恐怖のテーマパーク③
「あそこは何じゃ?」
実姫が木造の開けた建物を指差す。二階建てで外から直接二階へと上がる階段がある。
「駅だな」
「駅?」
「蒸気機関車に乗れるんですよ。
行きますか?」
「蒸気機関車?」
「行けばわかる」
森の中を走りこのエリアをぐるりと一回りする蒸気機関車。
こんな怪しい遊園地のアトラクションで遊ぶのもどうかと思うが、どこに門があるかわからない以上行くしかない。
客はもちろん、駅員すら居ない無人の駅。階段を上ると俺達が来るのを待って居たかの様に煙を吐く蒸気機関車が停車して居た。
後ろに付いた三両は上半分が開け広げになったトロッコ客車。
「おおう? 燃えておるのか?」
「湯を沸かしてるんだよ」
先頭車両が吐き出す蒸気を見て、目を丸くする実姫に雑に説明。
「実ちゃんは、私と座ろうか。
ライチさんは一番後ろの車両へ」
「え、何で?」
「警戒の為ですよ」
「……了解」
実姫が嬉しそうにアプルと手を繋ぎ、先頭の客車へ。
言われた通り俺は最後尾の車両へ。
実姫は完全に懐いてるな。大丈夫だろうか。
三人が乗り込むと同時に汽笛が鳴り無人の蒸気機関車が走り出す。
一体誰が動かして居るのか。
『皆様、ようこそ、¥#%${@鉄道へ。
この先駅に停まるまで、何があっても汽車から降りてはいけません。
降りたらもう、二度と帰って来れませんから。
ええ、二度と……』
灯の無い森の中へ入って行く汽車に響く不穏なアナウンス。
ここはそう言う世界なのだ。
そう思って割り切ることにした。
ガタゴトと揺れながら汽車が進む。
前の車両では実姫が楽しそうな笑い声を上げている。横で笑うアプル。
……その横顔に、違和感。
……知っている……会ったことがある? 誰かに似ている気がした。
彼は俺が彼の探す誰かを知っていると言った。
ならば、その誰かの血縁者か?
誰だ? この世界で会った顔を思い浮かべるがどの顔も当てはまらない。
……直接聞こう。
そう思い、前の車両へ移動しようと立ち上がった瞬間、汽車が急停止。
それと同時に周囲をぐるりと取り囲む気配。
松明を手にし、民族衣装を身にまとった長髪の男達。
インディアン……。
「敵か!」
「駄目!!」
剣鉈を手に飛び出そうとした実姫の襟首をアプルが掴む。
「絶対に汽車から降りちゃダメ!
ライチさんも!」
成る程。
降りたら忠告通りに二度と帰って来れないと言う訳か。
返事を返す代わりに手を上げ合図とする。
直後、発砲音。
咄嗟に身をかがめそれをやり過ごす。
汽車が再出発するのはいつだろうか。
いや、線路上にインディアンが居たら出発出来ないか。
つまり敵を全部倒す必要がある。
「銃は私が引き受けます」
前からアプルの声。
怒号と共に汽車へ張り付いて来たインディアン。
その手には斧。
「引き受けるってどうやって!?」
試作品でインディアンを切りつけながら問う。
返事は言葉で無く、行動で返って来た。
空から降り注ぐ無数の熱線。
それらが遠巻きからこちらに向いた銃口を寸分違わず射抜き弾き飛ばす。
空の六つの目は同時に六つの砲台でもある訳か。
「実姫、そっちは任せた」
「オウ」
とは言え同時に接近戦までは賄えないだろう。
ならば近寄るインディアンは俺達が追い払わねば。
◆
上、客車の屋根から衝撃。
……大物の気配。
客車の上に這い上がって来たインディアンは残り二体。実姫なら苦にしないだろう。
周りの奴らはすべてアプルが無力化した。
外壁へ足を掛け屋根を掴む。
