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風花雪月②

 上から妖狐が完全に動きを止めるのを見届けてから夏実達の元へ。


 結界術、絶界(ぜっかい)の中に身を横たえる夏実。

 そしてその横で両膝を突く風果。

 結界の外に立つ実姫。


 俺に気付いた風果が結界を解き、再度四人を覆う様に張り直す。


「どうだ?」

「呪いは消えました。

 ですがだいぶ弱っております。

 今暫くは休んでいた方が良いでしょう」

「今の内に出口へ移動出来ないか?」


 俺の問いに風果は首を横に振る。


「瘴気が尋常ではありません」


 確かに、結界の外は濃霧の様に瘴気が立ち込めている。


「イタズラに歩けばすぐさま方向を見失いかねません。

 今の夏実さんをこの瘴気に長時間晒すのは自殺行為です」

「そうか……」

「それに、この場所……」

「ん?」

大蛇オロチの巣穴です」

「何!?」

「見つけ、札を埋める前に夏実さんを抱えた妖狐が現れたという訳です」


 どうして夏実は向こうへ戻る前に妖狐に捕まったのか。


「お兄様、まだ終わりでは無いようですわ」

「……正念場だな」


 結界の向こう、瘴気の中にワラワラと人影が浮かぶ。


「まだ、三合目辺りですよ」

「夏実が動ける様になったらすぐに帰ろう」

「……お兄様、私は今日、大蛇オロチを討たねばならないと思います」

「備えが全く無い」


 禁呪はすでに使い切り、当然酒の用意も無い。

 さらには剣すら失った。


「それは私も同じです。

 ですが、覚悟をしてくだいまし。

 でなければこの先、いつまた同じ様な事が起こるのか。

 それに怯えねばなりません。

 見えぬ影に怯える日々を過ごさねばなりません」


 そう言って夏実に目を落とし小さくかぶりを振る風果。

 見えざる恐怖。あるいはトラウマ。

 それは、未だ風果の中に生々しく残っているのだろうか。

 その重さを俺は知らず。


 ……不退転。


 風果の頭に静かに手を乗せる。


「すまなかった。

 全ての穢れを逸らさず流そう。

 それが直毘ナオビだ」


 だから、力を貸せ。

 そう、内に呼びかける。


「もちろん、引く時は引きます。

 二人を殺させたりはしません」

「四人、だ」

「……はい」


 荷物袋から通信機を取り出し、風果に渡す。


「これは?」

「通信機。相手の名を呼べば繋がる」


 そう自分の耳を指差しながら教える。

 出来る事は何でもするべきだ。

 そして、改めて結界の外へと目を向ける。


「酒呑童子、九尾と来たら残るは……」

大嶽丸おおたけまる

 数千の眷属を引きまわす鬼神」

「大物だな」

「ええ」

「では、勝負じゃな。

 大将首を取った方が勝ちで良いか?」

「今度は負けないからな」


 槍を担ぎ、腰に手を当てた実姫が横に並ぶ。


「実。こちらへ」

「ぬ」


 風果が実姫を手招きする。

 その風果の顔に若干のエスっ気が見えるのは気の所為か?


「在る色を流し無に

 想いは罪

 変わりても再び寄り添う

 唱、漆拾参(しちじゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 神寄(しき)

 喚、瀬織津比売せおりつひめ


 静寂に鈴の音が響く

 髪を下ろし

 祈り賜うは実りの為

 天より下れ乙女

 唱、漆拾参(しちじゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 神呼みこ 実姫」


 神呼みこ

 神、或いは準ずる神使など人ならざる存在を降ろしその力を十全に使う術。

 式神として、瀬織津比売を呼び出す依り代に実姫を使ったのだ。


 ぶっつけ本番でとんでもない事をしてくるな。


「ふむ」


 当の実姫に外見上はさしたる変化は無い。

 ただ、腰に三本の刀を帯びて居る。

 そして、はっきりとわかるほどに力に満ち溢れて居る。


「しばらくは慣れないでしょうが、貴女に敵うものは居ないでしょう。

 そこのお兄様でさえ」


 そう言って、俺の方へ挑発する様な視線を向ける風果。


「ほう?」


 さらには実姫まで。


見縊みくびるなよ?」


 こっちは超重力下でみっちり鍛えたんだから。


 ◆


 刀を、槍を、鉾を、刺股を、金棒を思い思いの得物を手にした大小様々な鬼。

 数千の軍団。

 それに対するのは俺と実姫の二人。


 だが、負けるつもりは毛頭無い。

 もちろん、式神にもだ!


「風止まる静寂

 溢れる鬼灯

 涙は涸れ、怨嗟は廻る

 唱、(はち) 現ノ呪(うつつのまじない) 首凪姫(くびなぎひめ)

 祓濤(ばっとう) 蒼三日月


 横たわる骸を踊場に

 白い刃は闇に踊る

 途切れること無く回る輪廻の中で

 斬神(ざんしん) 鞘走れ、蒼三日月

 我と共に、全てに等しく葬送を」



 向かい来る敵、その全てを蹴散らしてやる。


 ◆


 亟禱きとう 骨千本槍・十重襲とえかさね


 取り囲む鬼を纏めて下から串刺しに。

 その光景はさながら針山地獄。


 上から降り注ぐ火の雨。

 敵の放った術。


 朧兎が炎を押し返し、俺が氷の雨を浴びせ返す。


『お兄様。

 聞こえますか?』

「何だ?」

『夏実さんが目を覚ましました』

「わかった。すぐ終わらせる」

『はい。お待ちしています』



 亟禱きとう 鳳仙華(ほうせんか)十重襲とえかさね


 周囲に林立した骨の槍。

 それ毎爆破で吹き飛ばし一面を焼け野原に。

 すぐさま地を蹴り、刀が導く方へ。

 そこに大将首が居る。


 そうやって、斬った鬼の数は千か、二千か。


 まばらになった鬼。

 その中に一際鮮やかな姿……。


「夏実!」


 呼びかけに、こちらを向いてニコリと笑う。


『……何?』


 それと同時にイヤホン越しに、少し苦しそうな夏実の声。

 視界の中では微笑みを浮かべ手を上げながら近寄って来る夏実。


 一瞬の混乱、隙。


 横手から振るわれる金棒。

 死角から、周りの鬼諸共道連れにせんと振るわれたその一撃は俺を潰す前に、実姫の槍が受け止める。


「妖狐がまだ生きておるの」

「……大将首は譲ってやる」

「さっさと追わねば狐も儂が喰らうぞ?」


 返事もそこそこに、妖狐を捕らえようと走り出すが、既にそこに姿は無く。

 だが、残り香は逃げた先をありありと示している。

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