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亡者の群れの中で②

 空間の周囲を取り囲む壁。その一部が明るくなって行く。

 時間的にそろそろ夜明け。

 つまりあちらが東と、そう言う事か。


 いや、ここを地球と同じ感覚で捉えるのも不自然か。

 ……どうでも良いや。

 そんな事。


 周囲に亡者がいない事を確認して、瓦礫の上に腰を下ろす。

 結局、一晩ずっと亡者を切り続けた。

 相手の動きが緩慢であったからだろう。

 攻撃と呼べるような物は食らわなかった。

 だが、流石に動きっぱなしで少し気を張り詰め過ぎた。


 天井の光に照らされた廃墟を見渡す。


 ポツンと、水道の蛇口が立って居る。


 おもむろに近づきそれをひねると乾いた金属音がして、水が噴き出す。

 それを両手で掬い、顔を洗う。


 インフラが生きている。

 ……何だろう。

 この廃墟にある違和感は。


 術で作り出した布で顔を拭き、そしてポットへ水を汲む。


 周りが見渡せる広めの場所まで移動して、そこに腰を下ろし湯を沸かし、トオルから買った茶を淹れる。


 そして帰る方法を考える。

 あの迎撃システムをかいくぐる方法を。


 射程は……おそらく瓦礫の端、およそ五百メートルか。

 では連続発射は?

 その威力は?

 トリガーは?


 ……調べないとわからない。

 でもそれをすると……俺の居場所が露見する。


 ……それを今更気にしても仕方ないか。

 お互い殺すつもりがあるならもう死んでいる筈だ。


 火を消し、そして、焚き火の後をそのままにして腰を上げる。


 よもや、こんな所で大晦日を迎えようとは一年前は想像もしてなかったな。

 来年はどうなるだろう。

 来年の大晦日まで……生きてるかな?




 瓦礫の下で息を潜める亡者の気配を避けながら中心へと足を向ける。


 ……そうか。

 違和感の正体は小物だ。

 ここは廃墟である筈なのに倒壊した建造物の残骸しか無い。

 本来ならもっと雑多に物が溢れて居ても良いのだ。

 ビルの中にはデスクやPCがある筈だし、路上には車があるべきだ。

 そう言った物が無いから奇妙なのだ。


 まるで、舞台だけをコピーした様なそんな感じだ。


 元ネタは何だろう。

 映画かゲームか?

 だとしたらここは異世界では無いのか?

 その答えを『G社』は既に知っているのか?


 眉間を抑える。

 優先順位を間違えるな。

 今は帰ることを考える。

 ここの正体は、その後で良い。



「では、実験だな」


 石碑が見える所まで来た。

 周りに敵は居ない。


 取り敢えず、手頃な石を拾って放り投げて、すぐさまその場を離れる。

 ゆるい山なりの軌道を描きながら放られた石ころは、迎撃範囲と思われる位置できっちりと光線に破壊される。


 センサーはどこだろう。

 上かな?


 見上げるが、それらしい物など無く。


 今度は石を二つ投げる。


 間髪入れずに放たれた二つの光線がそれぞれ石を破壊する。


 では、物体で無ければどうだ?


「その死を知らぬ幼子

 舞い飛び散らせ

 落ちる涙は甘い白雪

 唱、拾壱(じゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 浮き蛍」


 ふわりと朧気に浮かんだ光球が、ゆらりと石碑へと向かい行く。

 すぐにその場から離れながら観察。


 光線に貫かれ俺の術はあっさりと消滅した。


「まいったな……」


 手持ちの術で、あの光線をかいくぐり向かい行く物は無い。

 後は……威力か。

 食らっても大した事なければそれにこした事は無いが……その検証は無茶な賭けだな。

 試す価値は無いだろう。


 では……肉体で受けなければ良いのか?

 どうやって?

 光線を刀で切り裂くなんて芸当は流石に出来ないし。


 後は盾なりで受け止めるしかないか。

 しかし、それだと盾で受け止めながら前進しないとならない。


 それか、トンネルを掘って下から……何ヶ月かかるだろうか。

 残念ながら、土に潜る術は設定に無いのだよな……。



 残る手段は……。


 背後に感じる気配。

 俺はゆっくりと振り返る。


 瓦礫の上に立ち、長弓を手にこちらを観察している人影。

 矢を弦にかけすぐにでも射てる様に構えている。


 互いの探るような視線が絡み合う。


 味方か?