そのまま跳躍し、屋根の上へ。
銃を手に、憤怒の形相をした男が一人。
「ジェロニモ、オマエラ、ユルサナイ」
真っ直ぐに俺に向けられた銃口。
構わず二両先に居るその男へ向かい走り込む。
引金にかけられた指が動く瞬間。
亟禱 月呼
真っ直ぐに俺を捉えて居た銃口が僅かに上を向き、放たれた銃弾は俺の頭上を通り過ぎる。
二発目は無かった。
その前に試作品の刃がインディアンの戦士を袈裟斬りにしたからだ。
屋根の上に膝を突くジェロニモ。
「ベ・チャスティ、ワタシニ、チカラヲ」
俯きながら呟いた直後、彼の体に周囲から瘴気が集まる。
そして、汽笛が鳴った。
吹き上がる蒸気、ゆっくりと動きだす蒸気機関車。
その屋根の上で、ジェロニモは真っ黒の鎧姿となり再び立ち上がる。
その鎧ごと切り落とす。
そう目論み、再度間合いを詰め試作品を横薙ぎに。
「……クッ!」
胴を両断せんとした一撃はジェロニモの脇腹に食い込み三分の一程で止まる。
振るわれる拳。
鳩尾にその一撃を食らい、宙へ持ち上げられた俺の下を通り過ぎ行く客車。
その屋根へ試作品を突き立て、置いていかれるのを防ぐ。
すぐさま追いかけてくるジェロニモ。
屋根の上で横たわる俺を見下ろす様に立つジェロニモ。
その顔、双眸の位置を二本の熱線が違わずに撃ち貫く。
亟禱 鳳仙華
断末魔を上げながら崩れ落ちるジェロニモの横手から爆破を術を浴びせ汽車の外へと弾き飛ばす。
残された屋根の上で暫く後方を警戒し、追っ手が無いことを確認して下へ戻る。
風が髪を乱すのも厭わず身を乗り出し流れる景色を楽しむ実姫。
その横でアプルが俺にサムズアップ。
同じ仕草を彼に返す。
その後に襲撃は無く、蒸気機関車は出発した駅へと戻って行く。
ここに門は無かった。
◆
機関車から降り、次に向かったのは西部開拓時代のアメリカを思わせる街並みの一画。
そこで俺達を出迎えたのは鉛の洗礼。
カウボーイなのか保安官なのかお尋ね者なのか定かで無い連中が徒党を組んで向かい来る。
まあ、そんな前時代的な兵器、アプルの前ではおもちゃに等しい訳だけれど。
適当に蹴散らし、実姫にポップコーンを買い与え、停泊していた蒸気船に乗り込む。
その甲板で俺はアプルにドローンの使い方を尋ねた。
「一体どうやって操ってるんです?」
「どうって……考える通りに動きますよね?」
いや、それが出来ないから荷物袋の中で肥やしになって居る訳で。
「ところでライチさん。
住まいはどちらですか?」
「いや、教えませんよ。
どうして気になるんですか?」
「アンキラを知っているなら、その近辺?
なら……確か、キングがその辺りに住んで居ましたよね? 知ってます?」
「知ってますよ。
そうやって、質問を重ねて答えを誘導するのやめて下さい」
嘘がバレるならば、問いかけはいずれ答えにたどり着く。
俺がどう偽ろうとも。
「大体、どうして気になるんですか?」
「禁則事項です」
「は?」
口元で指を一つ立て内緒と言うジェスチャーをする成年男子。
なんだこいつ。未来人かよ。
「さて、次は何に乗りましょう?
あれにします?」
そう言って指差す先には滝が流れ落ちる山。
「すっかり行楽気分だな」
「まあ、良いじゃ無いですか。
こんなに空いてる遊園地なんて滅多に無いですよ」
そりゃそうだ。
だってアトラクション全てが全力で殺しに来るのだから。
ほら、船にワニが寄って来た。
「実姫。戦いの時間だ」
「ふおう」
口からポップコーンの欠片を吹きだしながら式神が答える。




