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まさかの新入部員?

 五月の連休はノルマの為に淡々と異世界へ。

 ショニンから送られた防具一式は良い出来だった。


 そして、60時間のノルマをこなす。

 来月は契約の更新だが、延長はしない。

 レアーは今月で最後。

 マイクにも、既に意思は伝えてある。


 なのでこの専用スペースも今月一杯。

 ノルマを達した今、ひょっとしたらもう来ないかも知れないなどと思いながら溜池山王のビルを後にする。


 そして、月曜日。放課後。

 大里はまだ教室に居る。夏実と二人、それを確認し部室へ。

 新入部員募集の掲示が多くなった廊下を抜け、SF研の扉を開け絶句。


 無言で顔を見合わせる俺と夏実。

 何で大里が先回りして涼しい顔を参考書を開いて居るのだろう。

 ドッペルゲンガー?


 釈然としないまま、パイプ椅子に腰掛け文庫本を開く。

 向かいで夏実がスマホをいじる。

 大里は部長席で勉強。

 何一つ変わらぬ三年次のSF研。


 トントンと、扉がノックされた。


「はい」


 イヤホンを嵌めた大里が無視を決め込んだので夏実が立ち上がり扉を開ける。


「失礼します」

「し、失礼……しま……」


 元気いっぱいの声と消え入りそうな声。

 女子が二人、廊下に立って居た。


 流石にイヤホン外し顔を上げる大里。


「ここはSF研究会だけど、何の用かな?」


 小首を傾げながら問いかける部長。


「入部希望です!」

「……です」

「……ここSF研究会だけど?」

「知ってます。そして! その正体も!」


 廊下から、両サイドに団子を作った元気ッ子がビシッと俺を指差した。

 ……誰だろう。


「ちょ…………くまちゃん……」


 横の前髪ぱっつんのおかっぱがおずおずとその手を下げさせる。

 あれ?

 あっち、見た事あるか?

 ……誰だっけ?


「取り敢えず、中入って」


 夏実が二人を部室の中へと招き入れ扉を閉める。


 新入部員……なのかなぁ。

 改めて俺達の向かいに腰を下ろした女の子二人。


「一年A組、熊元くまもとまことです!」

「一年……A組、佐東さとう奏詩詠そしえ……です」


 やっぱり一年生。


「君達、入部希望者?」


 大里が少し迷惑そうに尋ねる。


「そうです!」

「ここ、SF研究会だけど?」


 しつこくそこを強調する大里。


「SF研を隠れ蓑にしたG Play攻略室!

 そうですよね!?」

「いや?

 違うけど?」


 さらりと否定する大里。


「私は! 誤魔化されません!

 そちらの先輩!」


 メゲない団子頭が椅子から立ち上がり俺を指差す。


「俺?」

「えっと、お名前は?」

「御楯」

「ミタテ先輩。

 ミタテ先輩が、アンキラの常連客だと言うのは調べがついてるんです!」


 ……え?


「う、うん。うん?

 いやいや、そんな事、無いぞ?」

「私は! 見ました!

 先週、学校帰りに入って行く所を!」

「常連客だからね」


 横で夏実が呆れた様に言う。


「え、ちが、友達がバイトしてんだよ」

「その友達とは! ランクS、荒ぶる道具屋ショニンですね!」

「違う」


 アイツは友達じゃ無い。


「じゃ、誰がお気に入りなの?」


 夏実、お前、どっちの味方?


「アリスちゃんだろ?」


 大里! それは、お前の好みだろ!?


「待て待て。

 話が見えない。

 仮に俺がメイドカフェの常連だとしても、それが何だって言うんだ?」

「仮、じゃないわよね?」


 夏実さん?

 何でそんなトゲトゲしてるんですか?

 そのメイドカフェは貴方の友達がバイトしていて、その友達も元はと言えば貴方が紹介してくれたんですよ?


「私とソシエはとあるG Playerを探してるんです」


 団子頭の横でコクンと頷くおかっぱ。

 そして、少し上目遣いに俺の方を見る……あ!

