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ダブルデートの定義

 男女が二人ずつ四人で出掛けたらそれはもうダブルデートと言う事で宜しいか?

 ならば、そう言う事にしよう。


 ……そうなんだよ。ダブルデートなんだよ。多分。


 女子二人は仲睦まじく前を歩き、その後ろからついて行く男二人。側から見たらデートには見えないかも知れないし、事実ダブルデートだなんて誰一人思って居ないだろうけども。


 春休み中盤。

 SF研の三人に風巻さんを加えた四人で埼玉にある遊園地へやって来た。

 どうしてそう言う話になったのか定かで無いが俺が向こうで実姫とゴーレム相手に戦っている間にそう言う事に決まったらしい。

 まあ、異論は無いのだけれど。


「あ、アレだ!」


 風巻さんが手にした地図を何度も確認しながら植え込みの中を指差す。


 その先に変な造形の小さな人形が隠されるように置かれている。


 さして広くもなく、アトラクションの数もそう多くない遊園地。

 絶叫系は乗りたく無いと言う女子二人が口を揃えた結果、ヒントを元に園内に隠れている未確認生物を見つけ出すというアトラクションで歩き回る事に。


「オッケー! じゃ受付に戻ろう!」

「何が貰えるんだろうね」

「キーホルダーとかじゃないかな?」


 楽しそうな女子二人。

 それを一歩離れて見守る男子二人。

 いや、別に詰まらないから離れている訳ではない。

 単純に距離の取り方がよくわからないのだ。俺は。大里は知らぬ。


「じゃ、戻ってご飯にしようか」

「「はーい」」


 大里の呼びかけに手を上げ答える二人。

 まるで引率の先生の様だな。


 ◆


「じゃーん!

 マキちゃんの手作りだ!」

「「「おー」」」


 風巻さんが広げた三段のお弁当を見て驚嘆の声を上げる三人。


「女子力高ぇ!」


 早速夏実が唐揚げをつまむ。


「うおーい! もっと有難がって食えぇ」

「有り難がってるよ。うん。でも、ちょっと塩味薄くない?」

「マヨをかけるのだよ!」


 そう言いながらバックの中からマヨネーズを一本取り出す風巻さん。


「え。何そのカロリー」

「え。マヨネーズは白いからカロリーゼロだよ?

 カロリーは熱に弱いからカラッと揚げた唐揚げはカロリーゼロだよ?」

「そっか!」


 そうか?


「じゃ、このイカリングも?」


 大里が丸いフライを一つつまむ。


「穴が空いてるからカロリーゼロ!

 オニオンリングだけどね」

「うん。美味いね」

「だろだろ? ヨッチはこれ。

 オムライスのおにぎらずだ!」

「おお、すげぇ」


 薄焼き玉子に包まれたチキンライス。


「何だこの女子力」

「ヨッチまでそんな事言うの!?

 毎日メイド服で奉仕させておいて!」

「毎日では無い」

「奉仕は否定しないんだ」


 唐揚げを、頬張りながらジト目で見る夏実。


「いや、仕事……」


 知ってんだろ? 何でそこに噛み付くんだよ。


「どうせ、私は一杯三百円でお茶を運ぶ安いメイド」


 などと言いながら取り皿にオカズを取り分け配る風巻さん。

 とても意外な一面を見た。


「アンキラのさ、コックの人が結構料理教えてくれるの。

 すごいんだよ。

 二つ星のレストランでコックしてたんだって」

「ふーん。でも、何でそんな人がメイド喫茶に?」

「なんか、セクハラでクビになって行くとこ無いんだって」

「え? そうなの?」

「らしいよ?」

「道理でちょっとボディタッチ多い訳だ」


 ……なん……だと?

 風巻さんの言葉に心当たりがあったらしい夏実。

 おい。巫山戯んな。アンキラ。セクハラ? ボディタッチ!? そんな所業が許されると思ってるのか?

 良し。今からちょっと燃やしに行って来よう。


「あ、ヨッチ。大丈夫だよ。すっごい綺麗な女の人だから」

「え?」


 同性?


「いや、それでもダメじゃん?」


 コンプライアンスは守らねばならぬ。

 違法労働とか。未成年の深夜の連れ回しとか。

 大体、何なのだ!? そのコックは。

 羨ましい。いや、けしからん。


 風巻さんの作ったおにぎらずを頬張り、やり場の無い怒りを鎮める。

 ……美味い。


 ◆


「よし、じゃ次は観覧車に乗ろう!」


 お弁当を食べ終え、風巻さんが次のアトラクションを指差す。


「折角だから、二対二に別れようか」

「お! 良いね!」


 大里の提案にすかさず賛成する風巻さん。


「じゃグッパーね」

「良いよ」


 と言う事があり。


「閉めますよ。中でふざけて揺らしたらダメだからね」


 そう、注意しながら係の人が観覧車の扉を閉める。


 暴れねーよ。

 そう思いながら外に目を向ける。


 グッパーの一発勝負の結果、俺の向かいには大里が座る。

 意味がわからない。


「こんな所で何してんだろう、とか思ってない?」

「ん? いや、別に」

「僕はちょっと思ってるけどね」

「まあ、男同士で観覧車は無いとは思う」


 ゆっくりと上昇して行く観覧車。

 男二人を乗せ。

 一つ上には風巻さんと夏実。


「あの二人には感謝してるけどね」

「何で?」

「あの二人が居なければこうやって御楯とゆっくり話す機会もなかっただろうし」


 ん?

 ……ホモォ的な……?


