魔法少女☆リコ②
夏実と白雪はロキに連れられ屋敷の中へと戻って行った。
俺はテーブルに突っ伏し、さっきの記憶を消す事に専念する。
あーあーあーあーあー。
ていうか、人に順番おかしいとか言う前に自分はどうなんだよ。
先に結婚しろって言ったのそっちじゃないか。
いや、忘れよう。
あーあーあーあーあー。
つーか、白雪戻って来ないかな。
何であんな意味ありげな事を言うだけ言って去って行くんだよ。
俺達を助けた?
そんな記憶無いぞ。
いや、待て。俺を御楯の後嗣と言った。ならば達とは……俺と風果? そして御紘杏夏?
杏夏は御紘の後継だから、その守りとして白狐が取り憑くと言うのはわかる。
いや、御紘の親父さんは存命だ。死んで無い。
そもそも夏実は御紘杏夏では無いし。
……朧気に浮かぶ御紘杏夏の顔。それを夏実の顔を重ねる。
よく似た笑顔。それは、ずっと見て居たいと、そう思わせる様な……。
ずっと……その先にあるもの……結婚?
あーあーあーあーあーあーあーあー!
忘れる。忘れる!
庭で一人、無我の境地を求め瞑想。
「試着の時間だよ!」
突然の大声。
直後、明かりが一斉に落ち、ファンファーレが鳴り響く。
そしてスポットライトが落ち、そこにカーテンが。
スッとカーテンが開きながら暗転。
そして、響く声。
「定めなんて要らない!」
足下のライトがブーツを照らす。
「私は私!」
スカートがフワリとなびく。
「力が無くても助けてみせる!」
ライトと共に外套が翻る。
「魔法少女☆リコ。
バッドエンドは許さない!」
上から落ちたスポットライトと共に、下からキラキラとした紙吹雪が舞い上がる。
その中心で最高の笑顔を添えて、決めポーズをとるリコ。
超キラキラしてる。
いつの間にかテーブルに実姫とロキが座って居て目を輝かせながらリコの方を見ている。
……負けた。完敗だ。
一拍置いて、少し冷静になったのか恥ずかしそうな顔をしながら服の裾をつまみ確認する夏実。
何と言うか、少し大正ロマンを感じさせる様な外套と上着。
「……どう?」
天使かな?
「非の打ち所がない。
のだけれど……」
「けれど?」
「……少し、スカート短く無い?」
パンツ見えそう。
「そう?」
「中、見えそう」
俺の指摘にスカートを押さえながらジト目で睨む夏実。
「大丈夫よ」
上からマダムの声。
何が大丈夫なのだろう。
「中は見えない様になってるし、見えても良いものを履いてるからね」
見えても良いもの?
スパッツ?
「それに、無理に覗こうとすると」
無理に覗こうとすると?
「死ぬ」
「え!?」
なにそれ。怖い。
そんな機能があったらリコは大量殺人鬼になってしまう。
「それは駄目だ!」
「何で?」
「え? 危ないじゃん」
「覗くの?」
「え? いや、俺じゃなくて……」
「……覗かないの?」
「え?」
いや、覗きたい。
だが……。
「……武士はそんな事をしない」
そう、血反吐を吐きながら答える。
食わねど高楊枝。
まあ、武士では無いけれど。
「あの、もう一回鏡で見て良いですか?」
「もちろんさ」
夏実が上を仰ぎながらマダムに問いかけ、それに答えると同時に上から鏡が落ちてくる。
足が生えた鏡はぐにゃっと着地して、リコの前で直立。
「……可愛い」
その鏡の前でゆっくりと一回転しながらリコが呟く。
うん。可愛い。
「ライチ。ちょっと横に並んでご覧」
そうマダムに言われリコの横へ。
鏡に映った和の冒険者二人。
「うん。並んでも違和感無いだろ?」
「え?」
「合わせてくれたんですか?」
「少しだけね」
ふむ。
リコと二人、鏡に映った自分達を改めて観察。
目が合い、はにかむ様に笑う夏実。
超可愛い。
少し気恥ずかしく、目を逸らす。
だが、鏡に映った俺は夏実を見据えたまま。
鏡の中の右の目が赤く光る。
そして鏡から黒い手がリコに向かい伸び来る。
咄嗟に身を踊らせ彼女の前に。
そして、呼び出した朧兎が黒い手を弾き返す。
「ロキ! イタズラするんじゃないよ!」
マダムの声が響く。
手は既に消滅していた。
「僕、知らな~い。逃げろ~。実~行こ~」
「おう!」
パタパタと逃げて行く、ロキと実姫。
イタズラ?
鏡に映ったリコの顔に少し怯えが見える。
だが、次の瞬間マダムの巨大な手に摘まれ持ち上げられ去って行くリコ。
「さ、次はエステだよ」
「きゃー」
スカートを押さえながら悲鳴を上げるリコ。
その姿を見上げ、本当に意識せず見上げ、偶然、本当に偶然スカートの中を覗く様な格好になってしまったけれど、マダムが言った様に何も見えなかった。
◆
動く箒相手に、チェスで丁度十敗目を喫した頃にリコが戻って来た。
惚けた顔をして。
「極楽」
そう呟きながら椅子に座る。
心、ここにあらず。
髪はツヤツヤ。肌はテカテカ。何か、良い匂い。
「もう、外は夜だぞ」
「そうね。
そろそろ戻らないと」
「まだ、門探しがあるんだからな」
「そうねー」
目を細めながら答えるリコ。
余程エステが快適だった様だ……。
「は~い。ドーナツ~」
ロキが大皿山盛りのドーナツをテーブルの上にドンと置く。
「キャー!」
歓喜の悲鳴を上げる夏実。
「いただきます!」
いつの間にか着席していた実姫がすぐに手を伸ばす。
まだまだ帰れそうに無いらしい。
ドーナツ一つ取って、箒にチェスの再戦を申し込む。