 わかった。

 おかっぱの正体。

 シエだ。

 トマトを育ててた娘。


 ヤベェ。


 そしたら『とあるG Player』って俺の事なのか?


「えっと、熊元さん」

「はい!」

「ここは、SF研究会であって、G Playなんて一切関係ない集まりなのだけれど。

 そして、人探しならオカルト研とか、新聞部とかへ行った方が良いのでは?」

「まあまあ。G Playってさ、分類的にはSFだよね」


 とっとと追い返そうとした俺を後ろから切りつける様な、突然の大里の裏切り。開いた口が塞がら無いとは正にこの事。


「それで?

 どんな人を探してるの?」


 熊元へ先を促す夏実。

 お前も!?

 これ、あれか?

 四面楚歌。

 いや、待て。

 まだ、この二人が探してるのが俺とは限らない。


「私とソシエは去年の冬休みに行ったG Playをきっかけに知り合ったんです。

 そこには既に私達の他に何人ものプレイヤーが居ました」


 問われるままに語り始めた熊元。


「門までは遠く、敵は強い。

 食料は乏しく、仲間は日毎に倒れて行く。

 そんな状況でした」


 熊元の言葉に横でシエがコクコクと頷く。


「そこに現れたのが、エルと言う人」


 はい。俺。

 大里がチラリと俺を見る。平静を装い視線を外す。

 シエはわかったが熊元は誰だろう。


「その人はまるで篝火の様に、暗闇を照らす明かりとなり私達を救い出してくれたのです!」


 へへへ。まあね。

 シエがその後に続く。


「ライムと名乗ったその人は、傷付いた私を優しく慰め癒してくれました」


 待て!

 間違ってない! 間違って無いが頬を赤らめ俯き加減で言ったらダメじゃん!?

 今の台詞!


「ふーん」


 横から冷めた相槌。


「えっと、その、エルだかライムだかと俺と何の関係が?」


 とぼけよう。


「ごまかしても無駄です!」


 再びビシッと俺を指差す団子頭。


「忘れもしないその顔!」

「世の中には似てるやつが三人存在するんだぞ?」


 それが、ドッペルゲンガー。


「いいえ、更にはその匂い!」

「……高校生男子は大体同じ匂いだ」


 比べたこと無いから知らんけど。


「そして、声!

 それら全てが熱い抱擁を交わしたあの人と全く一緒なのです!」

「待てぇ!!

 そもそも、お前、誰だよ!?」


 思わず立ち上がり叫ぶ。


「忘れたんですか!?」


 熊元が目を丸くしながら立ち上がり、両腕を持ち上げ体の前で手首を曲げる。

 そして、一言。


「ガウ」

「……お前……クマ!?」

「ガウ!!」


 人だった、いや、メスだったのか!


