無い。

 彼女が再び戦いに来たのだ。


 夜明けまであと少し。


 俺は、刀を構え前へ出る。

 援護がある。

 それだけで、随分と気が楽になるものだ。

 信じよう。

 彼女は、味方……仲間だと。



 二日目の夜が明けた。

 つまり、初日の出な訳だ。


 日は無いけれど。


 辺りから亡者の姿がすっかりと消えたことを確認して、瓦礫の上の人影を仰ぎ見る。

 相変わらず弓に矢を番えているが、その先は俺には向いていない。

 だが、やはり探るような視線。

 意を決し、口を開く。


「明けまして、おめでとうございます」


 何と声を掛けようか戦いながらずっと考えていたんだ。

 さて、結果は?


「……おめでとう」


 毒気を抜かれたように、肩を下ろし、彼女は微笑んだ。


 弓矢を仕舞い、彼女は瓦礫の上から下りてくる。

 足はもう大丈夫そうだ。


 刀を仕舞い、それを待つ。


 地に降り、そして二メートル程先で彼女が止まる。


「さっきはありがとう」


 そう言って軽く頭を下げる彼女。

 今まで遠目でよくわからなかったが、袴のような物を履いているのか。

 長い黒髪を後ろで一つに束ねた二十代半ば程の女性。

 美人と言っても全く問題ないと思うのだが、鋭い目つきがその印象を損ねている。


「私はイツキ」

「ライチです」

「……助けてもらって言う台詞では無いけれど、私、こっちでは他人を信用しないことにしているの」

「……奇遇ですね。俺もです」


 俺の答えに僅かに眉を顰め探るような視線を投げかける。


「……コーヒー、飲む?」

「いただきます」


 歩きだすイツキから十分に距離を取って後を付いて行く。



 ◆


「はい。コピ・ルアク」

「コピ・ルアク?」


 差し出されたマグカップには琥珀色の液体。


「……の、様なもの」


 匂いは悪く無い。

 渡されたそれを恐る恐る口にする。


 ……コーヒーと言われればそうかもしれない。

 しかし、俺の知っているコーヒーよりは、余程複雑な味がした。

 コピ・ルアクと言う種類のコーヒーは全部こんな味なのだろうか。


 小さく燃える焚き火を二人で囲む。


 挨拶はしたけれど、互いに警戒は解いては居ない。


 しかし、共闘せねば帰れそうに無い。

 どう切り出すか。


「高校生?」


 考えあぐねる俺にイツキが問いかける。

 それに頷きを一つ返す。


「彼女は?」


 は?

 何でそんな事、ほぼ、初対面の奴に言わなきゃならないんだ?


 ……さては……惚れたか。


 それならば仕方無い。

 素直に首を横に振る。


「でしょうね。

 少しでも変なそぶり見せたら……殺すから」


 そう言ったイツキの目と口調は恐ろしいまでに冷たかった。

 でしょうねって、どう言う事だ?

 この女……。


「そんなつもりは微塵も無い。

 俺はそれより帰るのが優先」


 薄く不味いコーヒーもどきを飲み干し吐き捨てる。

 冬休みはあと一週間。

 長いか短いかはさて置き、時間を無駄にする必要は無い。


「奇遇ね。私もよ」


 二人同時に立ち上がる。


 おそらく考えている事は一緒だろう。


 ◆


「矢の射程は?」

「三百メートル。

 あいつまで届く術は?」

「無い」


 相変わらず石碑の上を浮遊する球体を攻撃範囲の外から眺めながらイツキと対策を考える。


「同時に二方向は攻撃出来ない。

 それだけはわかったわ。

 だから、勝機があるとすればそこだと思うけど」

「二方向か……」


 試してみようか。


「我が身に封ず

 まじないしるしと成れ


 静寂の精、銀の戯れ

 閉ざされた結界

 時すらも凍る

 唱、参拾壱(さんじゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 逆氷柱(さかさづらら)


 左手に術を宿す。

 ……冷てぇ……。

 てか、痛い。


 痛みに耐えながら、同じ術を詠唱。


「静寂の精、銀の戯れ

 閉ざされた結界

 時すらも凍る

 唱、参拾壱(さんじゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 逆氷柱(さかさづらら)


 狙った先、俺たちから百メートルほど離れた地点に十メートル程の氷の山が出現。

 それと同時に、それから三十メートル程離れた所を指差し二つの氷山を出現させる。


 中心の球体から放たれた光線。

 初めの氷山が、一秒程それに耐えるが結局貫かれ霧散する。

 次いで隣の氷山も。

 その間に一瞬、光線が途切れる。


「二秒弱か」

「それ、もっと連発出来ないの?」

「無理。詠唱が必要だから」


 言葉。

 言霊。

 それが、裏神道の術の根源なのだから。


「その間に矢で撃ち落とせない?」

「無理。届かない」


 かなりの難局だな……。


「十秒。いえ、七秒でいい」


 打開策を考える俺を見ながら決意のこもった声で言ったイツキ。


「私は、あと二百メートル射程を伸ばす」


 そう言われても。


「出来るかな……」

「やって」


 有無を言わせぬ口調。

 睨むような視線。


「考える」


 俺を睨んだまま小さく顎を引くイツキ。


「じゃ、また夕方に。集合場所はさっき休んでいた所」

「ん、何で?」

「休んで力を蓄えたい。

 夜は……一緒に戦ったほうが良い」


 夜は……一緒に……。

 夜は、一緒に居たい!?

 夜は一緒に居て……お願い……だと!?


「変な勘違いしないでよ?

 一昨日より昨日、昨日より今日。

 段々敵が強くなってる。

 今夜はもっと強くなると思う。

 君に勝手に死なれるくらいなら共闘した方が良い。

 それだけ」

「……了解」


 踵を返し、イツキは廃墟の中へと消えて行った。


 ◆


「分かつ者

 断絶の境界

 三位さんみ現身うつしみはやがて微笑む

 唱、拾参(じゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 水鏡(みずかがみ)


 夜に亡者共から奪い取ったマナで術の扉を開けた。

 言魂に引かれ、俺の前に薄い水の膜が出現する。


 浮遊する水の盾。


 それを操り、迎撃の領域内へ。

 直後飛来する光線にあっさりと砕かれ霧散する。


 依代が無いからこんなもんか……。


「分かつ者

 断絶の境界

 三位さんみ現身うつしみはやがて微笑む

 唱、拾参(じゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 水鏡(みずかがみ)


 追試。

 更に多くのマナを練り込むイメージで先程より強固な盾を。


 表面に氷の膜を貼ったような盾が出現。

 放たれた光線は盾に当り、その軌道を逸らす。

 およそ二秒後、融解し霧散する。


 ……行けそうか?


 今度は盾を二枚。

 重ねる様に配置する。


 倍の四秒。


 もっとマナを注ぎ込めば十秒耐えれるだろうか。

 それか、何か依代になるものがあれば。

 しかし、それがこの廃墟の世界に有るだろうか。


 力を持った水。

 そんな物が。


 石碑の上の球体を睨みつけ、廃墟の町へと戻る。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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