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お買い物②

「よーう」


 渋谷の駅前で一人。

 若干居心地の悪さを感じ、そろそろLINEで呼びかけるかと思ったタイミングで風巻さんの登場。


「あれ? 一人?」

「そう」

「夏実さんは?」

「アンコは別行動。もう来るはずだけど。

 ところでさ、ヨッチの好みのタイプって和風美人?」


 は?


「いや、そう言う訳では無い……かなぁ」


 言われ真っ先に浮かんだのが風果の顔。

 背筋に悪寒が走る。


「水化粧嫌いなんだよね?」

「あー、そうね」

「訳わからん」

「え、何? 風巻さんが俺の好みに合わせてくれるの?」

「無い無い」


 知ってた。


「無いわー」


 その追撃、要らない。


「あ……来た」


 風巻さんが先に夏実に気付く。

 あれ?


「お待た」

「黒すぎね?」

「え? ま?」


 風巻さんの向こうで黒髪になった自分の髪を摘む夏実。


「え? ダメ?」

「ヨッチ、どう?」

「良いと思うよ」


 金髪フェチにロックオンされる心配も無いだろうし。


「で、何処に行く?」


 実は正直、自分が此処に居る理由がわからない。

 部長の合格祝いを買うなら夏実と風巻さんの二人で十分だと思う。

 と言うか、俺が居ても何の役にも立たない。

 絶対。


「取り敢えず、マルキュー?」

「だね」


 風巻さんの提案に、黒髪清純派へと様変わりした夏実が頷く。可愛い。

 そしてそれが、お遍路の様な行程の始まりであった。


 ◆


 109を見て、西武百貨店に移動して、戻って東急へ。そしてもう一度西武に。

 初めこそショップの中まで付いて行き、あれこれ選ぶ様子を眺めて居たのだけれど……。


 何で決まらないのだろう。

 ショップの外でぼーっと二人を眺める。


 長い買い物もそうだけど、気になる事が一つ。


 ……夏実が、避けてる……気がする。

 常に風巻さんを挟む様に位置取って居るし、そうでなくとも人二人分くらいは離れて歩く。


 ショップの中から風巻さんが手招き。


「これにしようと思う!」


 夏実が笑顔で大きめのバックパックを掲げる。


「良いと思う」


 と言うか、最早何でも良い。


「じゃ買っちゃうね!」

「はい」


 と言うことで買い物は終わった。


 終わってなかった。


 目当てのプレゼントは購入した筈なのに、その後もあちこちの店を見て回る二人。

 流石に付き合いきれず一言断り外へ。

 化粧品なんて見ててもしょうがないし、店内の熱気で頭がぼーっとして来た。



 日の暮れかけた街で歩道の柵に寄りかかり、スマホをいじる。


 ────────────────


 なつみかん>これにした


 ────────────────


 夏実が部員三人のグループトークへプレゼントの画像を上げる。


 ────────────────


 大里優耶>グッジョブ!


 ────────────────


 大里から返信。

 すかさず彼にLINEを送る。


 ────────────────


 御楯頼知>ヘルプ

 大里優耶>ぬ?

 大里優耶>どうしたの?

 御楯頼知>歩き回って足が棒

 大里優耶>www

 御楯頼知>プレゼントは買ったのに

 御楯頼知>買い物終わる気配が無い

 御楯頼知>何で?

 大里優耶>それは仕方ない

 大里優耶>そう言うもんです

 大里優耶>僕は向こうへ戻るので

 大里優耶>二人によろしく!

 大里優耶>明日、部室で

 御楯頼知>裏切り者!


 ────────────────


 疲れた。眠い。更には夏実が避ける。

 そして、大里は頼りにならず。


「あのー」


 木枯らしの中で途方にくれる俺に声がかけられた。

 スマホから目を上げる。


 見知らぬ美人が小首を傾げ立っていた。

 誰だろう。そして何の用だろう。

 突然の事態に俺は頭をフル回転させる。


 …………逆ナン!?

 え、マジで!?

 いや、でも知り合いと一緒だし……。

 待て。罠だ。宗教の勧誘だ。そう。そうに違いない。


「突然すいません。

 以前、助けてもらった者です。雪の日に」

「え?」


 謎の鶴の恩返し。でもそんな事した覚えは無い。

 人違いか、新手の勧誘か? 新手の勧誘だな?

