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次第に認知されていく異世界と様々な思惑②

「まあ、成り上がる為には物流ですよね」


 お茶を飲みながら、トオルと名乗った男が言う。

 差し出されたお茶はハーブティーの様で、マスターの不味い苔茶とは比ぶべくも無く。


 しかし、物流と言っても流通なんて成り立つのか?


「納得出来ない。

 そんな顔ですね。

 わかります」


 男の講釈は続く。


「今はまだ何もわからない事ばかりのこの世界ですが、徐々に解明されて行くでしょう。

 その時、一番重宝される物。

 それは何だかわかります?」

「情報?」

「ご名答。

 では、それが集まる場所は?

 人が集まる所です」

「そんな場所無いでしょう」


 この世界の入り口は指定出来ない。

 目的の場所へ行く事など出来ないのだから。


「今はまだ、ですよ。

 言ったでしょ?

 解明が進んで行くだろうと」


 どうだろう。

 そんな事が出来るなら、そもそも『G play』側がそれを用意すると思うのだ。

 毎回無料でこんな事をさせているのは、彼らとて情報を欲しているからだと、そう思う。

 そこまでして、その先に何があるのか。


(本当の目的は、時としてフィクションの様に思えるものだ)


 不意に、ミカエルの言葉が蘇る。


「納得出来ない。

 そんな顔ですね。

 事実、色んな大学がこれの研究に取り組もうと、そう動き出してますよ」

「大学が?」

「裏でそれを支援する企業が居るとか、或いは国家が支援して居るとかそう言う話もあります」

「何故裏で?」

「これを提供して居るのがG社だからですよ。

 営利目的で他社が堂々と乗り込む訳には行かないのでしょう。

 研究目的、そう言う名目であればG社は取り敢えず黙認する。

 そう言う事です」


 成る程。

 それらしい理屈だけれど。


「そう言った訳で、私はまずは物を抑えたいとそう思ってるんですよ。

 そうすれば、自然とそれに人と情報が集まるでしょう」


 まあ、その野望はさて置き。


「金も無いのにどうやって?」

「まあ、今は物々交換で。

 何か、欲しい物が有れば交換しますよ。

 例えば……靴、とか」


 俺の足を見ながらそう言った。


「それは……欲しい」


 しかし、交換出来る物は?

 俺は鞄を開けて見る。


「槍と……コップ」

「槍よりはコップの方が良いですね」


 石棺の中に入って居た、恐らくは埋葬品。

 手持ちが八個。


 取り敢えず、五個、床に置く。


「おお、ちゃんとした食器ですね。

 拾い物ですか?」

「ああ」

「では、それと靴を交換で」

「いや。他に何がある?」


 相手の言いなりになる気は無い。

 男はニヤリとして、リュックから色々と物を取り出し並べて行く。


 成る程。

 物を抑えるなんて豪語するだけの事はある。

 武器、服、日用品。

 雑多に物が並んで行く。


「その靴と鎧。

 それから、ポットとお茶が欲しい」

「欲張り過ぎでは?

 そのコップならポットとお茶が良い所だと思いませんか?」


 まあ、そんなもんだろうけれど。

 一旦、回答を保留する。


「針と糸は無い?」

「釣りですか?」

「いや、縫う方」

「渡せる物は無いですけど、私が加工する事も出来ます」

「加工? 本当に?」

「簡単な物なら直ぐに」

「例えば、革を外套にとか」

「お手の物です」


 なら、交換の代わりにそれを頼もうか。


「ただ、それとコップだと釣り合いませんかな」


 駄目か。


 少し手持ちの荷物を考える。


「これは?」


 腰に下げていたヒーローの爪。

 名付けすらしていないその一本を差し出す。


「……これは……何の金属だ?」


 その刃に目を近づけ検めながら呟く。

 確か、映画の設定では『アダマンタイト』だった筈だが。


「切れ味を試しても?」


 問われ頷く。

 男は爪の刃を、持っていた布切れに当てる。


「良いですね」


 さして力を入れた様子もなく布を切り裂いたその刃物を男は気に入った様だ。


「これと、コップ。

 それで、言った物全てと交換でどうです?

