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魔法少女☆リコ③

 マダムの屋敷から、石畳の洞窟、最初に転移した地点へと戻される。


「あー、楽しかった」

「急いで帰るぞ」

「うん」


 夏実はマダムの屋敷をたっぷりと満喫し、大満足の様だがその余韻に浸っている時間は無い。

 さっさと帰らないと終電が出てしまうし、明日は学校だ。

 それに、朝帰りなんて事になったら……夏実の親父さんに殺されかねない。……いや、死んでるのか? ……その話は後にしよう。さっさと帰る。それからで良い。

 その為の最初の選択。

 洞窟の前に伸びる道か、後ろへと伸びる道か。


「……リコ」

「ん?」

「今日の俺のラッキースポットは?」

「ん、ちょっと待って」


 彼女が真剣な眼差しで俺を見上げる。

 ちょっと、ドキドキする。


「……あっち」


 顔を伏せ、小声で行くべき方向を指差す夏実。


「ありがとう。先行する」

「はい」


 朧兎を呼び出し走り出す。


 ◆


 時折現れる敵は、自我すら失っていそうな亡者のみ。

 走りながらそいつらを一刀で切り捨て突き進む。

 幸い、分かれ道は無かった。


 だが……障壁が一つ。


 足を止め、朧兎を前面に展開。

 水の盾が向かい来る飛翔物を全て絡め取る。

 白く光る矢。

 向かおうとする先にそれを放ったであろう人影。

 弓に矢を番え直立した女性。


「どうしたの?」

「誰か、居る」


 相手の出方を警戒しながら慎重に足を進める。

 向こうが先に弓を下げた。


「また会ったわね」


 俺の間合いの僅かに外で、相手が口を開く。

 僅かに微笑みを浮かべ。


「知り合い?」


 斜め後ろに立つ夏実に問う。


「知らない」


 では、俺に向けた言葉か?


「人違いでは無いですか?」

「……覚えて無いの?」


 こちらに歩み寄る彼女の問いに首を横に振る。

 記憶に無い。


「まあ、良いわ。門は……キャ!」

「白雪!」


 何かを言いかけた相手を遮り突然白雪が飛びかかる。

 尻餅をついた彼女へ牙を剥き出しにして威嚇する白雪。


「ダメ! リターン!」」


 リコの声に振り返った白雪はそのままスッと姿が消え、代わりにリコの手に小さな刀。


「すいません。大丈夫ですか?」

「え、ええ。ちょっとびっくりしただけ」


 リコが弓使いに手を差し出す。


「すいませんけど、急いで戻りたいので」

「門は向こうだと思うけれど?」


 リコに手を引かれ立ち上がった彼女は俺達の来た方向を指差す。


「いえ、向こうだと思います」


 そう俺は断言した。

 見知らぬ女と夏実の言葉。

 信じるのはどちらかなんて明らかだから。


「あの、もし良ければ一緒に行きませんか?」


 そう夏実が彼女に声をかける。


「良いわよ。よろしくね」

「すいませんが急いでます。

 帰らないと」

「奇遇ね。私もよ」


 そう言って笑みを浮かべる女性。


「ライチです。お名前は?」

「……覚えて無いの?」

「え?」


 差し出した右手を握り返しながら咎める様な視線を向ける彼女。


「思い出して」


 口角を上げながらそう言われる。

 その顔を記憶の中から引きずり出そうとするが、やはり心当たりは無く、

 ただ、彼女から漂う少し甘い香り。

 それは、どこかで嗅いだ様な気がした。


 突如現れた女性。

 だが、その存在など気にしている余裕など無い。

 終電まで……おそらくあと一時間も無い。


 ◆


 俺を知ると言う謎の女性とリコ。

 そのどちらか、或いは両方か。

 探る様な視線を背に感じながら洞窟を走り抜け門へと至る。


「先、行って」


 その門の前で、リコが俺に囁く。


「何で?」

「少し、あの人と話をしてから行く」


 あの人。

 俺達から一歩離れ立つ謎の女性。結局名前は分からず。


「向こうで待ってる」

「うん。すぐ行くから」


 女性に向け頭を下げ、リコに手を振り門へと触れる。


 ◆


 現実に戻り時間を確認。

 終電まで十分程。

 慌てて荷物をまとめ、エレベーターホールで夏実を待つ。


 ……間に合わなかったらどうしよう。ここで朝まで待つか?