 訝しむ俺に彼女は深々と頭を下げる。


「あの時は、ありがとうございました」

「え、いや、ちょ……」


 突然の出来事に戸惑う俺に相手は顔を上げてニコリと笑う。

 そして、手を振り立ち去って行く。

 混乱を残したまま。


「知り合い?」


 その後ろ姿を目で追う俺にいつの間にかデパートから出て来た夏実が声をかける。


「いや……人違いだと思うんだけど……」


 そう答えた視線の先で謎の女性は振り返り、もう一度頭を下げた。

 何故かそれを応える様に俺の横で夏実が彼女へ向かい頭を下げ返す。


「綺麗な人」

「誰だろ」

「気になる?」

「いや……」


 横に並んだ夏実の方を見る。

 そこで、夏実がハッと気付いた様に一歩下がる。

 まるで俺を避ける様に。


 別にいきなり抱きしめる様な狼藉を働くつもりは無いのだけれど……。

 何でこんなに警戒されているのか。いや、嫌われているのかな……。


 結果、人一人、いや、一人半程の距離を開けて並ぶ俺と夏実。

 助けて。風巻さん、それか、大里!


「……風巻さんは?」

「化粧直し」


 ……結婚式?

 なんでも良いから早く出てきて欲しい。

 だが、次に現れたのも風巻さんでは無く。


「あー久しぶり!」


 突然、夏実が声を掛けられる。

 相手はチャラそうな茶髪。クラスの知り合いでは無さそう。

 では、中学か、それともジムか。その辺の知り合いだろうか。

 一メートル程離れた所で行われる二人のやり取りを眺める。


「え……っと、誰?」


 夏実が戸惑いながら答える。


「やだなー、覚えてない?

 なら、その辺でお茶しない」

「いやー……」

「ほら、あれ。

 あの後どうなったかとか聞いてないし」

「あのー……」

「それから、アイツ。アイツ最近さ、超ヤバイの」

「うー……」

「なんつーか、マジヤバイんだって。

 取り敢えず行こう」


 俺に背を向けた夏美の左手が、下向きのままパタパタと俺を呼ぶ……呼ばれてるんだよな。

 とりあえず彼女の側へ。


「ん? 誰?」


 チャラそうな男が俺に気付き睨むように問う。


「えっと……彼氏!」


 夏実がそう答える。


「彼氏?」


 何故か信じないチャラ男。

 まあ、嘘なのだけれど。


「彼氏」


 よくわからないけれど、その嘘に乗ってみる。

 チャラ男が訝しむ視線を寄越す。

 何故か言った本人である夏実も目を丸くして俺を見ている。


「ふーん、あっそ」


 俺を一睨みして、チャラ男は去って行く。


「……知り合い?」

「どう見てもナンパじゃん! もっと早く助けてくれても良いと思う」

「ごめん」


 取り敢えず、距離を詰め彼女の横に立つことに。

 彼氏だから。


「ありがと」


 俯きながら言った夏実は、言葉とは裏腹に俺から離れる様に首を横に傾け、まるで二人を遮る様に左腕を上げ頭を押さえる。

 それが、やはり拒絶の様に思え、横に一歩ずれ距離を置く。


 すかさず距離を詰める夏実。


「えっと……」

「……また来たら面倒だから離れないで」

「あ、はい」

「でも、あんまりこっち見ないで」

「はい?」

「……頭臭いから……染めたばかりで」

「……全然気にならないけど?」

「嫌。気になる」


 何だ、こいつ。

 最高かよ。


 別に避けられていなかったと言う安心感と、妙に可愛く見える夏実の行動にニヤける口元を押さえる。

 そして、そんな様子を遠巻きに伺う人影を見つける。

 デパートの柱の影から半分顔を覗かせる風巻さん。


 ……何してんだ。


 ────────────────


 御楯頼知>右斜め前の柱


 ────────────────


 取り敢えず、夏実にその存在を明かす。


 ────────────────


 なつみかん>何してんだ。アイツ

 御楯頼知>どうする?

 なつみかん>置いてく?

 御楯頼知>流石にそれは

 なつみかん>よし。移動しよう

 御楯頼知>は?

