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恐怖のテーマパーク④

「頼知!

 もう一回じゃ!!」

「もう無理だ!」


 俺の手を掴んだ実姫の手を振り払う。

 思いっきり頬を膨らませ顔を真っ赤にして怒る実姫。


 丸太船に乗って滝壺を急降下するアトラクション。

 現実ではあり得ない様な高さ、まるで成層圏から。

 もう全身ずぶ濡れだ。内臓が押しつぶされる様な感覚が気持ち悪い。

 だが、実姫はいたく気に入った様で既に三回も乗っている。

 そして今、四回目をせがまれている。


「じゃ、私と行こう」

「おお!」


 すかさずアプルが実姫の手を引き連れて行く。


「ゆっくり休んでて下さい」

「……ああ」


 あのロリコン。

 完全に実姫に取り入りやがった。

 まあ良いや。

 何か食べる物を買いに行こう。

 あの様子だと四回で終わるか定かで無いだろうし。


 ◆


 流石のアプルも実姫のテンションには付いて行けなかった様で、十数回目の落下で白旗を上げた。


「もう私もババアだな……」


 柵に寄りかかりながらそう呟く。

 ……ババア?


「頼知! 次! 次じゃ!!」

「はいはい」


 その間、たっぷりと休んだ俺の手を引き走り出す実姫。

 この先はメリーゴーラウンドやらコーヒーカップがあったはず。


 そこでもうひと遊びかな。


「いや、怖えーし」

「あれはどうやって遊ぶんじゃ?」

「どうって……」


 炎上しながら物悲しい音楽と共に回るメリーゴーラウンド。


「取り敢えず、倒せば良いのかのう?」


 剣鉈を担ぎながらニヤリとする実姫。


「まあ、そうだろうな」

「ならば数比べじゃな。負けんぞ!」


 本来はそんな楽しみ方では無いのだが。

 まあ良いや。

 チェーンソーを持って迫るウサギの着ぐるみ。

 悪夢に出て来そうな凶悪な表情のピエロ。

 いくつものナイフでジャグリングする曲芸師。

 火吹き男にトランプを持ったマジシャン。

 どいつもこいつも殺気丸出しで向かい来る。


「客を楽しませるつもりは、無いのか?」


 試作品を抜きそいつらへと向かい行く。

 上からはアプルの援護。

 メリーゴーラウンドから、燃える馬が飛び出して来た。

 馬上で逆立ちするのは軽業師か。


 実姫の楽しそうな笑い声が響く。

 あれはあれで楽しんでいるらしい。

 何か、間違ってるよなぁ……。


 ◆


「儂の勝ちじゃな!」

「数ではな。

 俺は面倒なのをまとめて相手してただろ!」


 チュロスを頬ばりながらドヤ顔で鼻の穴を膨らませる式神に反論。


「なんだか兄妹の様ですね」

「「違う!」」


 呆れ顔で笑うアプル。


「ならば、次こそ……数の勝負じゃな!」


 残っていたチュロスを一気に口に詰め込み、それを飲み込んでから実姫が前方へ目を向ける。

 そこにずらりと並ぶ、白いアーマーに身を包んだ兵士達。

 その手に、未来的な銃。


「次は、そうだな……最後に立ってた方が勝ちでどうだ?」

「……何であれ、負けんわ!」


 そう言って飛び出す実姫。


オン


 走りながらその姿を牛鬼のそれに変える。


「じゃ、私も参加しましょうか」


 そう言って実姫の後を追うアプル。

 その手に白の刃。真珠切……いや、ヴェロスの正式採用品、超硬セラミックスブレード。

 走りながら、同時にドローンから兵士達に熱線を浴びせかける。

 兵士達も手の銃を上に向けそれに応対しようとするが、闇に紛れ動くドローン。

 ただでさえ小さな的。さらに高速で動くそれを簡単に捉える事など出来る訳も無く。

 そうしているうちに、実姫の槍と、アプルのブレードの餌食となって行く。


「風止まる静寂

 溢れる鬼灯

 涙は涸れ、怨嗟は廻る

 唱、(はち) 現ノ呪(うつつのまじない) 首凪姫(くびなぎひめ)