 信じられるのか?


 やがて人影は、背を向け去って行った。


 敵ではないが、信用も出来ない。

 そういう事だろう。

 お互い。


 俺は立ち上がり、他を調べることにした。

 次は……外周か。


 ◆


 散発的に襲い来る亡者を唯一残してある爪の刃・狐白雪で退ける。

 夜に比べれば、大幅に動きが鈍い。

 これなら術を使うまでも無いだろう。


 そうしながら外周の壁を観察する。

 材質はガラスの様な何か。

 しかし、石を投げつけても傷一つつかない。

 その奥で、ぼんやりと光りを放つ。

 取っ掛かりはなくツルツルで、手で登るのは無理だろう。

 そして、微かに風を感じる。

 まるで、壁が呼吸をしているかの様な。


 ぐるりと一周してみたが、出入り口らしいところは無かった。


 そして、再び夜が来る。

 紅白も笑っていけないも、ゆく年くる年も今年はお預けか……。


 暗闇に亡者の呻き声が響く。

 街灯が、蠢く影を照らす。


 犬の鳴き声と、一際早く動く影……。

 獣……か。

 得意な相手では無いのだよな。

 しかし、昨日はいなかったのに……。


 いや、まずは対処を優先。


「その死を知らぬ幼子

 舞い飛び散らせ

 落ちる涙は甘い白雪

 唱、拾壱(じゅういち) 壊ノ祓(かいのはらい) 浮き蛍」


 飛びゆく光球は、獣が避けたその先へも追いすがる。

 それは相手を捕まえるまで終わらない鬼ごっこ。



 気配を消し、闇から亡者を葬る。

 そんな戦いを続ける最中、小さく短い悲鳴が聞こえた気がした。


 瓦礫を駆け上り、上からその方向を見やる。

 獣の群れに追われる人影。

 弓で応戦しているようだが……。


 動きがおかしい。

 足でも怪我したか?


 ……行こう。


 瓦礫を蹴り、そちらへ。




 術で陽動して、ゾンビ犬を引き剥がす。

 何だかんだで音と光に寄って来る。

 マガと同じ特性。


 それらを刀で葬り、瓦礫の側で片膝をついて腰を下ろし弓を構える人物の元へ。


「大丈夫ですか?」


 問い掛けに答える気配は無い。

 代わりに弓をこちらに向ける。


 脛が血だらけ。

 噛まれたか。

 よもや感染とかは無いと思うけど。


「創造する手・無の化身

 紡ぐ、縦横に

 拒絶する柔らかな結界

 唱、(さん) 現ノ呪(うつつのまじない) 白縛布(はくばくふ)


 こちらに鋭い眼光を向ける相手の眼前で、布が編み込まれ彼女の膝の上にはらりと落ちる。


「巻いておけば、少しは楽になる」

「……ありがとう」

「暫く身を隠したほうが……」


 問題はそんな場所があるか分からないことだ。

 瓦礫の陰に亡者が潜んでいる可能性がある。


「……大丈夫。ここで休むから」


 そう言って彼女は一本の矢を取り出す。

 そして、それをおもむろに地面に突き立てる。

 一瞬、地面が白く光る。


 そこから漏れる力……。


「聖域……結界か」


 頷く彼女。


「じゃ、敵を遠ざけてこよう」


 彼女に背を向け走り出す。


 走りながら、左手を前にかざす。


「混沌の主、君臨する者

 その全ては戯れ

 望みのままに。ただ、望みのままに

 唱、弐拾捌(にじゅうはち) 現ノ呪(うつつのまじない) 双式姫(にしきのひめ)


 呼び声に応え、陽光一文字を依代に鬼神と謳われた剣士の力を降ろした刀が現れる。

 その刀身は仄かに赤く光を放ち。


 右手に蒼三日月。

 左手に陽光一文字。


 二刀を手に、俺は抑えていた気配を開放する。


「さあ、寄って来い。

 亡者共。

 餌は、こっちだ!」


 叫びに呼応して、亡者共が一斉に呻き声を上げ押し寄せてくる。

 まるで初詣だ。

 賽銭、置いていけ!

 お前らのマナ、全部吸い尽くしてやる!

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script?guid=on 新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
https://ncode.syosetu.com/n3012fy/
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