 なつみかん>着いて来て

 御楯頼知>いや、でも

 なつみかん>良いから


 ────────────────


 夏実がスマホをしまい、歩き出す。

 どうすれば良いか戸惑う俺。

 風巻さんに声をかけようか。

 だが、それより前に夏実が引き返して来て俺の手首を掴む。

 そして、無理やりに引きずって行く。


 突然、街中で手を繋ぐと言う事態にドギマギする俺はされるがまま。まあ、厳密には引っ張られているだけなのだけれど。


「怒ってるの?」


 かなり早足で歩く夏実の背中に問いかける。


「全然?」


 僅かに振り向いた彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべる。

 そして、センター街の入り口で曲がり立ち止まる。スタバの前に身を隠す二人の前を風巻さんが通り過ぎる。


「リンコー!」


 夏実がその背に声をかける。

 ハッとして振り返る泣きそうな顔の風巻さん。


「うわーん。何で置いてくんだよー」

「アンタが覗き見してるからじゃん!」

「二人でホテル街へ消えたかと思ったー」


 両手を広げ夏実に抱きつく風巻さん。


「バ、バカ!!」


 真っ赤な顔でチョップをお見舞いする夏実。

 取り敢えず、聞こえなかった事にした。


 そのままスタバで休憩する事に。

 混雑する店内で運良くテーブルが空き、三人腰をかける。


「で、いつから見てたわけ?」

「えっと、ヨッチが美人さんにナンパされて断った所から」

「いや、ナンパじゃ無い」

「え? 知り合いだった?」

「全然知らない人」

「じゃナンパじゃん?」

「なんか、そう言う感じじゃなかった」


 夏実から助け船。


「と言うか、私が行くより前から見てたって事?」

「てへっ。

 ほら、私、メイドだし。

 メイドって家政婦じゃん?

 家政婦の役割って、見ちゃう事じゃん?」

「いや、その理屈はおかしい」

「まあ、そう言う訳でそろそろ行こうかなというタイミングで今度はアンコにナンパですよ」

「アイツ、マジムカつく」

「彼氏が隣に居てナンパされるなんて、ダメだよ? ヨッチ」

「いや、彼氏ではない」


 被せる様に否定する。


「さ、帰ろう」


 三人のカップが空になったタイミングで立ち上がる。


 この話は駄目だ。

 このままだと感情に歯止めが効かなくなる。

 瀬織津比売の言葉が無ければ、そうしてしまっても……良かったのかもしれないけれど。


 ◆


「こんちゃーす」

「ちわっす」

「こんにちわー」


 三人揃ってSF研究会の部室へ。


「こんにちわ」


 何時もは無言で出迎える部長だが、その日だけは違った。

 本棚の前に立ち、そこに並ぶ文庫本の背表紙を眺めて居たのだろうか。


 卒業を控えた部長は、本来登校はしなくて良い身分。

 だが、今日は大学合格の報告に来たそうだ。

 それを大里が部室へ呼び出したのである。

 目的は合格祝いを上げるため。


「これ、三人と、レアーからです」


 大里が紙袋を渡す。


「気に入らなくてもメルカリで売れると思います」


 身も蓋も無い大里の言葉。

 だが、そう言っておけば例え本当に気に入らなくても重荷にならないのだろう。上手いな。


「例え私が使わなくても、知り合いに譲るわよ。

 開けて良い?」


 苦笑いを浮かべながら部長が紙袋を受け取る。


「ええ。気に入ると良いですけど」


 心配そうな夏実。


「……ありがとう。大切に使うわ」


 袋からバックパックを出し、それを背負い満面の笑みを浮かべる部長。

 それが、四人での最後の部活となった。


 ま、部活らしい事なんて一切してないけれども。

 過去も、多分、未来も。


「新しい部長、決めないとね」


 三人になった部室で夏実が言う。


「僕、やるよ」


 押し付け合いになるかと思ったが大里が立候補した。


「元々僕が誘った訳だし。

 それに、あの席座って見たかったんだよね」


 そう言って大里は部長席へ腰を下ろす。


「良いかな?」

「大里が良いって言うならいいけど」

「そうね」


 こうして、次の部長も決まり新たなる1ページ刻む我らがSF研。

 と言っても特にやる事も無く。

 本棚から引き抜いた文庫本。

 助けられなかった生贄の漫画。


 一体これは何を暗示しているのか……。

 向かいに座る黒髪が俺の視線に気付き首を傾げる。


「帰る?」

「あ、うん」

「じゃ……一緒に帰ろうか」

「うん。大里はどうする?」

「僕はもう少し居るよ」


 部長席で交通標識の載った参考書を広げながら応える大里。

 アンキラに顔を出そうかと思って居たが明日にしよう。


「じゃ、お先」

「じゃーねー」


 前に一緒に帰った時は随分と浮かれたのだけれど、今は手放しでは喜べぬ。やはり、瀬織津比売の言葉が暗い影を落とす。

 近々会いに行こう。

 だが、その前に期末テストだな……。

 温泉帰りだと言う母親の土産、マカダミアナッツチョコを頬張り机に向かう。

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