 掌より引き抜いた刃が青く光る。


 兵士より放たれる光線。

 それに焼かれながらも意に介す素振りを見せない実姫。

 宣言通り、八つの目、空から見張る銃口を備えた六つの目とセラミックスブレードを握る自身の二つの目を自在に操り次々に敵をなぎ倒していくアプル。

 負けじと蒼三日月を手に流れるように敵を葬る俺の前に現れる二つの影。

 その獲物をかっさらおうと顔を向けた実姫を手で制す。

 手出し無用。

 俺の命を汲み取った実姫がつまらなそうに顔を歪め溢れかえる兵士へと矛先を向ける。


祓濤(ばっとう) 蒼三日月」


 剣士として、手合わせ願おう。

 その上で、勝つ。


 黒い鎧が静かに赤く光る光剣を、子供よりも小さな生き物が緑に光る光剣をそれぞれに構える。


 整息。


 並び立つ両者の間へ蒼三日月の切っ先を向ける。


 先に動いたのは相手の方。

 上段から振り下ろされる赤い刃。

 それを受け流し、続けて迫る緑の刃を身を引いて避ける。

 刹那、全身を縛りつける様な拘束。

 見えぬ力……。

 必死にそれに抗い、迫る光剣がこの身を断ち切る寸前で辛うじて切っ先から逃れる。

 否、切っ先は俺の鎧ごと浅く身を裂いた。


 亟禱きとう 卑弥垂(いやしで)


 間髪おかずに迫る二ノ太刀。

 蒼三日月を併せ、捌き、そうやって打ち合う事、十数合。

 姿勢を崩す様に振るわれる見えぬ力と時折飛び来る流れ弾も相まって、防戦一方で攻めに転ずることが出来ず。

 流れ弾を食い止めてきた朧兎が耐えきれず、消滅した。


 二者を分断し、各個撃破を図るべきか?

 いや、先々倒すべき敵は八頭の竜。

 ここは、こここそは超えるべき壁。


 何よりも、まとめて斬れとささやくのだ。

 刀が。

 不甲斐ない戦いをするなと。


 脱力。


 さらなる力。

 それをこの手に。


 瞑目。


 内なる声を掴み、刮目。


「横たわる骸を踊場に

 白い刃は闇に踊る

 途切れること無く回る輪廻の中で

 斬神(ざんしん) 鞘走れ、蒼三日月

 我と共に、全てに等しく葬送を」


 言霊と共に、全身を巡る刀の力。

 視界から一気に色が消失。

 捉えるのは赤と緑の刃ただそれのみ。

 敵の力の向かう先、ただそれのみ。


 振り下ろされる赤い刃。

 それよりも早く懐へ飛び込み、静かに蒼三日月を横薙ぎに。

 手応えも無いままに崩れ落ちる黒い鎧。


 まず一人。


 飛び来る兵士の銃弾を振り下ろす刀でかき消す。

 その死角から襲い来る見えざる力。

 否、はっきりとこの目が捉えたその力を刀で断ち切る。

 続け様に振るわれる緑の刃。

 そのまま返す刀を緑色に光る刃に合わす。

 体勢が入れ替わる。

 相手の緑の刃は俺の鎧を裂き、だが、皮一枚分体に届く事は無く。

 代わりに蒼三日月は相手の頭を刎ね飛ばした。


 終わった。

 だが、刃は止まらず。

 足らない。

 次なる獲物を求め、刃が疾走る。


 刀の意思か、それとも俺の内の衝動か。

 周りの兵士へと刀を向ける。



 結局、周囲の兵士、目に見える範囲全てを斬ったところで術を解く。


「……っく」


 途端に襲う疲労。

 堪らず片膝を突く。


「儂の勝ちじゃな!」


 そんな俺をドヤ顔で見下ろす実姫。


「……アホか。俺の勝ちだ」


 大物二つを仕留めたんだから。


「立っているのは儂じゃ。

 相変わらず器が小さいのう。お兄様は」


 クソガキが!

 なんて可愛げの無い妹だ。

 そもそも妹は、風果はそんな事言わん。

 ただただ冷たい視線を投げかけるのみなのだ……。


「まあ良い。

 無事ならそれで」


 言いながら、胴当てを外す。

 緑の光剣に切られパックリと裂けた。

 代わりを調達しないと。


「すごいねぇ!」


 無邪気にアプルが俺を褒める。

 と思ったら違った。

 先程の二者が使っていた光る剣を持ってブンブンと振り回している。


「はっ! はっ! ほっ!

 あ、ゴメンゴメン」


 そう言いながら俺に剣を差し出すが、それに首を横に振って答える。


「要らないんですか?」

「好みじゃ無い」


 出し入れ出来る刀なら既に二本ある。

 そうで無いのも、二本。

 一度打ち負かした相手の武器。

 つまり、俺と蒼三日月より下な訳だ。

 売り物にはなるだろうが、アプルが使うならそれでも良い。ここでの戦いでは大きく助けられているのだから。


「じゃ、もらっちゃいますね!」


 白い歯を見せ笑うアプル。


「……さて、行くか」


 いつまでも休んでいる訳にはいかないので癒しの術をかけ立ち上がる。


「一周しましたね」

「あと見てないのは……」


 俺とアプルが同時に中央に立つ城へ目を向ける。


「その前に、パレードの時間ですね」

「は?」

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