「いや違う違う」


 思わず身を引いた俺に手をパタパタとする大里。


「御楯、ライチと知り合えて良かったって事」

「なるほど」


 そういえばマキちゃんが口を滑らせたのがSF研の切っ掛けか。


「もしかしたら、僕はもう死んでたかもしれない。

 いや、死んでたと思う」

「そんな事ないだろ」


 生存、生還に関して言えば大里の能力は随一だと思う。


「でも、そう思ってるんだよ。

 そして、目的も見つけた」

「何を見つけたの?」

「この前、機械人形がいただろ?」

「ああ」

「あれを再現したいと思ってさ。

 高性能な義肢になるだろうし、ゆくゆくは人の代わりにもなり得る。幸運な事にサンプルもある。

 因みにマーカー埋めてない?」


 大里の問いに首を横に振る。


「そっか。残念。

 まあ、今の僕にはそのサンプルすらわからない事だらけだからさ、その為にはまず受験だけど」


 ……こいつ、マイルズ・ダイソンにでもなるつもりか?

 あの世界はこの世界の未来か?


「まさか、それで部長に?」

「まあ、あやかりたいよね。

 あの席で参考書を開いていると大学に受かる。

 それ、学校の七不思議にしようか。

 SF研として」

「いや、それはオカルト研の領域だし、四六時中参考書開いてりゃ、大学合格はオカルトでも何でもなくないか?」


 そう答えながら丁度頂点で横並びになった隣の観覧車から手を振る女子二人に手を振り返す。


「そして、その七不思議を成立させる為にはそれを語り継ぐ新入部員が必要だと思うけど?」

「ああ、それは面倒くさい。

 金髪の後輩ならばウェルカムなんだけど」


 そう言って肩をすくめる大里。

 そのよくわからないこだわりは何なのだろう。


 ◆


 二十分程の空中遊覧を終え、そろそろアトラクションも無くなってきた。


「最後にここ行こう!

 鏡の迷路」


 そう風巻さんが提案する。

 異論は無かった。


「じゃ、アンコ先頭で」

「え、何で? 別に良いけど」


 入り口はさほど広くなく、四人で横並びで入るには少し狭い。


「その後にヨッチ」

「あ、うん」

「で、大里っち。私は最後からついてく」

「了解」


 この並びに何か意味があるのか定かでないが、所要時間は二分ほどらしいので大して広くは無いだろう。


 ずんずんと進んでいく夏実の後をついて行く。


 中は一面鏡張り、と言う訳ではなく作り物の木と木の間に鏡が嵌めてある。

 とても広い森の様な空間だった。

 何も考えずに突き進むと鏡にぶつかるのだけれど。


 とりあえず、正解の道を進んでいるらしい夏実の背を追いかける。

 その向こうの鏡が夏実の姿とその背後に立つ俺の姿を映す。


「……いや!」


 突然、夏実が悲鳴にも似た小さな声を上げ後ろへと飛び退る。

 その背後に立っていた俺に背からぶつかり……足踏んだ。痛ぇ。


「え? あれ? あ、ごめん!」


 目を見開きながら振り返る夏実。

 その顔に驚きと戸惑いが浮かぶ。


「どうしたの?」

「いや、なんだろう。

 前から御楯君が……後ろに居たよね?」

「まあ、鏡には映ってるけど」

「いや、なんて言いうか、なんだろう。本当に迫って来ると言うか、まるで私を捕まえようとするみたいで……」

「……鏡だよ?」


 俺が手を伸ばせは鏡の向こうの俺も手を伸ばす。

 まあ、夏実が後ずさる前は後ろに立っていただけなので手は伸ばして無いが。


 夏実が俺の左目を観察するように見上げる。

 ……顔が近い。


「先行くよ」

「……うん」


 少し赤くなった顔を誤魔化すように彼女を追い越し歩き出すが、周りの鏡はそれを詳らかにする。

 後ろからピタリと付いてくる夏実がそれに気づいたか定かで無いが。


 ◆


 陽が傾く前に遊園地を出て、すぐ横の湖へ。

 併設された公園には桜が植えられ、その蕾はほころびを見せ始めていた。


「もうすぐ満開だね!」


 その下を歩く風巻さんと夏実。

 とても絵になる。

 さり気なくスマホにそれを収める。


「でもこうやって遊び回ってる暇もなくなる悲しき受験生なのですよな。

 今年は」

「そうだね」


 風巻さんの嘆きに大里が同意する。


「でも、また行こう!」


 風巻さんが満面の笑みで言う。


「ここに?」

「違う違う。

 次は秋に! 千葉へ!!」


 千葉?


「秋なんて、それこそ大変な時期じゃない?」

「一日ぐらい息抜きは必要だよ! きっと!」

「何で秋? 千葉?」

「ハロウィンでプリンセスの仮装をするのだ!!」


 ああ、千葉と言うのは東京を名乗りながら千葉にあるテーマパークのことか。


「へー。シンデレラ?」

「何にしよう? アンコは? アナ?」

「シンデレラかオーロラ姫かラプンツェルが良いよ」


 そう大里が提案するが、その三人の理由はなんだろう。


「ヨッチは?」

「ん? いや、お姫様は知らないけど……どんな格好でも似合うと思うよ」

「無難な答えはつまらん!

 じゃ、大里っちは海賊の方のジャック、ヨッチはナイトメアのジャックで!」

「いや、なんでジャック縛り?」


 こんな感じでゆるく未来の予定が埋まっていく。

 それは今までに無かったことかもしれない。

 桜の下で笑う二人を見ながら二人のお姫様姿は是非見たいなと思う。

 その為に生き延びて、そして世界を救わないといけないのだけれど。

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