「ふーん」


 横の冷めた声に凍りつく。


「つまり、二人が探していたのはやっぱり御楯君で、熊元さんを熱く抱き締め左東さんを優しく癒やした訳ね?」

「誤解だ!」

「いえいえ、私は別にどうでも良いんですけど。

 二人にも一応言っておくけど、御楯君には本命が居るから手を出しちゃ駄目だよ」


 そう夏実が新入部員候補の二人に向け諭すように言う。

 何だ? その言い方。

 ……あれか? 嫉妬? 遂に来た!? モテ期。


「いや、別にそういうんじゃないでっす!」

「私も……」


 手首を立てて突き出し、思いっきり拒絶のポーズを取る熊元と小首を傾げる左東。

 どういう状況だよ。これ。

 なんか、フラれたみたいじゃん。

 解せぬ。

 脱力し、ヨロヨロと座り込む。


「じゃ、そのエルとライムの活躍話でも聞かせてもらおうかな」


 イヤホンを外しながら言う大里。

 お前、勉強しろよ。


「あ、はい!」

「いや、勘弁してくれ。

 こんな所で向こうの話はしたくない」

「何かやましい事でもあるの?」


 そう夏実に問われ口がへの字に。

 もう何も言えず。

 結果、幼女を連れたTS野郎の英雄譚を聞かされる羽目に。

 背中がむず痒い。


 ◆


「一応、活動は週一、月曜日って事になってるけどその日に来なくても良いし、他の日に来ても良い。

 備品は持ち出さない事と、ゴミは持ち帰る、部外者は連れ込まない。それだけ守ってくれれば良いよ」

「は、はい」

「わかりました!」


 と言うわけで、一年の二人は仮入部と言う事になった。


「では!」

「し、失礼します」


 二人が出て行った部室で大きく溜息を吐いて天井を仰ぐ。


「……どうするつもり?」


 夏実が大里に問う。


「どうって、どうもしないよ。

 ここはSF研であってG Play愛好会でも何でもない。

 僕はここで変わらず勉強をするだけだよ」

「だって、彼女達はG Play(それ)目的で来るんじゃないの?」

「どうしてもそう言う話がしたいならヘスティアに放り込む。

 向こうもサンプルを欲しがっているし、彼女達も力を得る。ウィンウィンだ」

「……それなら何も言わないわ。

 御楯君、帰ろ」

「ん、はい」

「ちょっと、寄り道付き合ってくれる?」

「どこ行くの?」

「……ジム」

「は?」

「ちょっと、サンドバッグ叩きたい」

「絶対嫌!」


 そのサンドバッグは俺だろう?


 ◆


 で、結局鶴川駅前のドーナツ屋に寄っている。

 夏実の手が三個目のドーナツに伸びる。


「何か、怒ってる?」

「別に?」

「あ、そう」


 そして、四個目に。


「……あのさ、あちこちで良い顔するのはどうかと思うの」

「いや……」


 ちょっと格好つけただけなのだけれど。


「ごめん。私が言う事で無いのはわかってるんだけどさ」

「いや……」


 オレンジジュースに口をつけ、五個目のドーナツに手を伸ばす夏実。


「……ごめん」

「ううん。私に謝る必要って無くて……悪いのはきっと私の方だし」

「……怒ってるよね?」

「怒ってないよ?

 私は、そんな事で怒らないし、そんな資格も無いし。

 ただ、まあひょっとしたら彼女はそう思わないかも知れないじゃない?」

「……彼女って、誰?」


 ここに居ない第三者の存在を仄めかす夏実。

 まさか! 俺を好きだとか言う友人でも居るのだろうか!?


「……知らない」

「……何だよそれ。

 つーか、さっきの本命って何だよ?」


 二人に言い聞かせた言葉。

 その真意を問う。


「そう言う人がいるのかな、居たのだろうなと思ってさ」

「それって……」


 夏実さんの事……。

 そう言いかけ止める。

 それは、全部が片付いてからに。


「何?」

「何でもない」


 目の前の夏実は俺の事を好きだった夏実ではないのだから。

 それ自体、自惚れかも知れないけれど。




「ねえ」

「ん?」


 暫しの沈黙の後、夏実が口を開く。


「あの子達が言ってたマダムジルの屋敷ってどう行くの?」

「招待状があれば行ける。

 他の方法は知らない。

 何で?」

「私も可愛い服が欲しいじゃん?」

「何着ても可愛いよ」

「そう言う事を言うから誤解されるのよ。

 わざと?」

「……さーせん」


 いや、夏実にしか言ってないのだけれど。


「その招待状って、ショニンに言えば貰えるのかな?」

「俺、持ってるけど?」

「え? そうなの?」

「うん。……週末で良ければ届けに行こうか?」

「どうやって?」

「俺のマジカルな力で」

「平気なの?」

「全然。超鍛えてるから」

「本当に?」

「本当だって」

「じゃ……お願いしようかな。

 マダムジルってどんな人?」

「それは会ってのお楽しみ」

「えー」


 口を尖らせ笑う夏実。

 こうやってこの笑顔をずっと見ていたいなどと思う。

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