 あと、革の加工」

「じゃ、それで」

「毎度!」


 ここでさらにもう一声とか言えれば良いのだろうが、そんな技術は無い。

 それに取引自体は満足しているのだからそれで良い。


 ◆


 手だけを使い男は毛皮を切って行く。

 そして骨を使って作ったと言う針で縫い合わせて行ってあっという間に豹の毛皮が外套に変わる。

 そして、おまけだと言ってマスターの残した革も外套に。

 撥水性に優れて居て、火にも強そうだと言った。

 片や豹の革は防寒に持ってこいだと。


「じゃ、これで」


 手渡されたそれらを軽く羽織る。

 良いな。

 少し、獣臭い気がするけれど。


 さらに、なめし革のジャケットの様な鎧。

 そしてミドルサイズのブーツ。

 新品では無さそうだが、出所は聞かない様にしよう。


「ありがとう。

 それで、何で俺に声をかけた?」


 取り出した荷物の中に食料らしき物もあった。

 食うに困って、と言う訳では無さそうだ。


「商談のきっかけに。

 おかげで良い取引が出来ました。

 貴方が常識の内に留まっていてよかったですよ」

「常識の内……?」

「そう。

 貴方も気付いていると思いますが、こちらの世界は時として向こうの常識が通用しない。

 例えば、こうやって物々交換を持ちかけてみたところで聞く耳持たずに全てを強奪するような輩もいるでしょう」


 相手の命すら奪うようなやり方で、か。


「果たしてどちらが正しいのか」


 ここでこの男を殺し全てを奪った方がこの先の活動は楽になるだろう。


「そう言う逡巡がある内は、まだ常識の内ですよ。

 そして、その中に居た方が良いでしょうね。

 お互い」


 トオルはニヤケ顔で無く、真顔でそう言った。


「さて、そろそろ行くとします。

 石碑はこの奥にありますよ。

 大分、歩きますけど」


 そう言って、トオルが来た道。

 洞窟の奥を目で示す。


「戻らないのか?」

「私はその先へ。

 つぶさに歩いて回って、地図でも作れないもんかと思いましてね」

「それは、助かるだろうな」

「それではまた何処かでお会いしましょう」

「……また」


 再会か。

 そんな事が有るだろうか。


「次は何かわかりやすい目印でも掲げようと思ってるんですよ。商売人だとわかるような、共通の目印を。

 例えば、赤のノボリとか」

「それは良い」


 よく目立つ。

 目立つ事が良いか悪いかはさて置き。


 ◆


「ポテトどうですかー!?」

「射的あるよー!」

「パンケーキ、今だけ飲み物サービス!」

「豚汁ー」

「唐揚げー!」


 模擬店から次々と声をかけられ、そして、それらを全て華麗にスルーする。


 何か食べたいけれど、何を買って良いやら。

 目移りして決めれない。


 取り敢えず、目的の所へ行ってから決めよう。

 焼きそばの看板を持って近づいて来た売り子さんを避けて躱し、歩みを進める。


 華やかだなぁ。


 珍しく週末に『G play』以外で外出して来てみた所は多摩川を渡った先の大学。


 ここなら原付で通えるんだよなぁ。

 国立だし。


 そして、こう言うキャンパス生活を送る事になるのか。


 入れたら。


 揃いの衣装を身につけたアイドルグループらしき集団とすれ違いながら賑やかな構内を歩き、目当ての建物へ。


『G play研究会』

 画用紙に黒のマジックで描かれた看板。

 他と比べ、全く飾り気が無い。


 開けっ放しで中の不人気振りが丸見えな、その教室へと足を踏み入れる。


 中には学生が一人。

 椅子に座りタブレットをいじっている。


 一通り見て帰ろう。


 壁に掛けられているのは全て絵。

 今まで誰かが訪れた異世界の様子を記憶を頼りに描いたのだろう。

 しかし、それはお世辞にもあまり上手いとは言えず。


 他に、あの世界の考察。

 長々と書かれた冊子が置かれており、そして結論がさらなる研究が必要と締められていて肩透かしを食う。


 後は、地図。

 転移した場所、目立った特徴、そして帰還の為のゲートの場所が描かれた物。


 ただ、残念ながら、壁の絵も地図も考察も、全てネット上に溢れる物と大差無い。


「あの地図、間違ってますよ」


 座っている学生にそれだけ言って立ち去る。

 一度訪れた事がある世界があった。

 でも、門の位置が記憶と違う。


 ネット上では良くある話。

 何が面白いのかわからないが、そう言うフェイクの情報を流す奴が多い。

 そして、知識の無い人間程それを信じてしまう。


「あ、ちょっと」


 呼び止められるが、会釈をして背を向ける。


「ま、待って。

 どの地図?」


 学生が追いかけて来る。


「あの三番目の奴です」

「あれか。

 田中の奴だな。

 ありがとう。高校生?」

「ええ」

「そうか。えっと……これ、持って行ってよ」


 そう言って大学名が入った青い封筒を手渡される。



 お好み焼きを食べながら開けたその封筒の中には二枚のA4用紙。


『未知世界調査に特化した研究室新設のお知らせ』


 そう書かれた紙。

 その最後は『なお、該当分野に特化した学生を集めるためにアドミッション・オフィスによる自由応募入試(AO入試)を予定して居る』と、締められていた。


 まあ……俺の事だよな。


 来た甲斐はあったな。

 よし、後はミスコンを見て帰ろう。


 ◆


 バスと電車を乗り継いで帰る道すがら、俺の異世界での活動を証明する手段が無いと、そう気付く。


 車窓の先、『G play』の広告看板が目に入る。

 法整備以降、メディアが『G play』を取り上げる事が多くなった。

 それも、好意的に。

 ミカエルならば、それはG社が多額の広告料を払って居るからだと、そう冷めた目で言っただろう。

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