偶然帰り道が一緒になる
始業式とホームルームが終わり、帰り支度を整える俺の前の席でアナスタシヤを中心に話の輪が広がっている。
別に聞き耳を立てている訳では無いのだけれど姦しい女子の声が耳に入る。
一年の時に同じクラスだった村上が、自分の友人のG Playでの武勇伝を面白おかしくアナスタシヤに披露するのを尻目に帰宅の途に着く。
◆
……小田急線、遅れてやがる。
車内トラブルとやらで。
町田駅の小田急線ホームでスマホを取り出し写真を眺める。
……可愛いなぁ。桜河さん。
惜しくも三位だった弓道大会の画像、春休みに行った井の頭公園でモルモットを撫でる画像……。
何度眺めても飽きない。
飽きないのだけれど……数が少ないのだよな。まだ。
そういえば。
しばらく立ち上げていなかったG Playのアプリから通知が来ていた事を思い出す。
◆
【IDO公式サイト開設のお知らせ】
世界中でサービスを展開する前に、「G play」は昨年、日本でサービスを開始しました。
我々は「G play」の使い方のヒントや楽しむ方法など、正式なアプリケーションやさまざまなメディアを通じて、「G play」に関するトピックや最新情報を提供しています。
「G play」を楽しんでいる人に新しい情報を広める場として、私たちは "IDO"と協力して新しいサイトを開設しました。
新しいサイトには、我々や"IDO"からの情報のほか、ランキング、フォーラムなどが用意されています。
質問や自分の経験など、「G play」に関する全話題の情報共有や問題解決に役立つことを期待しています。
この公式ウェブサイトは誰もが意味のあるものにしたいと考えています。
「G play」を楽しんでいる皆様にも少しでもこの公式サイトがお役に立てれば幸いです。
皆の参加を待っています。
チーム G
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ランキング、か。
案内にあったサイトにアクセスしてIDとパスワードを入力し、プロフィールを確認する。
そこに表示されたランキングは『B』。
上から……三番目らしい。
「……微妙」
思わず声が漏れる。
「何がデスか?」
「うわ」
俺のすぐ横から顔を覗き込むようにアナスタシヤが声をかけて来た。
「後ろの人デスよね?
ミタテサン」
「そ、そう。
よろしく」
突然、美少女に声をかけられるなんて、これ何てエロゲだろう。
「何が、微妙なのデスか?」
「ん、G Playのランキング」
「オー。G Playやってるのデスか!?」
「少し前にね」
まるで仲間を見つけたかのように笑顔の花を咲かせるアナスタシヤ。
駅のアナウンスが遅れていた電車の到着を告げる。
「俺、こっちなんですけど」
そう言いながら上りのホームを指差す。
「ワタシもデス」
笑顔で答えながら横に並ぶアナスタシヤ。
「どこに住んでるんですか?」
ホームに滑り込んできた上り電車に乗り、間近に立つアナスタシヤに尋ねる。
「新百合ヶ丘、デス」
「あ、一緒ですね」
「オー!」
目を丸くしながら喜びの表情を浮かべるアナスタシヤ。
あれ、何だ。この状況。
美少女が近所に越して来て一緒に登下校?
あれ?
エロゲ?
「アナスタシヤさん、どこから来たんですか?」
「ロシアデス。
ずっと、ニホンに来ることを楽しみにしてマシた!」
そう言って彼女がスマホを取り出し、その画面を俺に見せる。
────────────────
アリス>えー。マジで日本に来るん?
ナーシャ>マジデス
アリス>じゃ遊び行けるじゃん
アリス>表参道行こう!
ナーシャ>カワイイカフェ!
アリス>そうそう!
────────────────
「友達デス!」
「へー。
海外でもLINEは使えるんだ」
「そうデス。
それで、G Playを知ったデス。
今度、トモダチに連れて行ってもらうデス」
「……でも、向こうにまで一緒には行けないよ?」
「ええ!?
そうなのデスか!?」
「うん。
それに、運が悪いと怪我や、死ぬことも」
「ええ!!
そんなモノなのデスか!?」
「うん」
「ウージャス!」
口を歪めるアナスタシヤ。
美人はどんな顔をしても美人だな。
まあ、桜河さんには勝てないけれど。
そんな会話の内に電車は新百合ヶ丘の駅へ。
言った通り、俺と同じ駅で降りるアナスタシヤ。
改札を抜け、さらに向かう方向は同じ。
「それじゃ、ミタテさん、ワタシにG Playのこと、もっと教えて下さい」
歩きながらそう言われ、俺は返答に困る。
「……ちょっと、考えさせて」
あの危険な世界へと彼女を引き込んで良いものか。今なら踏みとどまらせる事も出来るかもしれない。
だが、そんな俺の横でアナスタシヤは悲しそうに口を尖らせる。
「……前向きに」
その顔を見て、そう付け足す。
いくら危険だと騒ぎ立てても伝わらない。
ならば、一度その身で経験した方が良いかもしれない。
でも、突然クラスメイトが失踪してしまうなんてのは避けたい。
その為に、何を教えれば良いのか。
一緒に行くことが出来れば一番なのだけれどそれは無理。だったらどうすれば良いのか。
それは、直ぐには答えは出ない。
「約束、デス」
そう言って右手の小指を立てるアナスタシヤ。
「あ、うん。
ロシアでも、指切りするの?」
「しません。
日本のトモダチに教えてもらいマシた。
ハリセンボン飲ます!」
そう言って小指を絡めながら笑みを浮かべたアナスタシヤの顔は小悪魔の様に見えた。