 帰るとしたらタクシーか。タクシー代いくらかかるだろう。


 それを調べておこうと取り出したスマホが震える。

 ハナだ。


「はい」

『地下にいるわ』


 一方的にそれだけ言って電話が切れる。

 久しぶりだな。これ。

 ついでに夏実と二人、送ってくれないだろうか。


 エレベーターのボタンを押して夏実にLINEを送る。



 ────────────────


 御楯頼知>ハナに捕まった

 御楯頼知>地下に居ます


 ────────────────


 送信。

 当然既読は付かない。


 地下駐車場でフェアレディに寄りかかり待つハナ。


「久しぶりね。アンは?」

「もうじき来ると思います」

「そう。

 レアー、辞めるそうね」

「ええ。そのつもりです」

「寂しくなるわ。

 何かするつもり?」

「特には」

「はい」


 宛名の無い封筒を差し出される。

 少し、厚めでA4サイズの物。


「何ですか? これ」


 中を開け、書類を取り出す。

 英語で書かれたもの。


『Operation Aegis』


 そう題されて居た。

 パラパラとページを捲るがそれ以外は読めそうに無い。


「イージス?」

「そう。新たなる組織の立ち上げ」

「今度は何をするつもりつもりですか?」

「安心、安全な異世界生活」


 そう言い切ったハナの顔を見つめる。

 穏やかな微笑みを浮かべた顔からその真偽は窺い知れず。


「そのためにやるべき事は山ほどある。

 頭が痛い」


 いつもならその言葉の後に舌打ちが続くだろうに。

 だが、その日は違った。


「手伝え、と?」

「そうだな。

 四年後、やる事が無くてどうしても、と言うならばその時は考えよう」

「四年後?」

「その頃に就職だろう?

 こっちの組織もその頃には形になっているだろう」


 そう、ハナは前を見据えながら言う。


「何か、あったのですか?」


 何というか、優しくて気持ち悪い。


「……探し物が見つかった。

 だから、私は前に進む事にした」


 そう言って、俺に微笑みを向ける。

 ……本格的に気持ち悪い。と言うか、怖い。


「お前は、どうだ?」

「俺?」

「桜河祈月の事、アンの事」

「何も無いですよ」


 俺の返答に、ハナは物憂げに笑い小さく息を吐く。


「誰かを助ける為に、好きな人を忘れる。

 ロマンチックであり、残酷よね」

「残酷?」

「助けた方は、その行動の意味を忘れる。

 助けられた方は、その罪悪感に苛まれる」

「……罪悪感?」

「『これを読んだ貴女はきっと勝手だと怒るでしょう。

 でも、大切な人を奪う。私のその贖罪はまだ終わってない。

 だから、私は私に受け継ぐべきだと思う。貴女しか頼める人は居ないの。

 もし、二人が再び会うことが出来れば、それがきっと正しい物語だと思う。

 だから、どうかお願い』」

「何ですか? それ」

「友人が将来の友人に向けた手紙。

 プライベートな」

「プライベート?」

「そ。

 とても他の人に見せれない様なナイーブな物よ」

「盗み見?」

「そうね。

 私はそういう物を見なければならない立場に居た。

 でも、見た事、聞いた事は極力忘れる様にした。

 もしくは、知らないと自分に言い聞かせる様に。

 でも、ダメよね。

 知ってしまっているのだから」


 そう言ってハナは俺の方を見る。


「お前のハッピーエンドは桜河祈月か?

 ならば今すぐ送り届けてやる」

「違います」

「じゃあ、それをアンに伝えなさい」

「……はい」


 その夏実からは未だ連絡は無く。

 遅い。

 何か、あっただろうか?


「夏実を迎えに行って来ます」

「そう」

「あ、これ」


 手にした封筒を返そうとするが、それは拒否される。


「あげるわ。餞別」


 結局、ここに所属しろって事か?

 訝しむ俺の手の中で、小さな振動を発する封筒。


 何だ?


 再度、封筒を開け中を確かめる。

 書類と……その奥に黒い端末、スマホが入っていた。

 そして、その画面に『G Play』のアイコン。

 それが通知を示す様に踊っている。


 ハナの仕業?

 それともガイア?

 ……そのどちらでも無い。だが、呼ばれている。


「行きます」

「ええ。アンに宜しく」

「はい」

「Have a good trip.

 ありがとう。ライチ」


 優しい声に送られながら画面の中のアイコンに触れる。

 即座に全身を包む違和感。

 そして、景色が変わる。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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